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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第10章 ~謎の転校生とか求めてないから~
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謎の転校生とか求めてないから 8

 ようするに、

「リンって娘は、英雄症候群ヒロイックシンドロームってやつなんだね」

 実剛が言った。

 場所を巫邸に移した子供チーム。

 槍使いの少女は、さすがに同行していない。

「英雄症候群? なんですそれ?」

 聞き慣れない言葉にきょとんとする絵梨佳。

 居間に集まっているのは、実剛、絵梨佳、佐緒里、光則。それに美鶴と光だ。

 うち四人がこの家に住んでおり、さらにもう一人は毎度の食事を一緒にしている。

 まったくの他人は、光則ただ一人である。

「中二病みたいなもんだよ。べつに治療を必要とする病気じゃない。英雄たろうという願望が強い人のことさ」

 説明する次期当主。

 首をかしげるのは光則と光である。

 男の子なら、そんな願望は多かれ少なかれ持っている。

 実際、光のウィンドマスターという名乗りや、光則が大技を使う際の発動ワードなどは中二病丸出しな感じだ。

「だれにでもあることにレッテルを貼りたがるのが心理学ってやつだからね」

 肩をすくめる実剛。

 思うに、リンは強者に憧れている。

 自ら強くなろうという気持ちの他に、強者を認めようとする心理作用が強いのではないか。

「それで坂本光則に惚れたとか、あたしを姉とか、そういう話になるのね」

 むむとうなる佐緒里。

 どうにも厄介な話であるが、まあ敵対しているよりはずっと良い。

「光。変なお姉さんっぽいから近づいちゃダメよ」

「おうっ 君子危うきに近寄らず、だなっ」

 ウインドマスター(笑)の言葉に、場がざわついた。

「なん……だと……」

 うめく光則。

 光が格言を使った。

 ありえる事態ではない。

「ちゃんと憶えたね。えらいえらい」

「えへへへー」

 よしよしと頭を撫でる美鶴と、まんざらでもなさそうに目を細める光。

 リア充がいた。

 成績の良い彼女に勉強を教えてもらうとか。

「くそがっ」

「まあまあ」

 荒む砂使いの肩を、実剛が叩いてやる。

 たいして慰めにもならなかった。なにしろこいつもリア充のひとりだから。

「けど兄さん。神が高校生なんかになれるの?」

 ふと心づいたように妹が訊ねた。

 たしか先日の戦闘の際、日本国籍を持っていない旨を語っていたはずである。

「そこはまあ、政府が裏にいるならなんとでもなるんじゃないかな」

「政府の仕事は法律を守らせることで、破らせることじゃないと思うんだけどね」

「仕方ないよ。権力ってのは、無実の人間を合法的に処刑台に送り込む力だからね」

 妹の理想論に肩をすくめてみせる兄。

 日本政府がその気になれば、この国でできないことなど何もない。

 超常現象的なことを除いては。

 それが世俗の権力というものだし、だからこそ、超常の力を持つ者を怖れるのだ。

 御前にせよ澪の血族にせよ鬼の一族にせよ、ルールを力ずくで破ることができる存在だから。

「つまり兄さんは、あの槍使いを受け入れるってことね?」

「友好親善使節ってことでね」

「どこからの?」

 確信に迫る問い。

 日本の使者か、御前の使いか。

 それによって対応も異なるというものだ。

「名目はバンパイアロードからの監視役で埋伏の毒。実質は日本政府が生き残るための人質、思惑が錯綜しているので、一言で言い表すのは難しいですね。美鶴嬢」

 割り込む声。

 魚顔軍師のものだ。

 一斉に振り返った仲間たちの視線を浴びて立つ信二。

 手に提げたビニール袋を示す。

「澪豚に寄ってきました。夕食、まだでしょう?」

