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心核のキズナ  作者: 水鳥潤
変わる日常
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フライアゲイン




 この日はリリアのおかげで普段以上に学校で体力を使った。学校が終わると、俺はリリアを連れてバイト先へと向かう。


 本日はコンビニではなく、レストランの調理補助のアルバイト。リリアは調理場から近い席に座り、甘いカフェラテと大盛のナポリタンとビーフシチューを頼んで時間を潰した。


 店内には22時頃までいた。仕事を切り上げ、リリアとは外で待ち合わせする。


 「それにしても、ずっと側から離れられないのって案外大変だな。リリアにはバイトの間、ずっと待ってもらってたし。悪いな」


 帰り道の途中、俺は今日一日の事を振り返って話しかけた。


 「構わないわよ。今はあなたの都合に合わせているけど、私の用事に付き合ってもらう事もあるだろうし」


 「リリアの用事?」


 「ええ。一応地上の滞在任務中だから、その関連でね。他にも沢山あるんじゃないかしら。ほら、今朝みたいな事も含めるとね」


今朝ね……下着を買わされたことか。あれはタイミングさえ違えば、たいした用事じゃなかつたんだけどな。


 「だったな。まぁいつでも気軽に言いつけてくれよ。できる限りはリリアに合わせるからさ」


 「……それはよかった。実は早速行動したい事があったの」


 そう言うと、リリアは俺の手を掴んできた。


 「……え?」


 「ほら、ついてきて」


 強引に身体を引き寄せ、思いもよらぬ方向へと俺を連れ出す。


 さっきも別に綺麗事を言ったわけではなく、本心でリリアの都合を優先させようとしていた。

どんな状況だろうと中断する気でいたし、今朝のような突然の要望に対処できるよう身構えもしていた。


 それでも手が触れ合った瞬間は強く胸を高鳴らせ、次に起きた出来事には臆してしまった。




 まさか「空に連れ出される」なんて思ってもみなかったから。



 天界人には地上の常識は通じないようだ。リリアの背中から生えた細く赤い羽。数にして4枚。大人2人を運ぶには理論上不可能な大きさでも、問題なく猛スピードで市街上空を移動する。


 辺りの建物に干渉しない程の高さを飛んでいるので、高所による恐怖はかなりのものだった。俺は目を泳がせ口を開ける。


 「ど、どうやら俺は高いとこ苦手らしい! 先日穴から落ちた影響だと思う! やさしく降ろして欲しい! 無理ならもう少し低く飛んでくれないか?」


 「これ以上低く飛ぶと人目についてしまうから、その要望には答えられないわ。むしろ、もっと高く飛びたいくらい」


 リリアは頬笑みながらそう言った。


 「どSかお前は」と偉そうな事を口にすれば実行されると思い、慌てて言葉を飲み込む。


 「……このままで結構です」


 俺は声のトーンを下げて丁重に断りを述べた。


 

 「そう、それは残念ね。ちなみにだけど、今のあなたなら、この程度の事は3日もあれば習得できるわよ」


 「そうなのか?」


 「ええ、あなたはもう普通の地上人じゃないから。体内にある心核がそれを可能にさせる。命を失った代償は大きくても、得たものもいくつかあるのよ」


 「そうなんだ。別に空飛べたって嬉しくはないけど。ちなみに今はどこへ向かってるんだ?」


 「地底人の元よ」



 地底人というと、下の世界にいた赤い目の人間の事だよな?


 「あの場所に行くのか。一度死んだ場所でもあるから、好んでは行きたくないな。そうは言っても、リリアが行くのなら俺はついて行くけどさ」


 俺は愚痴のような物をぼそっと呟いた。


 「安心して、地底には行かないわよ。地底人を殺しに行くの」


 するとリリアから思わぬ言葉が返ってきた。

 俺は首を傾げ反論する。


 「いや、地底人って地底にいるから地底人だろ? そいつらを始末するなら地底に向わないと。あいつら地上へは上がってこれないもんな」


 「……光助は少し誤解をしているようね。地底人は地上にもいるわよ」


 「え? でもあんな人間なんて見た事ないぞ」


 「当前よ、公の場に出れば拘束されるもの。地上にいる地底人は一般社会に溶け込み活動している。力を使わなければ多くの目は誤魔化せるし。彼らがぼろを出すとすれば、地上に穴を作り、地底から正気を吸いとる時くらいかしらね」



 地上に穴を作る――その言葉がやけに耳に残った。


 思い返されたのは2日前、桐島と別れた後に見た異様な光景。

靄のかかる虚無空間。その中にできていた巨大な1つの穴。あの現象を起こしたのは地底人だっていうのか?


 「……つまり、地上にいる地底人が桐島を地底に連れ込んだのか? 偶然できた穴に落ちた訳じゃなくて」


 「そういう事になるわね。本来あの空間は人を寄せ付けない為に張られた結界。運悪くあなたと桐島さんは迷い込んでしまったわけ。ちなみにだけど、この先にいるのは先日の穴を開けた張本人よ」


 「え? そんな事までわかんのか?」


 「まぁね。実は今日、あの場で感じた気配を放つ人間と遭遇したから。念のため発信機つけておいたの」



 リリアの発言に驚きを隠せなかった。 

 今日一日、俺はずっとリリアと行動を共にしていた。リリアが地底人らしき人物と遭遇してるって事は、俺も何かしらの形で出会ってる事になる。

  

 「……そうなんだ。優秀なんだなリリアは」


 様々な感情で揺れ動く中、俺は気のない言葉を返した。


 「どうも。現場についたら光助は隠れていてね。地底人の始末は私がするから」


 「……ああ、よろしく頼むよ」


 リリアの言葉を受け、また気のない返事をした。




 ——桐島を危険な目に合わせた張本人がこの先にいる。そう思うと怒りが込み上げてきた。それは大切な人を思う、当たり前の感情から生まれるもの。


 それを単純な怒りとして出せないのは「もし知り合いが地底人だったら」という不安があるからだ。


 そもそも相手は俺にはどうする事もできない、手も足も出ない存在。俺がどう思おうが、状況はさして変わらない。



 無力な自分が情けない。やるせない気持ちにかられる。





 「……あなたって人は。急ぐから、しっかり掴まっていてね」



 不毛な感情、これらをかき消してくれたのは高所による恐怖だった。有難い事に、リリアは飛行スピードを上げてくれた。おまけに高度も上げてくれた。



 「あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! ! ! 」



 当然、大声を叫ばずにはいられなかった。俺にとって辛い時間はもうしばらく続く。








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