13:融和
グダグダな文章ですいません。グダグダな内容ですいません。すいません……本当にすいません。
修正:日野家の総兵力、下方修正しています。流石に、一万なんて無茶です。ご指摘感謝です。
天文一七(一五四八)年長月四日、肥前国桜馬場城
場内がざわめく。
謀反人、日野龍哉来たる、の報だ。
且元傘下の国人衆たちは「好機」と言わんばかりに刀槍の準備をしようとするが、且元に一喝される。
「儂が無能者として世評に扱われるのは良い! じゃが、卑怯者の謗りを受けてしまえば……この日野家は立ち行かなくなる」
その言に、血気に逸る国人衆達も鎮まる。そう、いかに嫡子と相争おうと日野家を滅ぼすような風聞を流されては堪らない。
且元の思いに、日野家の発展というのが未だに残っている。蟠りがあるとすれば、それは異端児たる嫡子だけなのだ。
久々に訪れる評定の間。見慣れた家臣団達が警戒をしている。表向きは一人であるが、そこは勝手知ったる桜馬場城。万が一の時にも対応はある程度できる。
出された茶を何杯も飲み干しながら、悠然と待つ。毒殺など、どうということも無い。毒殺を謀れば、所詮はその程度の男だった、と諦めもつく。それくらい、龍哉は達観していた。
(親父……どう手を打つ。最早俺に対抗できる兵力はいないはずだぞ)
持参した大量の茶菓子の一部を食し、さらに茶のお代わりを要求する。その図々しさに、且元家臣団は苛立っている。
これも挑発の一種。そして、暴発を治めることができるかの試金石でもあった。
(全軍の統率は無理でも、手元の兵たちへの薫陶は見事なものよ。如水の爺さんがくだらないことをやらかさなければ……)
足音が聞こえてくる。
……来たか。
平伏はしない。俺は敗者ではないのだから。威風堂々、胸を張って親父を迎えてやろう。
そして……。
「日野且元である。」
「日野肥前史生」
短く言葉を交わす。
……ん? 思ったより表情が穏やかか?
しばしの沈黙。
「……儂はお主を廃嫡した」
「残念ながら、実権を持っている方はそれを御認めにならなかった」
軽い口撃に、口撃で返す。
「儂は日野の当主ぞ。」
「左様ですな。日野の当主でしたな」
既にお前は当主ではない、そう言い切る。
「何故お主のところに、高次や東司がいる。何故、お前の下知を受けておる。今回の軍の主将は儂ぞ」
「勘違いなさいますな。某は軍令を無視したことは一度もございませぬ」
俺の一言に一瞬黙り込む。確かにふり返っても且元の軍令に背いてはいない。
「ならば、高次や東司、一馬たちに腹を切らせる必要があろう」
お前は背いていないが、他の連中は且元の軍令に背いた。軍令違反は明確である。とでも言いたいのだろうか。
「ふっ、軍令を発する主将たる者が、肝心の戦の最中に軍を引く……主将たる資格なし、とでも判断されたのでしょうなぁ。そのような愚挙を棚上げにして他の将の責を問うとは……赤子の理屈ですな。」
「ぬっ……貴様!」
「ならば、何故撤収された。何故撤収された理由を発せられなかったか。何故某を除き、全軍に召集をかけたか!」
且元に下らないことを言わせている暇などない。
「そもそも、某が奇矯な行動を取っていたのは六年程前の話でござろう。それ以降は身を慎み、日野家発展の為に粉骨砕身働いたはず。それに報われたのは鳥屋城と以南の切り取り勝手のみ」
「……嫡子に厚遇するわけにはいかんだろ。他の豪族との兼ね合いも考えよ」
「それを考慮したとしても、割に合わなすぎまする。まぁ、話が逸れ申したな。戦場からの撤退は、如何な理由があれど切腹ものですぞ。」
そういうと俺は茶をさらに所望する。
「出さんでいいぞ!」
「いや、所望させていただこう」
且元の怒気と俺の平然とした口調に挟まれた家臣は可愛そうであるが……。
「日野且元は会談に及んだ際に湯茶をも惜しむ小さき器か」
と冷笑する。
「……持ってきてやれ」
小さな器で反応か。そこが且元の負の心を刺激するところか。
「且元殿。某はここで長々と過ごすほどの暇はござらんよ」
さらに煽ってみる。
「鳥屋城は今や日野領の流通の中心地。決裁事項が多すぎましてな。野母崎の方まで勢力圏は広げましたが、とてもとても足りませぬ。」
「……で?」
「降伏か切腹か討死か、ですな。追放などありえぬものとお思いください」
(……相当覚悟を決めてきたか)
且元は平然と、冷徹に言葉を発する龍哉に表とは裏腹に冷めた分析をしていた。
(じゃがな……ここで引くわけにはいかんのさ)
廃嫡しようとした嫡子へ頭を下げる、それは誇り高い且元にできることではなかった。
とはいえ、今や日野領は且元無しでも十分回っている。いや、悔しいことに且元が当主として差配をしていた時以上に、この地は盛んとなっている。
