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30:鹿島

話そのものは実は昨日出来ていたのですが、サブタイトルで苦戦しています。真田丸のように二文字限定はつらくなってきました>< でもどこかで二文字限定を崩すとなると、作品全体も再構成が必要になるかなぁ……。

弘治二(一五五六)年神無月十五日


 ……何だろうか、この空虚感。いや、分かってはいるのだ。戸次伯耆守鑑連の死。それが多少なりとも俺に影響を与えているのであろう。

 龍造寺隆信の時ほど恐怖心はなかった。だが、凄まじい喪失感を味わっていたのだ。

「彼の者は真の忠臣であった。」

 俺はしみじみ呟く。

 彼がいなければもう少し楽出来たであろうし、彼が日野家の家臣となれば俺自身はもっと楽も出来たであろう。だが、グダグダな主君ながら、身命を賭した戸次伯耆守に対して、畏敬の念しか存在しない。

「……殿、感傷に浸るは別に構いませぬが、そろそろ再編成をしなければなりませぬぞ。」

 空海がお節介だろうなぁ、と思いながら言う。空海とて、多少浪漫を感じる男故、君主の思いに対して口は挟みたくなかった。だが、家宰として、敢えて言わなければならない。

「現在、我らは旧龍造寺領の過半を制しております。凡その表高は約40万石。望外の石高ですが、実際は統治が始まっておらぬ故、実質は三十万石弱です。まぁ、当初の日野家から考えれば大躍進ですが、軍の編成などを行わないと、相当まずいでしょう」

 そうだった。少弐も松浦も併合した今、軍の再編を行わなければならない。人別帳が整い、領国の整備が進めば実収百万石にもなろうという地であるが、現在はまだまだだ。

「現状でどこまで軍を編成できそうか」

 俺の問いに、空海は渋い顔をする。

「練度抜きで考えれば、一応の目安として一万石に尽き二百五十人。これは後方支援も含まれますれば、純粋な戦力としては一万石につき百人が限界。精々が追加で四千人も増やせれば上等でしょうなぁ。」

「思ったよりも少なくないか?」

「今の日野家の状況を基準にして考えてはいけません。我が日野家の内政の充実プリは異常です。本来の実収は精々が三万石程度なのです。それを、無理矢理というか、未来知識を用いて実収二十万石相当跳ね上げておりますれば」

 さらに相場荒らしと交易で四十万石相当の実力を手に入れていたということか。チートじゃないチートじゃないとぼやいていたが、一応はチートではあったのだな。

「なので、再編成するとしたら、余裕をもってやっと一万を超えます。但し、新たに加わる四千は、海の者とも山の者とも定かではありませんが……」

 空海の危惧、それは分かる。今まで共に戦ってきた同士とは異なる。

「……それでも、編成は行わなければなるまい。」

「左様ですな。問題は、既存の兵と混ぜるか、新部隊は新部隊として編制するかですが……」

「混ぜる。今までの凝り固まった考え方をぶち壊すためにも、それしかあるまい」

「分かりました。そのように差配致します。」

 そう言うと、空海は伝令を呼び、二言三言交わす。


 新たに加わった領土は多い。松浦家が率いていた松浦郡と平戸はかなり大きい。そして、波多水軍の存在。日野家に白旗を挙げていたのであっという間に併合することができたのは幸いだ。そして、旧少弐家。最早大名として存在することがかなわない程の弱小勢力だ。一部の反日野派は既に龍造寺に合流している。伊万里も版図に加わり、日野家は百万石に乗るか乗らないかというところまで迫っている。

 そして、現在ほぼ真正面に見える肥前鹿島城。ここを手に入れると確実に表高は百万石を超える。

 だが……。包囲を固めつつ、再編成を行わなければならない。それを考えると、実はとても厄介なことに気が付いた。

「もしかして、少数で籠城戦を行う羽目になるのでは?」

 そんな恐怖を感じた。

 現在の龍造寺家は、国人衆の離反が起き始めており、三千弱まで落ち始めている。だが、大友がいる。軍事的支柱と言われた戸次の喪失は確かに大きいが、有力家臣団・国人衆の存在はまだまだ健在だ。おそらく最大で三万前後は動員できるであろう。そして、再編成が終わるまでは、日野家は現存の凡そ五千を中核に戦わないといけない。補充と新規徴兵にどの程度時をかけることができるか。

