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7:難儀

感想ありがとうございます。とりあえず肥前統一が終わったら、指摘のあった個所を加筆・修正していこうと思います。ただ、元は地元ですが、今や県外に出てしまっているので、地元武将についてはなかなか詳しく触れられないかもしれません。


【報告】2016年11月23日、改題します。

天文一五(一五四六)年卯月一日


「……方針変更だな」

 俺は頭を抱え込んでいた。決意の日から二年が過ぎようとしているが、献策した物で形になりそうなものは、石堤防による治水と島津との交易くらいだ。

 検地は血縁地縁がらみのところは何とかなるが、これから先は難しくなるだろう。それでも、ある程度の収支が明確になったのだからよしとしよう。

「太閤検地、ってわざわざ頭に太閤がつくだけのことはあるわなぁ」

 空海もぼやく。おそらく石田三成や長束正家、増田長盛達五奉行の偉大さが身に染みているのかもしれない。

 品種改良は……正直きつい。どんな品種をどのように掛け合わせるか……気が遠くなりそうな組み合わせと時間を指摘されると、対処法がない。

「品種改良はもっと予算と人手ができてからね。それより楽して収穫量を増やせるものを探しましょう。」

 月照はやや前向きだ。品種改良ができれば革新的なのだが、流石に無理か。取れ高三万石全て使えるならいいのだが……。

「とりあえず、粟、稗などの商品外作物を育てさせよう。後は……大豆か」

「そうだなぁ。大豆は……大豆そのものもいいけど近隣住民にはもやしとかも食べさせたらよくないか?」

 空海の言葉に、月照と俺は顔を見合わせる。完全に忘れてた。

「それだ!」

 育て方によっては、もやしも一大産業になるではないか。枝豆、きな粉、味噌……醤油も研究させておきたいなぁ。納豆という手もあるか。

 他にも蕎麦や黍なども考慮に入れたい。蕎麦は現代風の調理ができれば普及するだろう。

 時間がかかりそうな品種改良は一旦停止させて、見落としていた大豆などの困窮作物を広げる方向で行く。

 米の収穫については、何とか増やしたいものだが、とにかく時間がない。

 そうそう、硝石については琴海衆に指示を出して対応させることにした。後十年もすれば鉄砲が表に出てくる。そうなれば、目玉商品となるだろう。作る時間はかかるので、早めに準備をしておきたい。

 今思えば、あの時に献策したのは大分はったりだったなぁ、と苦笑ものだ。それでも歩みを止めるわけにはいかない。


「芋は無理だな」

 ああ、空海。やはりそういう反応だよなぁ。歴史的には有名な芋だが、まだ日本国内に入ってきていない代物だ。

 ジャガイモ、サツマイモともに入ってくるのは早くても一六〇〇年代。最短で後五十年は待たないといけない計算だ。海外貿易で行うか……いや、金が無い。

 ……泣けるわ。

「殿」

 側近の彦佐が入ってくる。

「近隣住民から、猪狩りを行ってほしいと要望が……」

「今はそれどころじゃ……猪?」

 そうか、その手もあったか。

「如水様に伝えてくれ。日野家の練兵にもなるので、定期的に猪狩を行ってはどうか、と儂が言っていたと」

「ははっ」

 そういえば肉食は禁忌ではない。公家は表向き食べていなかったようだが、狩猟で肉を食べるのは結構あったらしい。これを組織化したら……。

「定期的には無理だろうなぁ」

 空海の的確な突っ込み項垂れてしまう。

 管理された畜産ならよいが、野生の猪、鹿狩り……いかに恵まれた自然とはいえ、いずれは枯渇してしまう。それに、狩猟は獲れる時は大量だが、獲れない時は坊主だ。……ん?

「獲れる時に獲って、保存できないか?」「……ビーフジャーキー?」

「それだ!」

 なんであの献策の時に思いつかなかったのだろう。

「干し肉、干し魚などを作っておけば、多少は良くなる」

「作り方とか課題もあるけど、試してみる価値はあるわね」

 脳内タブはあるけど、実際現場にぶつかると、想像以上に役に立たない。知識チートヒャッハー!!なんて浮かれていた自分が恥ずかしい。今更思うが、いかにゲームが簡略化、数値化していたのかを思い知らされる。