さらに島津との交易、同盟。
(実績は認めんわけではないのだ)
そこまで狭量では無いと思っている。だが、幼き頃の奇矯な行動により面子を潰されている。それだけはどうしても許せなかったのだ。
(ふっ、そうか。所詮は儂のその程度の小心者であったということか)
龍哉との睨み合いの中で、妙に穏やかな気持ちになっていく。
(廃嫡にこだわりしは……息子を恐れたということか)
そして、この現状。少なくとも恐れは杞憂でなかったということだ。
しばしの間。少しずつ且元の眉間から深い皺が無くなっていく。
「……儂はお主を恐れていたのよ。いずれ儂を殺しに来るのではないか、この日野家を乗っ取るのではないか。鳥屋に行かせたも左遷のつもりじゃった。軍を引き挙げたは……お主へのいやがらせじゃ。そして、お主を殺そうとした」
口調は穏やかになっていたが、面と向かって自分への疑惑をぶつけられ……つらい。
「……某の、幼き日の行動がそれほどまでに」
「ああ、子どものすること故、と周りは笑ってくれていたが、儂は我慢ならなかった。日野家の発展の為には如何なる瑕疵も許されない、嫡男たる者、模範となるべき生き方が求められておる、そのように考えておった。それを平然と踏みにじるそなたを……今でも許せぬよ」
……そんな爽やかに言われてもなぁ……。
「……父上、爺様の事は」
「……わかっておる。父は……野心家だ。某に対して物足りなさを覚えておったのじゃろう。」
「……如水様は完全に隠居です」
「当てにはならん。」
「且元殿、貴公は劣勢の中、一年にも渡り結束を固めて我らが軍と戦い抜いた。その手腕、見事なり。されど、同じ地元の民同士で争うのはもうやめませぬか。」
「……無理じゃな」
「父上!」
「落ち着け。お主が戦いを終わらせたいのも、儂を配下に組み込みたいのも分かっておる。されど、此度の仕置き、間違えると国人衆が分裂するぞ」
且元の言の意味は分かっている。謀反人に対して温情を与えるのはよくない、謀反しても許されると、そう考えているのだ。
「分裂しますかねぇ」
且元の危惧を笑い飛ばす。
「する。確実に」
「……ならば、これを機に大転封します。」
「転封?」
「そう。地縁血縁を断ち切ります。」
「それこそ大暴動じゃろうなぁ」
「そこは銭の力で……」
手で怪しげな仕草をしながら、いやらしく笑う俺。
「銭侍か」
話には聞いたことがあったのだろう。
「既に、鳥屋の将兵は銭侍化しております。逆らった者は……そういえば行方不明になった者ばかりですな」
(……従わぬ者は消す、か)
「そして、且元殿が下ってくだされば、全権力は私に集約されます。その中で逆らえる者はいますまい」
「……お主の直轄の兵力は?」
「約二千」
鳥屋以南の直轄領だけの話だ。
「いつの間にこの桜馬場に匹敵する兵力を……」
「鳥屋を頂く前から、布石だけは打たせていただきました」
「……儂の負けじゃ。完敗じゃ。」
且元が頭を垂れるが、俺も頭を下げる。
「父上におかれましては、不肖の某のうつけな行動により、多大な迷惑をおかけしたこと、心底より謝し奉りまする。また、その後の恩情に対しても、明確なる言をもって謝し奉ることができなかったことは、恥ずべき事。結果、このような事態となり、面目次第もございませぬ」
「……龍哉」
「厳しき師として、未熟なる某を御支え頂きたく……」
……口撃で屈服させたとしても蟠りは残るに決まっている。ならば、心底までさらけ出すしかあるまい。甘かろうがなんだろうが、親殺しの汚名は着たくない。
「……以後、某は鉄斎として、日野家三代目当主、日野肥前史生様の御指南役を務めさせていただきまする」
互いに頭を下げ合う異様な光景。
だが、これで一年に及ぶ「桜馬場の変」は終結を迎えた。
一説によると、「桜馬場の変」は茶番劇であったと提唱する者がいる。その背景に、「変」という割に死傷者がいない、処罰されたのは極一部の国人衆のみ。首謀者の日野且元すら、日野龍哉の家老として納まっている、など「変」としては被害がない。また、内紛としても、日野且元対日野龍哉の構図であるが、ほとんどの国人衆が龍哉についていたことで、被害規模は先の有馬の陣の方が余程多い。
ではなぜ茶番と言われたか。別の者は有馬や大村の軽挙を引き起こすための策だったのではないか、と説を出している。
一方で、いかに茶番とは言え、伊佐早平定直後、西郷寝返り直後という不安定な時期に行うのは博打が過ぎる、という反論も出ている。
「何はともあれ、これでとりあえず日野家は落ち着いたか」
無事に戻った俺の顔を見て泣き出す月照や紗耶香。え? そんなに心配されてたの?
