やっぱり気にくわないわ
何だそれ? つまり俺を殺しに来たってのは嘘だったのか?
俺を試しに来たのが真の目的って……つくづく気にくわない人だな。
カグラ・セイジはまだ俺達が理解してないと思ったのか、説明を続けた。
「たしかにクロスニクスの言う通り、心核の共有を禁止する法はない。理由は今までそんな無謀な事をする者は1人もいなかったからだ。だが地上人との過度の接触を禁止し、重い罰を与える法ならある。団長はそうならないよう先手を打ち、お前を騎士団に引き抜こうとした。感謝する事だな」
「……やってくれるわね、あのひげは」
リリアは深いため息をついて腰を下ろし、今の状況を受け入れた。
俺は少し納得がいかない点がいくつかあり、カグラ・セイジに質問をした。
「あのカグラさん? もし俺がリリアのパートナーとして相応しくないと判断すれば、俺を殺していましたか?」
「ああ、生意気なやつは嫌いだからな。だがこれからは同じ騎士団に所属する同士。好き嫌いで判断しないから安心しろ、地上人」
やっぱりかこの野郎! てかどんなけ上から目線? いや実際年齢も何から何まで上だろうけど、せめて名前で呼んでもらいたいものだ。
「……破馬光助です。俺は別に騎士団に入ろうが入るまいが、あなたと仲良くするつもりはない。イケメンだしリリアいじめるし」
「別にいじめたつもりはない。事実を話しただけだ」
「性格悪いな」
「お前は頭が悪い」
俺達は互いに目を細めて犬猿しあった。
イケメンで黒髪ストレート。リリアを越える力を持つ男、カグラ・セイジ。俺は勝手にこの人の事をライバル認定した。
「……あなたに俺は負けたくない。いつかその整った顔に傷つけてやりますよ」
「ほざけ。早く殺されて力を持ち主に返せ。この雑魚が」
「雑魚って言う人の方が雑魚なんですよ、この地上界の常識です」
「戯言を言うな、カス」
「あ! カスって言う方が―――(以下略)」
「ふん、貴様の相手などしていられるか。とんだ茶番につき合わされてしまったよ。リリア・クロスニクス、俺は帰るからな。誰かさんと違い、忙しいから」
「……ええ」
俺に暴言を吐き散らしたカグラ・セイジは左指にある指輪を空に掲げた。すると光の柱が暗雲を突き抜けそびえ立った。
「これは―――シャイニングゲート?」
「ええ。騎士団に所属する者は指輪を使用する事で、地上と天界を行き来する事ができる。他界との干渉を個人で実行できる唯一の存在、それが騎士団に属する者達なの」
「ならこれを貰った俺は天界に行けるのか?」
「そうなるわね」
「……ではな。何かあれば連絡を入れろ。気が向いたら助けてやる」
カグラ・セイジは光の中に入り、上空へと消えていった。
何が気が向いたらだよ、助けるつもりないくせに。寧ろ敵に加勢するだろ?
―――て、今のは俺に向けられた言葉ではないよな絶対。イケメンも女の子には優しいんだから。あーうぜぇ。
「さぁ、片づけを始めましょう。任務外だと経費でおとせないから。これだけの被害だと修復費用がばかにならないし、節約しないと。光助はこれを使って」
「ああ」
カグラ・セイジが立ち去った後、俺とリリアは後処理を行った。戦闘によりできた損害を天界アイテムを使い修復する。
天界アイテムとは天界で開発された産物で、地上で言うところの家電製品のような物。構造は家電製品とはかなり変わっており、電気ではなく心核の力を動力源として作動する。
アイテムの種類は様々あり、一般に出回る物から使用に制限がある物まで様々ある。リリアの持つ外錬装具もあえて位置付けをすれば、天界アイテムの一種となるだろう。
今修復に使ってる箒はかなりの優れ物だったりする。見た目はただのレトロな箒だが、専用の資格がないと使えない代物である。
リリアは天界アイテム全般を取り扱える資格を持ってた。その為、管轄内にいる俺も使用する事ができる。
「これマジですごいな。焼け跡とかも、髭先に触れただけで元通りになるんだもんな」
「これは地上界専用の修復箒。つい先日出たばかりの新型だから、性能は折り紙つき」
「だったな。騎士団に所属する奴はみんなこれ持っているのか?」
「いいえ、このクラスの物を持つのは修復専用の仕事を生業にする人だけよ。結構値ははるし、資格だって簡単には取得できないから」
じゃあどうしてリリアは両方持っている? 家電マニアや資格マニア、そういった類いの人種なのだろうか? ―――そう思ったが、俺はそれを口にはしなかった。そんな事より、他に言いたかった事があったから。
「つーかあのイケメン、片付けもせずに帰りやがって。気にくわないわ」
この日はカグラ・セイジのお陰でひどい目にあった。いつもの特訓よりも心核の力を大量に使った。そんな状況下で後処理をするのだから、彼に対する憎悪は相当なものとなる。
まぁ大変な目にあったからこそ、リリアとは前以上に親しくなれた気がすのだが。必殺技みたいのも習得出来たし。
カグラ・セイジは俺とリリアが放った斬撃をユニゾンスキルと呼んでいた。ユニゾンって、つまり融合って事だよな? 俺は先程の感覚に思いを浸らせながら、リリアに声をかけた。
「凄かったなさっきの一撃。あの人には効かなかったが、威力としては申し分なかった。ユニゾンスキルについて詳しく教えてくれるか?」
「複数の装具の力を合わせて発動できる高等スキルよ。私は2つの属性を持つ装具を所持していたから、単独でそれができた。複数人で行う場合は心核の波長を合わせる必要があるから、体得するのに何年もかかると言われている」
「つまり俺とリリアは心核を共有してるから、即興でできたのか?」
「そうよ。ちなみにさっきの技は2つの光が十字に合わさり放たれる様子から、クロス・ブレイバーと名付けている。私の奥義的存在。まぁ今回は本来の半分しか威力が発揮できなかったのだけど」
あれで半減されていたのか? 本家の技はどんなけ強いんだよ?
てかこれって、遠回しに俺を非難してますよね? 俺は落ち込んだ様子で愚痴をこぼす。
「……俺のせいですよね? 足ひぱってすみません」
「あれは相手が悪かっただけよ。カグラが斬撃を断ち切った瞬間、強い力の波動を感じた。あの時だけは奴も本気だったみたい。だから気にする事はない。普通の相手なら、跡形もなく消し去っていたのだから」
「……そっすか。まぁでも、大事にならずに済んでよかったな。後始末は大変ではあるけれど」
「ええ。今思うと、かなり無茶したと思う。私もだいぶ頭にきていたからね。反省してる。今後はクロス・ブレイバーの使用を控えましょう。時と場所は考えないと」
カグラ・セイジが現れてから感情の揺らぎが大きかったリリアだったが、今はもう冷静沈着で無垢な、いつもの雰囲気に戻っていた。
この様子なら以前俺の名前をバカにした仕返しとして「なんだよクロス・ブレイバーって? 中二病臭い」と言ってやってもよかったのだが、口数を増やし受け答えをしてくれたのが素直に嬉しく思えた。
「……そうだな」
そう言葉を返し、俺は気分よく清掃に取りかかった。




