雨空の待ち合わせ
本日の天候はあいにくの雨模様。俺の髪はご機嫌の様子で、いつも以上にはねておられる。
この日はいつもより早く家を出た。目的は勿論、黒マントさんとの待ち合わせの為だ。ビニール傘を手にして、バイト先のコンビニ付近へと向かう。
強く降りしきる雨に、ズボンの裾は酷く湿る。不快感は半端ない。それでも律儀に、待ち合わせ時間の5分前には到着した。
(来るかなあの人? まぁ来ないだろうな)
半場諦めた気持ちで彼女を待っていると、知り合いの何人かと遭遇した。その中にはクラスメイトである梅津と竹田の姿もあった。
「ハマコーじゃん。こんな所で何やってんの?」
「ちょっと人と待ち合わせしてんだ」
「そっか。じゃあまた後で」
雨で朝練がなかったのだろう。始業開始時刻に近づくにつれ、多くの天校生徒がこの場所を通り過ぎて行く。
けれど待ち人は一向に現れない。約束の時間から15分経過するも、彼女は現われなかった。
これ以上待っても仕方ないか。この場を離れる事を決め、俺は止めていた足を動かす。
「あれ? 破馬君だよね?」
すると背後から声をかけられた。
黒マントさんかと思うも、すぐに別人である事を察して心音を高鳴らせる。
「おはよう破馬君。登校中に会うのは初めてだよね? 家はこの辺りなの?」
聞き覚えのある声に反応し、後ろを振り返ると……
そこには桐島玲奈の姿があった。
まじか? 今まで話した事もない、ただ勝手に憧れていた存在から話しかけられたぞ!
「……そ、そうだよ。バイトもここでやっている」
「そうなんだ。誰か待ってたみたいだけど、急がないと遅刻するよ?」
「……だよな。でも、もう少し待ってみるわ」
「そう? それじゃあ、また教室でね」
突然の出来事で気が動転し、そっけない言葉を返してしまった。テンパり過ぎて、彼女と同じ空気を吸うのが辛かったのだと思う。
桐島は俺を置いて、先に学校へと向かった。
俺は高ぶる気持ちを抑えきれず、しばらくその場に立ちつくす。
は、初めて桐島と話ができた。破馬君だって? ちゃんと名前と顔を覚えられているよ。特徴的な名前と容姿で得をした。
それに黒マントさんと待ち合わせをしたおかげな?
彼女に声をかけなければ、俺がこの時間にここへ訪れる事はなかったから。
「お節介はやいてみるものだ。ありがとう黒マントさん」
黒マントさんに感謝し手を合わせた後、俺は学校に向かい歩き出した。
ふふ、さっきの出来事をマサに報告せねば。きっと温かく祝福してくれるだろう。
いや、その前に今度はこちらから桐島に挨拶するべきか? 話せるきっかけは作れた。これからは毎日挨拶しよう。なにせ席は隣だからな、はは。
とても気分が良くて、歩く足取りは一昨日以上に軽やかだったと思う。俺は完全に浮かれていた。
――なので周囲に起きた異変に気付くのは随分遅くれた。