「落ち着きましたなぁ。まさかの且元様の臣従……」
「互いに蟠りがあったのさ。互いにそれが落ちた。それだけの事よ」
相変わらず帳簿、決裁で俺のところに来る空海と言葉を交わす。
「その蟠りを落とすだけに如何ほどの時間と金をかけたことやら。」
空海がぼやくぼやく。支出が多すぎるからだろう。
この内紛で得たものはほとんどない。だが、ほとんどの兵たちに報奨金が出たのだ。
「あんなに旨いもの食って、温泉に入って戦ってもないのに金までもらえたぞ」
「あの不安はなんだったんだろうなぁ」
などと浮足立って土産を買いに行く兵卒たち。
「これで良い。これからは内に外に激戦の連戦だ。言葉は悪いが、安心して死ねるようにさらに金を稼がねばな」
肥前日野領転封の状況
天文一七年長月三十日
未だに居城を鳥屋にしている龍哉は、鉄斎(且元)、空海、月照、紗耶香、希美を集めていた。
「これは……叔父様たち怒るんじゃないかしら?」
今や日野直轄領の筆頭代官である希美が渋い顔をする。あからさまな左遷でなく、統治範囲も広がっているが、全員旧領から離れることになる。そして寝返った西郷、有馬に囲まれる位置だ。
「肥前史生に逆らうなら、逆らえばよかろう」
今や完全に龍哉の臣としてふるまう鉄斎が言う。
「西郷は本領安堵ですか」
空海の表情も渋い。敵将をそのまま、というのが引っかかるのであろう。
「これからよ、これから」
俺はにこやかに言う。これで長崎半島から西海大瀬戸までは何の障害もなく地続きの直轄領となった。
「希美」
「はっ」
いかに怖い姉と言えど、臆するわけにはいかない。姉もそれは分かっている。
「今後は街道の整備も行え。数年がかりになると思うが、任せる。」
「ははっ」
「鉄斎。」
「はっ」
「大瀬戸方面の開拓、産業開発は全て任せる。常に報告を行え。それと……大瀬戸琴海の日水寺住職、如水殿にもよしなに」
「……委細承知」
三人の叔父たちの転封先は、条件は比較的有利であった。これでおそらく三家合同で千近くの兵を確保できるだろう。これは今まで指揮していた兵力の凡そ同じ数になる。西郷家も最大で千八百だが、千は余裕で出せるだろう。精々盾として使わせてもらうさ。
そして俺の直轄領。表向きの兵力も凡そ二千五百を出せるだろう。若干人口が増えているからな。そして、山窩、河原者、避難民等々、秘蔵している兵力の存在がある。表向きの兵力と合わせて約五千といったところではないか。総数としては、総動員すれば一万、余裕を持った兵力なら五千、けして小勢力ではない。
「だが、まだ動けない」
守りや予備兵力も考えると、微妙に不足しているような気もするので、宣伝工作とある謀略を実行する。
翌年、天文十八(一五四九)年、龍造寺と少弐家で長きに渡る戦が始まる。衰退したと思われていた名門少弐と新興で勢いのある龍造寺。短期間で決着がつくと思われていたが、しぶとく戦う少弐に翻弄され、北肥前は長期に渡る戦乱へと巻き込まれていくことになる。
今まで叔父たちがどれだけ狭い領土で汲々としていたか、ということなんでしょうねぇ。心中はいかなるものか。完全に信奉したか、面従腹背か……。
【報告】2016年11月23日、改題します。




