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心核のキズナ  作者: 水鳥潤
過去を振り返り今を生きる
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母さんの望みを叶える為に




 母さんが倒れて病院に搬送された。

 俺は慌てて病院に向かったが、結果を覆す事などできなかった。



 母さんは俺が辿りつく前に息を絶ってしまった。




 ―――医師の話によると、母さんは何年も前から病を患っていたそうだ。それを隠し、治療もせず働いていたのは全て俺の為だった。

 余命が短いと知った母さんは俺がこの先必要になるであろう金の為に働いた。稼いだ給料を治療費に回さず、全て貯蓄に回していた。

 医師の忠告も無視した。この先短い命よりも息子の為に―――そう言って言う事を聞かなかったそうだ。




 母さんのいない自宅で荷物の整理していると、置手紙と銀行通帳、それと印鑑を見つけた。

 通帳を手に取り中を確認し、口座に高額の金が預けられていた事を知る。



 ばかやろう……こんな大金あるなら、自分の為に使えよ。

 死んじまったら、もう何も返せないじゃないか。

 


 病に苦しみながら俺の事を思い、働く母の姿が目に浮かんだ。


 手紙に目を向けた俺は涙を流し、唇を強く噛み締めながら母さんの言葉を読んだ。







 光助。先に天国に行ってしまう母さんを許してください。


 光助には迷惑ばかりかけてしまった。


 なのにあんたはいつも文句を言わず、ずっと私の側にいてくれた。


 ありがとう。本当にありがとう。


 私の子として産まれてくれてありがとう。

 

 あんたはきっといい男になる、絶対なるよ。


 だから今は人生急がずに、立派に成長して下さい。


 口座に入ってるお金は学費と生活費に当ててください。


 上手くやりくりしたら大学にも行けると思う。


 それじぁ最後に一言。合格おめでとう。


 高校生活は光助にとって、かけがえのないものにきっとなる。


 勉強も大事だけど友達も作りなさいよ。


 1人で生きてく事なんて、絶対できないんだからね。




 破馬雪枝より







 ―――母さんの死から立ち直るのに、かなりの時間を要した。

 気持ちを整理した後は簡単ではあるが、供養のために墓を買い遺骨を埋葬した。残してくれたお金をかなり使ったが、バイトをすればなんとか生計をたてられる。そう考えての行動だった。



 母さんと過ごした部屋は引っ越す事にした。通う予定の高校からは遠いし、何よりも1人で暮らすには少し広くて、寂しく感じるから。


 新しい入居先は駅から遠く、年期の入ったアパートに決めた。

 この家の利点は風呂とトイレが別で家賃が手ごろなところ。男の1人暮らしの部屋だ、最低限この2つが備わっていれば、何も文句は言わない。

 こうして俺は心機一転し、新しい制服を着て天春学園高校の門をくぐった。



 母さんの供養や入居先の手続きがあり、俺は入学式には出なかった。よって他の新入生から遅れをとり、高校生活をスタートする事となる。


 学園生活初日。教室の前で立ち止まり、中に入るのを躊躇していた事は今でもよく覚えている。なにせあの時ほど自分を良く見せようと、深く考えた事は1度もなかったからだ。



 (今から俺の高校生活は始まる。絶対高校デビューするぞ。昨日読んだ雑誌によると、第一印象は肝心らしい。只でさえ遅れを取っているんだ、しっかりみんなに挨拶しないと)


