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心核のキズナ  作者: 水鳥潤
桐島玲奈との交友録
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ゲーセンのプリクラ機の中は息苦しい


 この後俺達は食後のデザートを堪能し、ファミレスを後にした。

 暗くなるにはまだ時間があったので、歩く途中にあるゲームセンターに立ち寄る事となる。俺はそこで初めての体験をした。


 今まで友達がいなかった俺がプリクラを取る事になった。しかも好きな子と一緒に。俺はかなり浮わついた気持ちでプリクラ機の中に入った。


 それが失態だったと理解したのは中に入り直ぐの事であった。



 うわ、プリクラ機の中って案外狭いんだな。強制的に桐島との距離が近くなる。それはとても嬉しい事だけど、心構えをさせて頂きたかった。俺は普段以上にこわばった顔になる。

 桐島は馴れた様子でリリアと俺をリードしてくれた。


 「2人とも表情が固いよ。もっと笑って」

 「桐島さん、それは無理な要求よ。私達の笑顔なめないで」

 「自信持って言うなよリリア。だが桐島、俺達きっと普通の表情が1番ましだと思う。これでいこう」

 「……そう? じゃあもっと近寄って」


 桐島は俺に体を寄せ付けてきた。リリアも桐島の指示に従い、俺に体を寄せてくる。

 これがハーレムと言うやつか? 画面に映る俺は顔を赤くさせて動揺している。機械はそんな俺達の光景を写真に取り込んだ。


 撮られた画像をその場で確認すると、2人の可愛さが際立って見えた。ただでさえスペックの高い2人の容姿をさらに磨かれた感じだ。最近のプリクラ機の技術介入は大したものだ。鋭い俺の目さえクリッと可愛らしく写し込んでしまう。

 2人の可愛さも後押しされ、俺のキモさに拍車がかかっているな。公開処刑ですか? 無理して頑張るなよ機械。お願いだからやめてくれ。

 てか息苦しいんだけど。もう限界だ……倒れそう。


 「よし、じゃ後は適当に落書きをして……」

 「……桐島さん、私達外で待ってるわ」

 「わかった。少しだけ待っていてね」

 「ええ」


 俺はリリアに連れられプリクラ機の外に出た。外に出て直ぐに、呼吸を整え酸素を肺に送り込む。


 死ぬかと思った。息を止めるのも楽ではない。


 「ありがとうリリア。助かったよ」

 「中に入ってからずっと息止めていたでしょ? なぜ呼吸しなかったの?」

 「……桐島に鼻息粗い男と思われたくなかったから」

 「おおばか者ね。少し……いえ、しっかり頭を冷やしなさい」

 「すみません」


 これについては弁解の余地もない。叱られた俺は姿勢よく、頭を直角に下げる。

 リリアは俺の行動に目も当てづ、ふらっと足を動かす。


 「おい、どこへ行くんだ?」

 「待つのは苦手なの。天界ではこういった娯楽施設はないから、今のうちに見ておきたい。案内して」

 「構わないけど、ゲーセンなんてマサと一度来ただけだから詳しくないぞ」

 「徘徊するだけでいい。あなたにそんな期待していないから」

 「あっそ。ごめん桐島、ちょっとリリアとうろついてくるわ」

 「うん、わかった」



 俺はリリアを連れて周囲を徘徊する事となった。特に会話もなく歩いているとリリアが急に足を止める。クレーンゲームのガラス面に手を触れ、中にある景品をじっと見つめている。


 「欲しいのか?」

 「欲しいかと聞かれれば欲しい。買ってよお兄ちゃん」

 「お兄ちゃんて……悪い気はしないな。でもそれはおねだりと金じゃ手に入らないぞ。実力で手にするんだ。1度やってみ?」


 俺は機械にお金を入れてリリアにゲームを勧めた。リリアは入念に確認をとりながら挑む。


 「……あ。落ちた」


 しかし、リリアはぬいぐるみを手にする事はできなかった。


 「おしかったな。もう1回やるか?」

 「……いい、桐島さんを待たせると悪いから。かなり悔しいけど諦める」

 「そうか。なら先に戻ってな。俺トイレ寄ってく」

 「わかった。でも余り遠くには行かないでね」

 「わかってるよ」


 リリアは桐島の元に向かった。俺は不適な笑みをこぼし、クレーン機の前に立つ。お金を入れ、得意げに指と肩を鳴らす。

 よし、いっちょやったりますか。俺は慣れた手つきでクレーン機の操作を始めた。




 ―――あれは去年の冬、クリスマス前日の凍える寒さの日だ。

 ぬいぐるみ取れる男子はモテるらしい。人伝えで得た情報を実証するべく、俺はマサとゲーセンに足を運んだ。

 当時の俺は今よりもバカで、ノリの良いマサに触発されて投資を惜しまなかった。諭吉さんとまではいかなかったが、確実に樋口さんはお逝きになられた。あ、マサと合わせれば諭吉さんになるな。何やってんだよ俺達。

 そのおかけで俺はクレーン操作テクを得た。

 女子にモテるなんて事実はもちろんなかった。見返りがあるとすれば、一足早いクリスマスプレゼントとして、見物していた幼子達にプレゼントし、あどけない笑顔を見て鼻高々になれた事くらいか。



 ……おし。俺は昔の出来事を思い返しながら、難なくぬいぐるみを手にした。ちょうど色違いのものも落とせる位置であったので、再プレイしそれも手にしてからこの場を離れる。



 女の子に物をプレゼントする時はどんな顔をすればいいのだろう? カグラ・セイジみたいにクールに決めたいが、あそこまでの仏頂面は真似できない。だからといって、マサみたいにおちゃらけもできない。

 我ながら中途半端な性格をしている。俺は少し決め顔で2人の元に戻った。


 「お、お待たせ」

 「いえいえ。あれ? どうしたのそれ?」

 「適当にやったら取れた。ほらリリア。欲しかったんだろ?」

 「適当って……まさかこんな才能が光助にあるなんて。すごく意外」

 「見直したか我が妹よ」

 「少しね。ありがとう光助」



 リリアは驚いた表情でぬいぐるみを受け取った。

 俺はリリアにプレゼントした勢いで桐島に話しかける。


 「き、桐島もいるか? いらないならリリアに渡すけど」


 「欲しい……すごく欲しいです!」


 桐島は俺の持つぬいぐるみをガシッと両手で掴んできた。


 「お、おう。大事にしてくれよ」

 「うん!」


 受けっとたぬいぐるみを満面の笑みで抱き締める。その姿が今まで見た、どの桐島よりも可愛く思えた。俺は手でニヤケ顔を隠す。

 気に入ってくれてよかった。この様子なら直ぐには処分されなさそう。



 「はいこれ、破馬くんの分ね。そろそろ頃合いだし、次の場所に向かおうか?」

 「ああ」



 こうして俺達はゲームセンターを後にした。俺は受け取ったプリクラを眺めながら。リリアと桐島は白と黒、色違いのウサギのぬいぐるみを抱えながら、次の目的地へと向かう。




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