 投資で数値が上がる……現実そんな簡単なわけが無いのだ。


「で、困窮者や避難民をどうやって食わせる?」

 空海の目が座ってきている。そりゃそうだろう。自分の知識チートがあまり通用しないのだ。全然チートじゃなく、気苦労が多い。

「あ~どうしよう」

 実際の場面に出くわすと、どう対応したらよいのやら、困る場面が続出である。

「とりあえず、山地開拓に回ってもらおう。食い扶持は……現物支給。税は2年無税……。幸い奥深くは利権がらみも少ないし。」

 肥前国長崎。将来的にはそう呼ばれる地は海沿いなのに山深い地だ。

「時間はかかるが、蕎麦などの大量育成をさせて、直轄地にしていく。今の地縁血縁だけだとどうにもならん。」

「いつになったら攻め込めるんだ、俺たちは」

 またもやぼやく空海だが、その指摘には俺は答えられない。内地が安定もしないで攻め込むのは無謀だ。

 そして……謀略はなぁ……平成育ちとしては荷が重い内容だ。簡単に謀殺なんてできるわけもないしなぁ。

 いかに忍び(もどき)がいるにしても、複数の城や館に人を送り込むのは現実的ではない。

「はぁ……知識だけじゃ駄目だな」

「ちょっと?! 諦めないでよ?」

 かつての立ち位置を捨てた月照が焦る。

 あの立ち位置なら、少なくとも殺されることはなかった。出家の身なのだから。でも今は違う。家中の大半が未だに「馬鹿殿」として扱っている中、支持を明確にしたのだ。

「諦める気は毛頭ない!」

「それは某も同じく!」

 ただ、打つ手が想像より少ない。地道だとこのままが続く。おそらく取れ高で五万石から五万五千石になるくらいか。天下なんて遥かに遠い。


「若者たちは困っているようじゃな。」

 如水が意地悪く笑う。地空と宙興を交えて話しをしているが、和やかなものではない。

「そりゃ困るでしょうなぁ」

「献策したほとんどが機能しておりませぬかなら。まぁ、一服、どうぞ」

 他人事な三人。だが、こちらとて手は打ちたい。

「とりあえず、一手楔を打ち込みたい」

 そこにあるは肥前国の略地図。島原半島から大村の間、ちょうど真ん中に当たる高城あたりに、白の碁石を置く。

「誰を切り崩せるか」

 如水が油断なく目を配らせる。主要な国人衆、将はある程度把握している。

「西郷本人を切り崩せそうですがな。」

 地空が事も無げに言う。

「西郷は現当主の晴純と兄弟で、表向きは賢弟と称されておる。だからこその有馬領の地理的中心地、高城城に根を張っておるが……内実は異なる。」

「まぁ、当事者でなく周辺が騒いでおることでしょう。」

 まずは如水に、と茶を差し出す。

 ゆっくり、茶の苦みを楽しみつつ、呟く。

「左様、当人たちはおそらく、表向きにならぬように立ち回っていることだろうなぁ。こちらは周辺でなく一方的に騒いでいるようだがな」

 自分の家中の事を思うと、有馬晴純・西郷純久兄弟の事を笑えない。むしろ、こちらがより深刻であろう。

「純久の側近辺りに鼻薬でもかがせておけ」

「利権……ですか。」

 地空も呟く。僧籍にあるが、その手の事は別段気にもならない。比叡山の坊主どもの堕落っぷりを思えば、まだまだ地方大名など清廉な方だ。

「そうじゃな。そして切り崩し、用済みになれば」

「不幸な事故とか起きまするからなぁ」

 宙興もさらっと言う。敵対者は不自然と思われながらも不幸な事故で消えていく商人の世界も見てきている。

 如水は言うに及ばずだ。

「側近だけでなく、支持する国人衆辺りも切り崩さないとなぁ」

「支持基盤は大切ですからなぁ」

 内政も当然大切だが、こちらに侵攻の手を伸ばさせないためには、別の餌も必要だ。場合によっては揺さぶり、切り崩し、最悪消す、それくらいの決断が求められる。

「……どれくらいで切り崩しができるか」

「一年で十分でしょう。寺の影響力は大きいですからな」

「左様左様。こちらも名主とかに揺さぶりをかけて行きますれば」

 老人三人は、ゆっくりと苦い茶を飲み干していく。さらに苦いものも飲み込んでいく覚悟を決めながら。

(最後の奉公だわな)

