転校生は天界人
――次の日を向かえた学校にて。
本日の教室内はいつもに増して騒がしかった。
どうやら「転校生がやって来る」という噂で持ちきりのようだ。
席につくと、その件に関する話をマサが持ち掛けてきた。
「おはよーハマコー。聞いたか? 転校生が来るらしいぞ。リリアちゃんの時といい、この時期に珍しいよな。女の子だったらいいのに」
たしかに高2の時期に編入する奴なんてそうはいない。ましてや編入するのが異世界人だなんて、このクラスだからこそある話だ。
「……女の子だよ」
あきれ顔でそう呟くと、マサは俺の肩を掴み食いついてきた。
「え? なんでわかるのさ?」
「……さぁな」
事情を1から説明できるわけがないし、これ以上余計な事を言うのはよしておこう。
俺はマサから視線を外す。
……すると偶然にも桐島の様子を伺えた。今日も爽やかな笑顔が眩しいぜ。
桐島は数名のクラスメイトと挨拶を終えると、自分の席についく。
近くにいる俺らに対しても気さくに話しかけてくれる。
「おはよう」
「おはよう。ねぇ桐島さん聞いた? 今日転校生が来るんだって」
「知ってるよ。だって私の家に住んでる子だもん!」
「え!? そうなの?」
マサは驚いた表情をする。
対して、事の元凶である桐島は得意気な顔をした。
「へへへ、そうなんだよ。すごくいい子だから、仲良くしてね」
そう言うと、カバンから教科書類を取り出す。優等生の桐島の事だ、家でしっかり予習をしているのだろう。部活もやって学業を怠らないなんて、マジで偉いと思う。
「もちろんするする! するに決まってんじゃん!」
ガンマちゃんは俺も良い子だと思うけど、元気が良すぎる一面があるからな。桐島に負荷がかからない程度に、上手くやってくれるといいな。
テンションを上げるマサを他所に、俺は傍観者気取りで桐島の幸せを願った。
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「おーいお前ら席につけよ。噂には聞いてるだろうが、転校生を紹介するな」
「ガンマで~す。よろしくお願いしま~す」
SHRの時間。担任の後に続いて教室に入ってきたガンマちゃん。
ガンマちゃんは教団に立ち、持ち前の明るさで自己紹介をした。
ひねくれの俺でさえすぐに打ち解けたんだ。彼女は一瞬にしてクラスの輪に溶け込む事となる。
一時間目の授業が終わると、ガンマちゃんの周りには多くの生徒が集まった。
「大人気だなガンマちゃん?」
和気あいあいと談笑する光景を遠くで眺めていると、輪の中からマサが帰還してきた。
「可愛くて明るかったら、そりゃ人気は出るか。61点って言われたんだけど、こりゃどういう意味かな?」
……ああ、マサも点数付けられたんだ。
おそらく内面を抜きにした「ガンマちゃん的外見指数」なのだろう。それしか思いつかない。
「確かに可愛いな。だがそれ以上に、俺は彼女を羨ましく思ってしまうんだな。転校初日から人気者で、しかも桐島の家に住んでるしさ」
わざわざ伝える必要のない点数の件から話題を変えると、マサは不貞腐れた表情を浮かべた。
「おいおい、羨ましいのはハマコーだぞ。あんな可愛い子が知り合いだなんて」
「知り合いと言うか……リリアの親戚だよ」
「つまり、ハマコーの親戚でもあるんだろ?」
「……ああ。リリアと俺は義兄妹だから、そうなるか」
「……ハマコーの家系って、一体どうなってんだよ? 本当、変わったものらとご縁がある」
マサの言葉で、自分が変わった環境にいる事を改めて認識させられた。
変わったものらって、それはマサも含めていいのかとも思った。
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この日はガンマちゃんに関する話題で持ち切りだった。
「本当良い思いしてるよね?」
俺は多くの男子生徒から羨ましがられ続けた。
リリアの転入から始まり、最近では桐島とも良いお付き合いをしているからな。急に女っ気が増した奴の日常の変化を、心から受け入れない感じだ。
全ての人に好かれたい。それは贅沢な願いだろう。
今は信頼できる人が少なからずいるのだから、そう悲観する事ではない。
……けれど胸の内に刺さる棘は、なかなか取れそうもない。
元嫌われ者のメンタルは情けないくらいに脆かった。
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――学校が終わると、俺はリリアを連れてバイト先のレストランに向かった。
バイトの入りは17時から。だから家に帰らず、直接レストランを目指す。
その途中でするリリアとの会話の中心もまた、本日の主役であるガンマちゃんであった。
「バスケ部のマネージャーにもなってくれたし、桐島に付きっきりだな。これで護衛は完璧だ」
「そうね。何かあればガンマから私達や天界に連絡が入るし、安心していいと思う」
「……そうだよな」
「……なんだか不満そうね。それは桐島さんを守る人が増えたから? それとも桐島さんの家に居候するのが羨ましいの? 他人に非難されるのが嫌なの?」
「……」
的を射た言葉に同様を隠し切れない。
「そう見えるのか。情けないな俺、女の子に嫉妬するなんてさ」
それに1番身近にいる存在が話し相手だからか、つい愚痴をさらけ出してしまった。
最近の俺はリリアに身を委ね過ぎな傾向がある。どうでもいいやり取りする時でさえ、妙な安堵をしてしまう。同時に口数も増えてしまう。
「凄いよなガンマちゃんはさ。俺がようやく手に入れた幸せを一瞬で手に入れるんだから。……こちとら今にも崩壊しそうだってのによ」
前向きで明るい性格のガンマちゃんは人から好かれる。好かれて当然、それだけ人を引き付ける魅力があるから。俺自身、彼女に好意を寄せる者の1人だ。
……でも、嫉妬していないと言えば嘘になる。
その真実を認めるのが億劫で、その思考が過る度に湯鬱な気分になってしまう。
「馬鹿ね。そんなの気にする事ないわよ。事が治まれば、ガンマはみんなの記憶を消して去っていく。もちろん私もそう。……まあ、私が去るのは先の話になるだろうけど」
愚痴を吐き出す俺に対し、リリアは励ましの言葉をかけてくれた。
ぽんと背中を押し、俺を抜き去ってゆく。
「……そうだよな。でも俺は、リリアにずっと側にいて欲しいと思っているよ」
背中を押されると、胸の棘が抜けた気がした。
目の前の景色が晴れるように明るくなった。
息をするのも楽になって、胸に秘めた願いまでも出てきてしまった。
「……」
前を歩くリリアは歩みを止めた。
柄にもない台詞を言った後だ。小走りで追いつくと、俺は頬を染めて理由を迫る。
「あの、反応がないと余計に照れるんですけど?」
「そ、それは……」
隣に並ぶと、思ってもみない表情でいるリリアを見れた。
言葉を詰まらせ、おまけに頬を赤めてやがる。
……本当、誰に似てきたんだか。
ふとリリアに出会った日の事を思い浮かべ、彼女のレア顔を拝み続ける。
「っ……じろじろ見ないで、気持ち悪い」
ニヤケ顔でいたのがまずかったのだろう。
罵倒を発すると気持ちが引き締まり、普段通りの凛とした瞳を輝かせるリリアさんであった。
「安心して。あなたに命を吹き込む方法なんて、一つしかないから。嫌でも私の面倒を見る事になるわよ。ずっと、これからもずっと」
「はは、そうだったな」
「くだらない事言わないで働きなさい。そして強くなりなさい」
「おう」
リリアとのやり取りで、気持ちが穏やかになれた。
気分よく店内に足を踏み入れアルバイトに励む事となる。




