表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

序章2 フェルミ・コードナー

重い気分をなんとか奮い立たせて俺は黒塗りの廊下を進む。

廊下の天井には魔力に反応して明かりを灯す魔導具が等間隔に付けられている。


縦長の窓からふと、外を眺めると、時刻は昼前というのに真っ暗、空には月が浮かんでいる有様であった。



それもそのはず、俺が今いるギルド本部はラングルム北方の大陸の中でも未開発の地域であった『常闇の荒野』と呼ばれる場所のど真ん中だからだ。

『常闇の荒野』はその名の通り年中無休で闇に閉ざされている場所だ。僅かな光源として決して欠けず沈むことのない満月と星々がある程度で、並みの人間では一寸先は闇という有様。

なぜこんな地域があるのかと言われれば、昔この場所に住んでいた魔王様が空を閉ざし偽りの夜空を作り上げてしまったかららしい。

結局この魔王様は当時の勇者にぶっ殺されてしまったのだが、空は依然として偽物のまま、現在まで放置されるに至っている。

まあ、この辺りは特に目ぼしい資源の類は皆無な為、隣国も放置という見解で一致してしまったらしい。


だが、これは俺にとっては嬉しすぎる早計具合だった。


『闇夜の荒野』の地中にはとある鉱石が埋まってたりする。それは『ニュクスの闇石』と呼ばれるもので、真っ黒いことだけが特徴の“普通の石”だ。世間でも、周囲を僅かに暗がりにする以外にこれといった効能も無いためクズ石認定されている。


だが、これは闇魔導師にこそ重用される代物だった。

実は『闇夜の闇石』は、闇魔導の力を半永久的に内包する力があったのだ!!


これは攻撃系、結界系等、各系統全てを満遍なく網羅することができ、かつ一度魔法を封じ込めてしまえば魔力を送り込むだけで発動することが可能となる。

これを発見したのは何を言おうかの闇魔導フェチであるフェルミ・コードナーなのである。


彼女はこの石の有用性に着目し、実用性を高めるためにあらゆる試行錯誤を繰り返して次々に高性能な魔導具を作り上げていった。

まずは、闇石を魔導士用のロッドに付けて方向性を定める魔法陣を組み込むことにより指向性を持って込められた魔法の行使を可能に。続けて、そのロッドにさらに魔法陣を書き込み、一度込められた魔法をそれの発動に必要な魔力を流し込めば何度でも行使することが可能にし、果てには魔力の注入無しでも規定の手順を踏めば誰でも使えるようにしたり、それらを繋げて巨大な動力室まで作ったりした。

最近ではまた進化して、時限式の爆弾のような使い方も出来るようになったとか。




性格は問題だが、働きだけなら他の誰よりもギルドにひいてはこの俺に貢献しているといえる。

それがフェルミ・コードナーという『人間』だ。






気分は乗らないが、頑張ってる奴を無下にはしたくないため仕方なく俺は件の変態がいる研究室の前まで訪れていた。


鉄製の扉の隙間からはじわじわと負のオーラのような良くない空気が漏れ出ていた。


もうこの時点でぶっちゃけ帰りたい。

けど、俺にもマスターとしての意地と誇りがあるので勇気を出して扉をノック…しようとして勝手に開いた。


「あら?あらあらあらあら??…もしかして陛下でございますか?」


中から、踵まである長い黒髪をした小学生くらいの背丈の少女が現れた。

フェルミである。

彼女は長い髪をボサボサにして、輝くような金色の瞳を持つ目を見開いて俺を凝視していた。


いきなり現れた上にそんな態度をとられては俺の小さな肝は萎縮しきってしまう。実際、冷や汗が止まらない。


俺は無理やりに笑みを作って手を挙げた。


「ひ、久しぶりだなフェルミ。元気だったか…?」


さりげなさを装いながら内心はビクビクしている。俺の何気ない一言でこいつにスイッチを入れてしまうことがままあるからだ。


「まあ…陛下自ら、私の心配をして来てくださったのですね?あぁ…!なんともったいなきお言葉。私ごときには余りある光栄にございます!…でも嬉しい。はぁ…この感情、まさしく愛!!愛にございますよ、陛下!!私は陛下を強く!強くお慕い申し上げてございまするぅぅ!!」


…だめだった。気をつけていたつもりだったが、どうにもこいつのツボが分からない。

出会ってからもうかれこれ5年近く経つが、未だに予期せぬ言葉で興奮してしまう。

まあ、これも見慣れた光景だが。



「では、中に入れてもらえるかな?お前のことだから期待以上の働きをしてくれているとはわかっているが、一応、視察という名目なのでな」


とりあえず中に入れてもらう。現在の研究の様子を見つつ、経過報告、今後の課題などを簡潔に伝えて素早く脱出するために。


怖い事とかは早めに済ませておくに限るからな。


「はい!もちろんでございます!!…あぁ、でもどうしましょう?陛下がお越しになると知っていればもっと片付けなども…」


妙なところで乙女な雰囲気を出す奴だ。こいつとも長いのだし今更、何を見ようが驚いたりはしないと自負している。たとえブラだろうがパンツだろうが俺にとってはただの布だ。