 如水はふっ、と笑いお代わりを求める。


「避難民が思っているより多いな。」

 集まってきた人数を数えては、未開の地へ送る作業が延々続く。幸い、海産物の輸出は順調で、火山灰だけではという島津の好意により、多少の銭も入手できている。

 そして、こっそり北九州全土で展開している相場操作で、活動資金は潤沢になってきている。ただ、その銭も右から左なのだが……。

「……空海」

「なんでしょう、若」

「河原者や山窩は集まっているか」

 事が事だけに大きな声で言えない。時代的には被差別層なのだから。だが、俺はそこにも一手打ち込んでおきたい。

「既に五百は超えております。外海側に、隠里を作らせております。」

 空海も小声で進捗状況を報告する。

「全く、隠し資産がいくらあっても足りない。」

 正直、赤字も覚悟はしていたが……。

「若、父上から追加融資が届いております」

 彦佐とは別に、近習を増やしている。将来の経済官僚候補、本河内家の嫡男、正助だ。二つ年下ながら、落ち着き払った仕草が美しい少年だ。どうも噂では、正助と俺はできているらしい。衆道はこの時代の嗜みというが、想像だに恐ろしい。俺は正常なんだ。

 正直、月照やその下の妹、紗耶香などがぶっちゃけ可愛い。美少女に美幼女だが、俺にはロリ趣味もない。愛でるにはいいのだが、血のつながった妹達でもある。

 ……話が逸れた。

「追加か。相変わらず江左衛門は抜け目ない」

 商人がただで金を貸すわけがない。どうせすぐには返せない金、利権で、とかなり俺の事業ごっこに投資をしている。相場にこそ関わらせていないが、独自に阿漕に稼いでいることに違いない。

「父ですから」

 にっこり笑う正助。

「ところで、今日は新たな海産物の試作ができているとのことですが」

「わかった。行く」


現在の日野家の実施政策

ローマンコンクリート(本小説では南蛮漆喰)を用いた石堤防づくり

干し海産物による交易

避難民保護

忍び(琴海衆)の正式雇用

困窮作物の作成開始

未開拓山地の開発

害獣狩りによる軍の錬度強化と非常用保存食の作成

硝石の作成開始

山地農耕における多収穫品種の捜索

米等の相場操作

紙を用いた戸籍もどきの作成

……有馬氏家臣団の分裂工作

他にも細々としたものがある。


とにかく人手が足りない。俺の内心は焦りに満ちていた。金が足りないのは言うまでも無いが、多くの事に手を付けたいが、人が少なくどうにもならない。手足となる人間はそれなりに入ってきた。だが、頭脳として動けるのは俺、月照、空海、彦佐くらいのものだ。正助にしてもまだ小姓であり、彦佐も家中の地位は最下位だ。もう少し頭脳として指示を出せる人間がほしい。

 と、思う通りに進めていくことが難しい。知識があってもだ。それは何故か。歴史について全て解明していないからだ。桶狭間にしても20年前と現代とでは奇襲か正面強襲かで今でも論争が行われている。長篠にしても、三段鉄砲戦術は理論上不可能だった、鉄砲より野戦築城の方で確信があった、等諸説が多い。本能寺に至っては、未だに黒幕が明らかになっていない。他にも論争になっていることは多い。

 それでも、あやふやな知識を基にしてでも生き延びていかねばならない。俺は死ぬために転生してきたのではない。例え望まない転生だとしても、望まぬ死は選ばない。ならば、歴史を改変してでも生き延びてやる。草食系男子とかで死んでたまるか!



武将の年齢

1546年4月段階

日野龍哉と大友宗麟、上杉謙信、吉川元春は同じ年で16才。


因みに一つ年上に、龍造寺隆信や宇喜多直家、松浦隆信や山県昌景らが、一つ年下に佐竹義昭、日野月照がいる。空海はもう一つ下。


他の武将の年齢

武田晴信(信玄)25才

北条氏康31才

今川義元27才

織田信長12才

羽柴(豊臣)秀吉9才

松平元信(徳川家康)-3才

島津貴久32才


創作武将

日野且元30才

日野如水54才

北天翔地空(南光坊天海のパクリ)59才

南海宙興47才


 当面は爺様トリオが暗躍することになるでしょう。

サブタイトル通り、難儀、です。小説を書くのって難しいですね><

でも、完結させられるように、がんばっていきます。多分ゴールは、今の主人公の次の次の代ではないでしょうか? 江戸夏の陣、冬の陣とかw

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