60歳の手紙
狙った獲物は必ず仕留め、その世界に武岡ありと言わしめるいつも口を尖らせ渋い顔をした初老の男。
若かりし頃には日本男児たるもの強くあらんとして道場へと通い詰め、柔道、空手、合気道、剣道、日本拳法、すべてに段を持つ。
28歳の頃、留守中に妻と子が家へ押し入った熊に食い殺された経験を持ち、悲しみに打ちひしがれ翌年には猟師の免許を取得し熊専門の猟師として現在まで生活。
炊事中の妻が子を守ろうとした際、咄嗟に所持していた包丁で切り付けた傷が熊にある筈と、それだけを頼みの綱に僅かな望みに賭けて長年探し続けていた。
一昨年にやっと顔に傷を持つ熊を見付け、熊の範疇を大きく超えた余りの巨大さに少し戸惑いはしたが仇を討てるという喜びは家族を失った思い出と悲しみも興奮へと変わり、仇だというのに長年で染み付いた一級品の猟師の技と心が自然と冷静沈着に対処させた。
茂道は心の中でこう呟いた「仇だってえのになあ・・あんなに憎くて仕方なかったってのになあ・・不思議だなあ、妙に心が晴れてらあ・・・」
その日既に猟をこなし帰り支度をした日も暮れ始めた黄昏時で、少ない弾薬の中で脳を狙いさすがの茂道、神業といえる同じ個所へ三発全弾命中。
それでも化け熊は倒れず、鈍いながらも動けたが最後は合気の技で転ばせ、柔の技で手と腕をへし折り、それでも呻く熊を最後は空手ともつかぬ全体重と執念を乗せた踵の踏みつけを顔へ何度も何度も叩き落とし呻きすら上げなくなっても尚、日が完全に落ちきる頃まで我を忘れて繰り返した末に完勝を果たした。
翌日妻子の眠る墓に参り、こんな生き方を選んだ自分は優しかった妻には怒られこそすれ喜ばれはしないだろうなと思ったが屈んで手を合わせて「とうとう、終わったよ」と、勝利を報告した。
すると閉じた瞼の裏に妻と子の笑顔が浮かび、こう聞こえた気がした。
「そいつじゃないわよ」
その時やっと、長年忘れていた笑みを取り戻した。
むしろ狂ったように笑った。
そして今に戻り、茂道は剣と魔法の世界に居た。
ベテランの最初で最後の不注意だった。山で獲物を追いかけ崖から滑り落ちてる咄嗟の最中で神隠しに遇いここに居るのである。
そして茂道は世界が変わろうとも、変わらないいつもの顔でこう呟いた。
「・・・・獲物はどこだい」
どこだろうと何の問題もない、ただ日課をこなすのみである。
ここから茂道の新たな物語は始まる。
次回、幼女エルフ(年上)に銃を教える~幼女手始めにゴブリン殲滅ののち茂道死す!デュエルスタンバイ!の二本立て。




