シルバ・クロスニクス
俺達は神様に会う事なく、騎士団駐屯所までやってきた。駐屯所の建物は高くそびえ立つ塔の様なものであった。
中に入ると入口近くには受付カウンターがあり、2人の女性が出迎えてくれた。
「あらリリアじゃない。久しぶり。ずいぶん長い任務だったのね?」
「その人達は例のお連れさん? 地上人と聞いてるけど、少年の方からは心核の力が感じるし。女の子の方からは……」
「ただいま。詮索はその辺にしておいてくれるかしら。まだ任務の途中なので」
「そっか。了解。団長は部屋にいると思うよ。エレベーターで上に向かうといいわ」
「ありがとう。ではまた後で」
リリアは顔馴染みである2人と談話し終えると、颯爽にこの場を去る。
俺と桐島はカウンターの女性に軽く会釈して、リリアの後を追いかけた。
動力が謎であるエレベータに乗り塔の最上階までやって来ると、目の前には両開きの扉がある。
リリアは3回ノックをした。
「リリア・クロスニクスです」
「どうぞ」
部屋の中からは渋く色気のある声が聞こえた。リリアを先頭に、俺達は部屋の中に入る。
中は重役の部屋のようで、本や資料を保管する棚が多く配置されていた。中央には大きな机とソファがある。
そこにコーヒーカップを手に持つ、40歳位の男性の姿があった。
「お帰りリリア。友達を連れてきたのか? お父さん嬉しいよ」
「連絡入れたでしょ? 同行者の2人よ。シルバ・クロスニクス騎士団長様」
お父さん……クロスニクスね。やはりこの人がリリアの父親か。
「そうだったね。こんにちは桐島玲奈さん。いやぁ、可愛いお嬢さんだ」
騎士団長様に話しかけられると、桐島は何かを思い出したように俺の腕を掴んできた。
俺は嬉し恥ずかしい気持ちになり頬を染める。
「……どした?」
「……この人、変態さんなんだよね。危うく紳士な容姿に騙されるとこだった」
変態…ああ、…そういやリリアが言ってたな。
俺は警戒の目で団長を見つめた。
「……リリアちゃん。もしかして変な事2人に吹き込んだ?」
シルバ・クロスニクス騎士団長。
リリアの義理の父親で上司。高そうな黒色のスーツを着ていて、長い黒髪と顎髭が特徴的な人だ。
「さぁ、どうかしら」
「ひどいぞ。私が好意を寄せるのはリリアだけだ」
「余計に質が悪いのよ。その性癖を他に分散させてほしいくらい」
「性癖? 娘を大切に思う親のどこが悪い」
そしてこの人、かなりの親バカであった。
寛大な心を持つ俺でも少し引いてしまう程に、痛い事をやってのける人だった。
俺と桐島は2人の口論を黙って見届ける。
「服や化粧品を支給する親がどこにいる? あなたの送る物はどれも使いにくくて困る」
「可愛い子には可愛い服を着させないと。言っちゃ悪いがリリアは服のセンスがない。放っていたら、ネームTシャツとか着るだろ?」
「あれは動きやすくて気に入っている。愚弄するなヒゲ」
リリアの服を買ってるのかこの人? どおりでリリアの持ち合わせが極端だった訳だ。
確かに今日リリアが着ている服は可愛い。流行を取り入れているのだろうなと、素人目線からでも何となく伺える。
だからと言って、親が年頃の子に服を買う行為はおかしいと思うし、なによりサイズを把握してるのが不気味だ。
これが親バカか。そんな父親にヒゲと罵倒するリリアさんは流石っす。
「相変わらず口が悪いな。可愛いから許すけど。でもご苦労だったね。君達も、異界の地まで来てもらってすまない。どうぞそちらに腰かけてね」
「……失礼します」
俺と桐島は団長の言葉を受け、ソファに腰を下ろした。
団長は俺達の近くにやってきて、微笑みながら話しかけてくれた。
「こんちは破馬光助くん。セイジくんから聞いてるよ。入団おめでとう」
……ああ、そういやカグラ・セイジはこの人が仕向けたんだっけ?
あの時は大変な目にあった。そう思った俺はひねくれた言葉を返す。
「手荒い歓迎に感謝します」
「はは、セイジくんは手加減しないからきつかっただろ? でもお陰で君の事を色々と見て量れた。私は安心してリリアを任せられているよ」
「そんな、任せるだなんて。俺はリリアにずっと迷惑をかけてますから。本当にすみません」
機嫌良くする団長に対し、俺は申し訳ない気持ちになった。
団長はそんな俺の肩に手を置いた。
「気にするな、リリアが勝手にしている事さ。その分君には活躍してもらうから」
「……はい」
自分の娘が俺との出会いにより何度も危険な目にあっている。それをこの人は知っているだろう。けれど俺の事を一切責めようとしなかった。
人を束ねる位置に立つのだから、もっと厳格であってもいいのに。むしろ寛大な性格だからこそ、部下に慕われたりするのだろうか? そんな印象を俺は団長に対して持った。
だから次に団長が取る行動とはギャップがあって、俺は戸惑いを隠す事ができなかった。
「……さて、自己紹介はこれくらいにして本題に入ろうか」
団長は指を鳴らし音を出す。
すると部屋に人が数名押し掛けてきた。
俺と桐島は多くの騎士団員により取り囲まれた。
「これは一体?」
「ごめんね桐島玲奈さん。君は我々が厳重に監視する事になっている。辛い思いをさせるが、しばらく我慢してくれ」
「な、何を言ってるですか団長さん!?」
「……彼女の身柄を確保しろ。少年は暴れると困るから取り押さえて」