「ありがとう信二さん。でも抜けてきて良かったの?」

 歩み寄った美鶴が土産を受け取りながら訊ねる。

 ずっしりと重い。

 中身はテイクアウトの豚丼が十人前ほどだ。

 首相が宿泊する温泉ホテルと澪豚は、程近い場所にある。

「酒宴が始まってしまったので。ああなると大人たちは手が着けられませんから」

 どっこいしょとソファに腰を下ろす。

 おっさんくさい仕草だ。

「おつかれさまです。信二先輩」

 労をねぎらいながら、実剛が缶入りのお茶を差し出した。

「本当に疲れましたよ。話の内容もさることながら、灰色空間に」

「ご愁傷様です」

 愛煙家だらけの大人チームである。

 煙草を吸わない信二には、さぞ辛かったことだろう。

「久保リンでしたか。彼女のことは受け入れます。御前や首相の思惑がどうあれ、彼らの戦力を抱き込める可能性を見過ごすことはできませんから」

 お茶で喉をしめらせ、軍師が言う。

 もとよりそのつもりではあったが、信頼する軍師の提案である。実剛に否やはない。

 軽く頷いて見せた。

「問題は為人ですが、どうでしたか? 佐緒里嬢」

 鬼姫に振る。

 手合わせから、何か得るものはあったか、という類の問いだ。

「曇りのない戦いぶりだった」

 佐緒里の言葉は短い。

 言葉が足りないと判断した実剛が前後の事情を補足説明した。

「そうですか」

 微笑する魚顔。

 きもい。

「当主どのから、槍使いが何者かという推測をいただいています。得心するところが多かったですね」

 英雄症候群の話にも大いに納得できる部分があった。

 強さを求め、愛のために戦う英雄神。

「つまり、ケルト神話のク・ホリン」

「まんまじゃねーかよ……」

 げっそりする光則。

 久保リンの正体はク・ホリン。

 もうすこし捻ってもばちは当たらないだろう。

 とはいえ、ケッツァルカトルがカトル、サトゥルヌスがサトルだったのだから、名前をもじるのは予想の範囲内ではある。

「あるいは、まったく別の名前は名乗れないのかもしれないわね。自我同一性(アイデンティティ)として」

 美鶴の意見だ。

「それはあるかもしれませんね」

 頷く軍師。

 きょとんとした顔を見合わせる絵梨佳と光。

 ふたりには難解すぎる言葉だったらしい。

「拷問器具のことよ」

「さらっと嘘を教えない。佐緒里さん。それはアイアンメイデン。ぜんぜん近くないから」

 実剛が突っ込む。

 自我同一性とは、ようするに自分は何者で、何をすべきか、という概念である。

「抽象的すぎてよくわからないな」

 降参だと手振りで示す光則。

「神……首相は転生者と呼んでいましたが。彼らは堕された神が、人の身に転生したものであると考えられます」

 信二が説明する。

 異星人の遺伝的特質を受け継いでいる澪の血族とは、似て非なる存在だ。

 人は名を変えても生きていけるが、神という存在はそうではない。

 名を変えた時点で、それは別の神になってしまう。

「わかったような、よくわからないような……」

「概念の話ですからね。しかもただの可能性です」

 軍師が笑う。

 名前にこだわりがあるだけかもしれないのだ。

 推測以上のものは、現時点では出てこない。

 難しそうな話には参加しない光と絵梨佳が席を立ち、全員に豚丼を配る。

「それで、久保リンはどうするの? 凪信二」

 割り箸をわった鬼姫が、本質的な部分を問う。

 政府や御前の思惑はべつにして、澪……というより、子供チームはリンをどう遇するのか。

「抱き込みます」

「どうやって?」 

「佐緒里嬢に懐いてたようですからね。うまく手懐けてください」

 無茶振りだ。

 人間関係の機微に疎い短慮な姫君に何を求めているのか。

 周囲が止めるよりも早く、

「是非もない」

 頷く佐緒里。

 なんというか、やる気満々であった。



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