2度目の初絡み
会話を終えて気分よく歩いていると、リリア俺の袖を掴み、歩く足を止めてきた。
隣に顔を向けると、彼女は俺とは別の方向に視線を向けている。
「……おい、どうしたんだよ?」
「地上のコンビニって、ある程度の物は揃っているのよね? 靴下とかシャツとか」
「ああ。衣類関連も、俺の働く店には置いてあるよ。ちょうどリリアが視線を向ける店だ」
「そう。実は私‘パンツ’をはいていなくて。買いたいので付き合ってくれるかしら?」
何かあれば言えといったが、最初のお願いがパンツ買いたいですか。
て か 、 今 ノ ー パ ン な の か よ !
何 考 え て い る ん だ こ い つ ! ?
「すぐに買ってきなさい!! 俺は外で待っているから!!」
俺はリリアに1000円札を2枚握らせ、1人で買いに行かせた。
リリアは落ち着いた様子で店内に入った。
目的の物はちゃんと買えるのだろうか? 方向音痴といい、リリアは妙なところが抜けているからな。
店の人に女子といるところを見られたくないし、ましてや一緒にパンツは買えない。俺はそわそわした様子で腕を組み、リリアが店から出てくるのを待つ。
「——破馬君だよね?」
すると俺は誰かに声をかけられた。
声のする方へ顔を向けると、側に黒髪の女性がいる事に気がつく。
「お、おはようございます」
声をかけてきたのは桐島玲奈だった。耳元の髪をかき上げながら、俺の側に立ち話しかけてきた。
「あ……その……」
桐島の突然の登場に、俺は驚きを隠せなかった。頭の中では話したい事は山ほどあるのに、それを口にできない。
「ごめんなさい、同じクラスの桐島玲奈です」
うろたえていると、桐島は頭を下げ、律儀に名前をフルネームで名乗ってきた。
「なぜ自己紹介する。知っているよ!」
慌てて突っ込みを入れると、
「そうなの? よかった、初めて話しかけたから不安だったんだ」
桐島は頭を上げて、安心した表情を浮かべた。
(あ、やべ、目の前に天使がいるわ)
彼女の笑顔に癒しを感じながら、
「……なぁ桐島、2日前の事覚えているか?」
俺は気がかりだった事を尋ねてみた。
「2日前? その日は学校行く途中に気を失って病院に搬送されたらしいよ」
「もう平気なのか?」
「うん、平気だよ。昨日もゆっくり家で休んでいたし」
桐島は2日前の出来事を覚えていなかった。実際にあった記憶をすり替えられている様子だ。さすがは天界人、やる事が地上の常識から逸脱している。
「そっか。それはよかった。心配したよ」
それでも桐島は2日前と同様、俺に声をかけてくれた。それがたまらなく嬉しくて、俺は浮かれてしまった。
一 緒 に い た 女 子 の 存 在 を 完 全 に 忘 れ て … …
「光助、パンツ買って来たわよ。ブラジャーは売ってなかったのは残念だわ。しばらく我慢するしかないか。あ、でもパンツはちゃんと買ったから。家に戻ったらはくからね」
リリアはパンツの入る袋を持って、俺達の前に颯爽と現われた。
この子、なんて問題発言してくれる?
てか、ブラもつけてなかったのかよ! 白のTシャツとか渡していたら、透けて見えていたのかよ? ぽろりもあったな!
「は、破馬君!? こ、この子は誰なの!?」
桐島は俺を軽蔑するように、小刻みに体を震わせながら質問をしてきた。
桐島だけには誤解されたくない。そう思った俺は小さい脳をフルに使って、どうすればこの状況から脱出できるか模索した。
「こ、この人は別に怪しい人じゃないよ!」
焦りがかなり生じていた。単純な言葉しか口にできなかった。
するとリリアは何を思ったのか、
「そうです、私はあなたの命の恩人です」
俺と桐島の会話に割って入ってきた。
「は!?」
俺は声を半音あげて驚いた。
すると桐島は首を傾け、リリアに質問を投げかける。
「……恩人ですか。すみません、私達どこかでお会いしましたか?」
「ええ、この世界の下の地底……」
「そ、それじゃ、また後で!」
収集がつきそうもない混沌の状況。
耐えられなくなった俺はリリアの手を引き、この場から走り去った。
道中、リリアは無関係面で焦る俺に話しかけてくる。
「よかったわね。彼女あなたの事悪くは思っていないみたい。女子って、どうでもいい相手にわざわざ自分から声をかけたりしないもの」
「そりゃどうも! だが何故いらん事言う? せっかく桐島こないだの事忘れていたのに」
「確認の為よ。それにあなたの焦る顔が見たかったから」
「本 当 性 格 悪 い な !」
桐島が無事でよかったが、妙な場面を目撃された。あの状況を察するに、桐島は妙な誤解を抱いた可能性が高い。
一緒にいた少女は男物の寝巻を着ていて、しかもコンビニで下着を買ってきただと? もう完全に俺とリリアが恋仲みたいに見えるじゃないか!?
再度訪れた桐島との絡みは思いもよらない結果に終わった。
俺は走る足を休めることなく、自宅へと帰還した。