 「すぅ……はぁ……よし!」


 息を整え気持ちを整理した後、俺は教室の前戸を開けて、クラスメイトに笑顔で挨拶した。


 しかし今まで友達を持たなかった俺が、素敵な笑顔などできるはずがなく……



 「は、破馬光助です。よ、よろしく」



 俺が挨拶を終えると、がやがやと騒がしかった教室は一瞬で凍りつく。その後、小言が俺の耳に入ってきた。


 「やべー、髪染めたやついるよ」

 「目つき悪いよね?」

 「どうしよう、進学校に不良がいるよ」


 そんな事をクラスメイト達は近くにいる者同士で話し合った。

 彼らの様子から察するに、俺の満身創痍の挨拶はよろしくなかったらしい。どうやら不良が言う夜露死苦のように、威喝的なイメージで捉えてしまったようだ。


 まずい、みんなに怖がられている。目標である気さくで明るいクラスの人気者が遠退く。

 俺の高校生活終わった―――そう思った。



 そんな絶望にいた俺を救ったのはお気楽な坊主頭の男子生徒だった。

 後から教室に入ってきた彼は教壇の前で立ち尽くす俺に話しかけてきた。


 「みんなおはよっ……ってあれ? お前ってずっと休んでたやつか? 登校初日から髪染めてパーマかけるなんて……突っ張ってるの?」

 「……違うよ、髪は色も質も天然だ」

 「天然……天パだけに? 上手い事言うなおい。おもしれぇ」


 坊主の男子生徒は笑顔で俺の髪をいじった。

 俺は茫然とした態度でお礼を口にする。


 「……ありがとう」

 「にしし、お前、名前は?」

 「破馬光助」

 「はまこうすけ? よしハマコー、今日から俺達友達な。俺は松山正志まつやま まさし。マサでいいぞ。よろしく!」

 「マサね……よろしく」



 こうして俺に初めて友達ができた。

 マサとの出会いにより、俺の人生に光が射し込まれた。


 マサを通じて他にも友達ができた。最初の頃怯えられて、マサの仲介無しじゃやり取りができない間柄ではあったけど、その関係は日々を追うごとに良化した。


 クラスや学校行事にも積極的に参加した。バイトの兼ね合いで部活には入らなかったが、自分なりに充実した学園生活を過ごしてゆく。こうして俺は少しずつ学校が好きになった。



 そして1年が過ぎクラス替えが行われ、俺は桐島玲奈と出会った。

 彼女は俺の人生に彩を与えてくれた。彼女の事を想うだけで胸が苦しくなり、ただ同じ空間にいられるだけで幸せな気持ちになれた。



 竹田と梅津とも知り合い、俺には新しい友達ができた。1年の頃に増して学園生活は充実する。こうして俺は学校が大好きになった。



 リリアと出会ったのはそのひと月後の事。

 リリアとの出会いにより、俺に生きる目的ができた。





 ―――陽の光がカーテンの隙間から差し込み、次の日の朝を迎えた。

 目覚ましなしで起きるなんて、流石は俺様だ。でも明日からは念のため、携帯のアラームをセットしておこう。

 俺は携帯のアラーム設定をした後、リリアを起こした。布団を捲り身体を揺する。



 「起きろリリア、学校行くぞ」

 「……はい」

 「これパンとジャム」


 リリアは無言でそれらを受け取り、文句も言わずに食する。

 昨晩のカグラ・セイジとの件もあり、俺は気を回すように会話を続ける。


 「いつも質素で悪いな。明日には給料が入るから、休日はどこかで外食しよう。何が食べたい?」

 「……どこでもいい、光助が好きなところで。期待しない程度に楽しみにしている。ごちそうさま。お風呂入ってくる」


 そう言うと、食事を終えたリリアはおぼつかない足で浴室に向かった。

 俺は着替えや暴発する髪のセットをするなどして、リリアが入浴を済ませるのを待つ。



 「……ふう、さっぱりした」


 ちょうどこちらの支度が終わった頃、リリアが部屋に戻ってきた。金色の長い髪を湿らせ、絹のように滑らかな素肌はほんのりと薄紅色に染まっている。


 ……って、なんで素肌が大胆に露出されてんだよ? 下着姿で部屋の中をうろつくな。一応バスタオルは持っているけど、何の意味にもなってないから。


 「だから、服に着替えろっつってるだろーが!」

 「ふぐ!」


 俺はリリア目がけて制服一式を投げつけた。

 リリアは顔面でそれらをキャッチし、大人しく浴室に向かう。




 こうして俺は今日もリリアと共に学校へ行く。

 充実したハードな1日を過ごしていく。




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