「……和議を結べるかのぉ」

 鍋島清房が言う。

「……大友が飲みたくなる魅力的な条件が必要でしょうなぁ」

 日野光秀が返す。

「条件ねぇ……どのような条件だと飲むか、だが……」

 俺の言葉に、清房も光秀も頭を掻く。いい手が思い浮かばないのだ。

「まずは龍造寺と大友を分断したいねぇ」

 龍造寺四千弱と大友四万.合わさるとめんどくさい。分断できるなら分断したいものだ。

「……日之江から肥後に、牽制の兵を送る。送れる兵は凡そ千程度だろうが、偽兵の策をもって揺さぶる。阿蘇家は島津の猛攻を受けているので青息吐息だろう。大友は阿蘇家の旗頭。ここで後詰できなければ大友の信頼は地に落ちる……。さらに言えば、日向。伊東に策を授け、土持の足止めに徹する。さらに……陶家。今久龍叔父が立花山への侵攻を進言している。これも少数であるが、大友家の牽制には十分に効果があるだろう。」

 絵地図に次々と駒を置いていく。この段階で既に二方面どころか多方面作戦になってくる。各個撃破にかかってくるか……。

「さらにもう一手。これも使い古した手であるが、宣伝も兼ねた慰撫工作。」

「……土木王国、日野領の面目躍如ですな」

 清房がニヤリとして言う。

「まぁ、今更だがな。日野家の統治に入った村落には三年無税。そして日当制で石堤防の導入、肥料の改良、作物用の種の配当、治水堤の大規模作成を、大量の銭を用いて行う。」

「さらに調練も兼ねて、猪・鹿狩り、各種食物の育成方法指南……」

 光秀が追加で挙げていくのに満足そうに頷く俺。流石は出来人、明智十兵衛。いずれは独立管理者として明智太宰少弐の名で自立させてあげたい程だ。

「で、ついでというわけでもないが、毛利には経済戦を仕掛ける。戦略物資、塩の大量投入だな。」

 ようやく流下式の塩を使う場面が出てきたわけだ。

「格安で日野領産の塩が大量に流入するわけだ。」

「そして相場が暴落し始めたころを狙って、他領の塩も併せて大量に買い取る、と」

 その辺は分かっているのか、空海も口を挟んでくる。さらに、

「同時に、協力的な寺社に対しては、寺社銭を渡し、地方統治と教育を担わせて、切支丹対策を行う……日野家に反抗的な寺社勢力の監視を行ってもらう。豊後、豊前、筑前、筑後、北肥後に広がりつつある切支丹勢力の牽制」

「後は反抗的な国人衆の徹底殲滅ね。……宴会でも装って、焼討と銃撃……場合によっては不幸な病死(暗殺)もありかしらね。」

 瞳が冷たく言い放つ。

「そんなものだろうなぁ。今回ばかりは本河内だけでは手が足りないだろう。末次興善(すえつぐこうぜん)島井宗室(しまいそうしつ)にも連絡を。今回は博多商人衆にも乗ってもらわねば、動きが鈍くなる。他にも堺衆や廻船問屋などにも手を回して、本格的、大規模な相場戦に突入する。」

 俺の一気呵成の言葉に、それぞれが動き出す。また、人手が足りなくなるのではないだろうか。

「そちらはよくわからんが……三郎、お主はそちらに手を貸してやれ。」

 鎌倉肥後守が言う。日野鉄斎、鎌倉一馬は肥前鹿島攻略の担当だ。というか、内政担当としては心許ない。


 現状、内政や外交、謀略に携わる日野家(おとな)衆はそんなに数多くない。

 家宰の西東空海。補佐役の日野瞳と鍋島清房。日之江担当の西郷清尭(すみたか)と日野如水。日野家総代官の日野光秀と日野希美。内政補佐の日野星鳴。軍事担当が俺、日野鉄斎、鎌倉肥後守、奈良三郎、元服して間もない鍋島直茂だが、三郎叔父は今や内政担当官としてもばたばたしている。

 他にも旧有馬家家臣団に所属していた安富清治(やすとみすみはる)清泰(すみやす)親子が中級管理者として活躍している。また、日野家に降った松浦家の嫡男、松浦鎮信(まつらしずのぶ)は人質として桜馬場城で生活。元少弐家の執行種兼(しぎょうたねかね)が西郷清尭・日野如水の補佐役として日之江に赴任している。

 より多方面で内政も外交も謀略も行うのであれば、さらに人員は増やしていきたいところだ。


「大友家で一番近くにいるのは……筑後久留米城の高橋鑑種(たかはしあきたね)か……切り崩せんかねぇ」

「大友家の庶流ですか……味方にするか、死んでもらうかで対応が変わると思いますが。」

 瞳が淡々と言うが、実際武将調略はこんなものだ。後は追放されるかなのだが……。

「……周りの国人衆という外堀を埋めて、大友家より日野家に付かなければ命が危うい、というのがいいなぁ。そして安定化したところで……仕えるならそれで良し、仕えぬなら……な」

「ではその方向で。」

 ものすごく遠回りに見えるが、今回の龍造寺攻略は、徹底した包囲殲滅戦を考えている。肥前鹿島と村中の分断、そして連合を結んだ大友と龍造寺の分断。さらには宗教的にも分断を行いたいところだ。