それ以前にこいつは俺とはどこか別次元の存在のように感じる。闇魔導の知識においてもだいぶ前から俺を遥かに凌駕している。

陛下と呼ばれ慕われるのも、どこか複雑な気分だ。



ともあれ、ここで話していても埒があかないし早く帰れなくなるのでさっさと通してもらいたい。


「構わん、俺とお前の仲だろう?お前のことは誰よりも熟知していると自負している」


ちょっと誇張したけど大体合ってるはずだ。ギルドの中では俺以上にこいつと付き合い長い奴はいない。そもそも旅の中ではこいつの方から俺に引っ付いてきていたからな。

という意味合いだったのだが、どうやら彼女の中では違う解釈がなされたらしい。


「!!陛下……分かりました。どうぞ中へ」


ほんのりと頬を紅潮させて優雅に中へと招くフェルミ。俺も頷いてから中へと入らせてもらう。

改めてこういう態度を取られると俺も時々ドキッとしてしまう。こいつは元々見た目は可愛いのだ。

格好は野暮ったいローブだが、その合間から覗く素肌は白く透き通っていて…。


「…っ!お前、ローブの下は何も着てないのか!?」


「?部屋ではいつもこの格好ですけど…?」


きょとんとした顔で首をかしげるフェルミ。

そんなあどけない表情をとるな。…まったく可愛い奴め。


ともあれ、これはいただけない。部屋着をどうこう言うつもりはないが、せめて来客時には服を着てほしい。


「陛下の前でなら裸でも大丈夫です」


満面の笑みでそう語る確信犯がいる。

俺が大丈夫じゃないよ。


「…まあ、無理にとは言わんが。…それもそれで中々刺激的でいいしな」


でも満更でもない俺がいる。仕方ないだろ!?いつもいつも執務室にふんぞり返っているだけではストレスが溜まるんだよ!せめてこのくらいご褒美が欲しいんだよ!殆ど働いてないけどね!!


「そんな…陛下がお望みならこの身体、いつでも捧げますのに」


はらりとローブを取り払った彼女は大事なところを手で隠しながらも恥じらいつつ俺を上目遣いに…


「いや待て!はやまるな!お前くらいの美人なら他にも釣り合うおとこがいるに決まってる。俺なんかに身を捧げるな!」


そもそも、俺はチートで無双してただけで闇魔導の知識も眉唾だぞ?フェルミのスペックなら闇の王子とかの妻の方がお似合いだろ。


「むぅ…陛下はいつもそうやって。…もういいです」


そう言ってするりとローブを着直す。

あれ?いつもならここでもっと攻めてくるのに。

『陛下以外の者などゴミクズ以下の塵芥ですわ!!私の身体に触れていいのは貴方様以外におりません!!』

とかなんとか言ってくる流れなのだけど。


まあいい、スムーズに事が運ぶならそれに敵うものはない。


さっそく本題に入らせてもらう。


「ところで、研究の方はどうなってる?最近は次元式の闇石ができたそうだが」


闇魔導の話題を出せば自然と機嫌は戻るはずだ。

案の定、フェルミは先ほどの不満げな表情から一転、歓喜の笑みで食いついてきた。


「既に聞き及んでいたのですね!?そう!まさに今、時限式魔導兵器『ゲヘナ』の開発を進めております!」


うん?ゲヘナ?


「それって…」


「はい!陛下のお名前を拝借させていただきました!ああ、ご安心ください。この兵器は陛下の名を冠するに相応しいものでございます。それに闇石を発見されたのは陛下、闇石を用いた発明品の全ては陛下と私のい、い、愛し子にも相応しい存在かと…!!」


真剣な顔してるけど顔が赤いままだ。口の端からは涎が垂れてるし興奮したままなのは一目瞭然です。


「ま、まあいいんじゃないか?分かりやすくて。なによりかっこいいと思うぞ、うん」


「あ、あ、ありがとうございますぅ!!!!陛下に気に入ってもらえるなん…あぁ!もう濡れそう!!」


自らの体に両手を這わせて身を捩り始める。…うん、ここはそっとしておいてやろう。

なんだかご機嫌な様子の彼女はブツブツと独り言を呟きながら時折、ビクンビクンと痙攣していた。


「な、なんだか忙しいようだし話はまた後で聞くわ。じゃ」


あまりにも怖すぎる光景に俺は遂にギブアップして、そそくさと研究室を後にした。


帰り際、扉の隙間から甲高い嬌声のようなものと心底楽しそうな笑い声が聞こえてきたので、俺は全力ダッシュで執務室へと帰還した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