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1:始動

下敷きは信長の野望・創造 戦国立志伝。とはいえ、ゲームとは違う世界だったり、知っていることと実現できることは別だとか、なんだかなぁ状態。幸いなのは独りぼっちではないといったところだが、いいことだけではないはず。どんな結末になるかは全く決めていません。指の動くまま、気の向くまま。不定期連載となりますがよろしくお願いします。

【報告】2016年11月23日、改題します。

天文一三(一五四四)年 卯月六日

 「……こういう展開ね」

 気が付くと、農村。とある小説の冒頭が「トンネルと抜けるとそこは雪国だった」とあるが、えらく緑の匂いが濃い。人影こそ見えないが見渡す限り、文明の利器一部であろう電柱や電線、アスファルト舗装の道路などない。それどころか、山肌に鉄塔も見えないし、コンクリート製の建物などもない。

 思わずポケットのタバコを探ろうとするが、服装そのものも違う。

「はぁ……泣けるわ」

「若! いらっしゃいますか!」

 木陰から若い男の必死そうな声。あの声は確か……。

「空海、そんな大声出すなや。この辺の獣が逃げてしまうぞ」

 息を切らせながらやってきたのは案の定、家の菩提寺の小僧だ。いや、将来の住職なら小僧じゃないのか。

「学問からお逃げになるのはやめなされ。地空様や宙興様がお怒りですぞ。」

 ……どこかで聞き覚えのある名前、と思っていたら、転生直前までやりこんでいた某歴史シミュレーションゲーム、軍神の野心の登録武将名だ。転生というか、ゲームの世界に紛れ込んだのか。

「空海、もうしばらくしたら戻る。待ってろ」


 呼びかけに答えず何も考えなくぼーっとしているように見せかけながら、必死で状況を把握しようと記憶をふり返る。幸い、今まで過ごしてきた記憶は多少残っているのと……なんで頭の中でi○adが起動しているのだろう。試しに動かしてみると……動くじゃねぇか。しかもあれか。現代知識とリンクしているという……。

(こりゃ、チートとかのレベルじゃねぇな。とはいえ、技術は分かっても、作ったりはできないなぁ……産業の育成をしねぇとな)

 流れる雲を見ながらも、頭はフル回転させている。来てしまった以上はどうにか生き延びなければならない。煙草がないのは業腹だが、仕方がない。


 肥前国桜馬場……近くに諏訪大社の分社がある。山ばかりの地形だ。そこの小領主、日野家。

 どうやら俺はそこの次期当主らしい。もう少し記憶を探っておかないとなぁ。

 祖父・今は似非出家して如水と名乗っているようだ。似非といったのは坊さんでありながら、領主業務をこなしているからだ。年齢は54才。この時代からすると高齢であるが、まだまだ元気だ。

 如水の下に五人の兄弟がいる。長男が且元……板挟みになりそう名前だが、彼が俺の父親のようだ。次男が高次は近隣の室町家に婿入りしている。以下、鎌倉一馬、奈良東司、飛鳥西斗と続くが、苗字が冗談すぎる。もしその下にいるとしたら平城なんたらとか平安うんぬんとか言われるのだろうか。まぁいいや。

 俺が長男なんだが、上に希美という姉、妹に月照、紗耶香、星鳴の妹がおり、爺さんと異なり女優勢の家の中のようだ。そして小領主ながら、家臣団らしき者がいる。日野家に出入りする商人、本河内家。そこの嫡男が同い年ながら優秀らしい。正助っていっていたっけ……引き抜くか。後は菩提寺、日翔寺住職、北天翔地空。京から戦火を逃れるために母親の縁を辿ってここまで逃げてきた茶人、南海宙興。そして、地元の漁師の息子だったが学識に優れていたから、地空の養子となった西東空海……。

 全部俺が作ったキャラじゃねぇか。なんなんだ、この世界。

 空を眺めながらも、自分の痛い所行に身もだえしていると、空海が声をかけてくる。

「若、戻りましょう。いかに若が学問から逃げ、地元の若者とじゃれ合って野山を駆け巡っても、尾張の信長公にはなれませぬぞ」

 ……ん? ちょっと待て。今は天文13年《西暦だと1544年》だぞ……。もしや……。

「空海」

「はい?」

「吉法師は那古屋城主だが、まだ上総介なんぞ名乗っておらんよな? ましてや元服もしていないのに、信長とか名乗ってたらおかしいじゃろ」

「へっ?!」

 俺の一言に豆鉄砲を喰らったような表情になる。そして、空海は確実な言葉を漏らしてしまうのだ。

「まだ信長じゃない……」

「あ~やっぱりね」

 俺が汗をかいた首筋をポリポリと掻きながらあくびをする。そう、まるで大したことないとでもいうように。

「ということは、鉄砲は薩摩あたりに入ってきているが、本格的な普及はまだ。キリスト教に至っては、宣教師がまだ東シナ海をさ迷っているといったあたりだな」

「……何だよ、お前も日本史マニアか。それとも頭の中のタブレットか?」

 急にタメ口になる空海。しかし心底安心しているようだ。

「両方だな。それにしても、平成から天文……昭和やら大正、明治すら遠い過去なのになぁ」

「平成からの転生か。俺も気が付いたら坊主だ。正直ビビったよ」

「そうか。俺もビビっている」

 空海はどうやら、俺の作ったキャラに憑依している感じだ。

「他はいるのか?」

言うまでもなく、他の転生者の存在のことだ。いきなり最初の出会いで都合が良すぎる転生者との遭遇、二人はいないだろう……。

「怪しいのはいるけどなぁ。」

……いるんかい。

「迂闊に転生者?なんて口を滑らせればヘタな魔女狩りより酷い目にあいかねん」

 やはり心配になるのか。そりゃそうだ。中世ヨーロッパの魔女狩りとそう大差のない時代だ。異端者、というより余所者は排除されるような時代だ。時代的な余所者なんて鬼・怨霊扱いだろう。辺りを憚り小声だが、嬉しそうである。

そりゃそうだろう。いきなり過去世界の飛ばされ、この時代の知り合いはいるが転生者がいない状況。そんな中に同じような転生者が自分の主君(?)として来訪した。安心であろう。

「怪しい? 誰だ?」

「あんたの妹、瞳様だ。今は出家して月照と名乗っているがな」

「ああ、あの根暗の変人か」

「あんた、妹に容赦ないな」

「今の俺には妹という知識はあるが、実感がない」

「だよなぁ」

 だらだらとした会話であるが、自分の知っていることの確認にはちょうどいい。

「で、俺は当主になれそうなのか?」

「……今のままだと、廃嫡される」

 俺の改まった口調に気圧されたのか、空海の口調が震えるが、真実を告げる。

(まぁ、また(・・)学問から逃げて、とか言われていたら、ダメ息子じゃねぇか)

 顎に手をやり、どうしたもんかとさする。

「……時間をかけて、性根が変わったと見せかけるしかねぇな」

 空海はやけに嬉し気に言う。

「なんかノリノリだな。」

「そりゃ、事情通が来たとなればな。どうせ来たんだ。なら、その世界で名を馳せてやろうかと思ってな」

「とんだ生臭だな、おい」

「そういうな。さて、若。桜馬場の館へ戻りましょう。且元様がお怒りです。」

……とりあえず、雷を甘んじて受けるとするか。

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