 軍の各個撃破は、それなりの精鋭が揃う大友に対して行うのはちょいと骨が折れる。各個撃破をしやすくするために、宗教と経済面、そして国人衆という被支配層からの揺さぶりを今回は選ぶ。

 まだ国力比は一対十あるのだ。当初の一対百?二百?からすると、かなり格差は縮まっているとは言え、やはり正攻法では勝てない。


「ここまで徹底してやるか」

 隆信は家臣団と客将である江上、小田、神代を加えて肥前鹿島城で軍議を行っていた。

 対日野家戦術。戦略ではない。戦略を練るにはこう見えても劣勢状態なのだ。領内の相場が完全に暴騰と暴落の波に飲まれ、必要最低限の備蓄すら危うい状況だ。

 それぞれの家臣団が統治する土地も、不穏な空気が流れ始めている。

「遠江守、敵軍は少数でありながら三ヶ所に分かれて陣を配置しておる。これは各個撃破の好機ではないか?」

 隆信の下問に、納富は静かに首を横に振る。

「相手の狙いはそう思わせることでしょう。この三砦の配置、絶妙な距離を保っておりますれば、何れの砦に攻めかかったところで、横と後ろから挟撃を喰らいます。日野家の戦術は、挟撃、夜襲、鉄砲の集中運用、野戦築城と単純ではありますが、単純ゆえ、運用が比較的容易いように思われます。」

「……三ヶ所同時……は無理でしょうなぁ」

 小田正光の呟きに、神代がはっと気づく。

「等しく戦力を分断する必要はないのでは? 傾斜配置を行い、まず敵の主軍を討つ。そして残りに軍を討つというのは……」

 神代の発言は理には適っているのだが……。

「そううまくいきますまい」

 隆信の弟、信周(のぶちか)が言う。

「傾斜配置を行ったところで、日野家は例の野戦築城と鉄砲集中運用があろう。それを考えると、傾斜配置を行って、少数の軍は持たないのではないか?」

 信周の言も正しい見方。

 龍造寺家就(りゅうぞうじいえなり)が静かに手を挙げる。

「先の戦では、日野は焼き石投石を行い城を焼いた上で、戸次伯耆守を炙り出し、討ち取ったと聞いております。籠城も得策ではないでしょう」

 様々に意見が出、どれも一長一短、帯に短したすきに長しの案だ。

「周辺の国人衆に焼討をかけさせるのは……」

「無理でしょうな」

 江上の案は納富に一蹴される。

「農民たちも純朴に龍造寺家に従っているわけではない。日野と龍造寺と天秤にかけ、有力と見た方に力を貸すさ。」

 この当時の農民たちは、一般に思われている武士に搾取される存在ではない。生き延びるためには強かに、同じ村落でも派閥に分かれてみたり、気に入らない領主には反抗してみたり、逃散してみせたりと徹底している。

 龍造寺家は長年かけて慰撫してきた実績があるのだが、日野家の経済攻勢の前には、脆いものであった。

 既に各国人衆の間を回り、日当制の道路工事などの受注を出している。しかも、芸が細かいことに、反日野系の領主がいるところでも募集をかけているのだが、そこのところは若干日当を安くしている。この若干の差が、国人衆の連携を容易く乱していく。文句を言っても、

「そりゃぁ、日野様に対して好意的か否定的かで出る金は変わるでしょう」

 あっさり躱される。嫌ならやらなくても良いのだ。強制ではないのだから。

 農閑期に入っている農民にとって、この日当制の仕事は正直有難いが、同じ働きなのに金額の差が出るのは耐えられない。そのような動きがあって、国人衆達は領主に圧力を掛けていくことになる。

 いかに精鋭部隊を有しているといっても、足元が揺るげば出陣すらままならない。龍造寺に忠義を果たそうとしても、配下が動けなければどうにもならないのだ。

 同じ方法で仕返し……なんてできない。経済基盤が違いすぎる。日野領にも多少耳目を送っているが、町人の日常の食事からして大違いなのだ。城には入れないが、そのようなところからも、仕返しは不可能と判断せざるを得ない。


「大友もそう簡単に大軍を出せると思うなよぉ」

 俺は大分調子に乗ってきたようだ。

「親日野家には厚遇を、反日野家には冷遇を!」

 民を徹底して味方に付けるとどうなるか、ここでそれを見せつけてやる。大国だろうが何だろうが、殖産興業を成し遂げている日野家の勢いを見せつけてやる。


……何だろう、大名やっているはずなのに、気分的に商人エンドになりそうなこの予感は。まぁいい。さぁ、龍造寺山城守、俺のこの一手に……どう返す?

やっぱりこのパターンか、という内政攻撃ですが、現実的な攻勢なのかなぁと。内政チートを使える以上使い倒さないとやはり損かなぁ、と思います。地図は……つくる気力が起きたら作ります。

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