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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第9章 ~うごめくモノども~
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うごめくモノども 8

 実剛が駈ける。

 一直線にバンパイアロードを目指して。

 フェイントも何もない。

 ただ剣を大上段に振りかぶり。

「……なんだそれは?」

 心の底から呆れたような声で、御前が赤いレイピアを閃かせる。

「ヤァ!」

 気合いとともに振り下ろされた剣。

 声だけは一人前だが、素人同然の動きだ。

 つまらなそうに御前か受ける。

 儀礼のようなものである。

 仮にも敵方の総大将が一騎打ちを挑んできたのだから、礼儀として二、三合程度は打ち合おう、というわけだ。

「タァっ!」

 今度は胴薙ぎ。

 遅い。

 学生の剣道だって、もう少しは様になっているだろう。

 不本意の極地ながら、これも受けてみせる。

「やるなっ! バンパイアロードっ」

「…………」

 貴様がやらないだけだ、と言いたいのをこらえる。

 腰も据わっていないし動きも鈍い。

 これでは普通に戦闘訓練を積んだ人間にすら勝てまい。

 武器を手に入れて増長したか。

 ドラマチックに剣を託され、自分も戦えると勘違いしたのか。

 もう一度、上段から切り下ろしてくる実剛。

 工夫もなにもない。

 一度防がれた剣筋をもう一度使うなど。

 哀れすぎる。

 いささか馬鹿馬鹿しさを覚えながら、右手の剣をかざす。

 何を考えているか判らないが、三合もつきあえば充分だろう。

 これを受けたら、この哀れな羽虫を潰してやれば良い。

 この少年は、あまりにも場にそぐわない。

 殺してやった方が本人のためだろうし、復讐に猛り狂う眷属を相手にした方がずっと面白そうだ。

 片刃の剣と細剣がぶつかる。

 これで終わりだと唇をゆがめる御前。

 だがその余裕は、極短命の寿命しか持ち得なかった。

「ぐぁぁぁぁぁぁっ!?」

 響き渡る絶叫。

 床に落ちるレイピアの刀身と、柄を握りしめたままの御前の右腕。

 それらを捨てたまま、バンパイアロードが大きく跳びさがる。

「残念。かわされたか」

 実剛の声。

 本来なら、御前の身体は縦に両断されるはずだった。

 ぎりぎりのところで回避されたのだ。

 実剛の腕が悪かったのと、御前の反射神経が怪物級だったのと、おそらく両方の理由で。

「小僧……っ」

 左手で右の肩口をおさえる。

 瞳に怒りの炎を灯して。

「これ、剣に見えるだろうけど、じつは高周波振動発生装置なんだ。分子レベルで物質を切断するらしいよ」

 実剛が語る。

 津流木から受け取ったとき、思い出した記憶の断片。

 彼らの先祖が残した玩具。

 それが、ツルギ。

 武器というほどのものでもない。

 レラが趣味の木工に使っていた道具である。

 助手にする人造人間(クローン)を作るときに、便利だという理由で体内に内蔵させた。

 剣の形を取って顕現したのは、悠久の刻の中で心象が変わっていったのだろう。

「分子カッターだと……?」

「そういう風に言っちゃうとSFっぽいけどね。べつに現代科学で作れないようなもんじゃない」

 医療分野でも実現されている。

「そういうことだ」

 言葉とともに、御前の腹から長剣が生える。

 否、背後から貫かれたのだ。

「ぐぼぁっ!?」

「実剛とだけ遊ぶな。寂しいだろう?」

 御劔だ。

 二人が戦いっている……というより実剛が注意を引いている間に、背後に回り込んでいたである。

 そのまま横に薙ぎ払う。

 右腕を失い、腹を裂かれた御前だが、まだ灰化はしない。

「き、さまら……」

 酔漢のようによろめきつつも、瞳はまだ輝いている。

 警戒しつつ、距離を取る御劔。

 もちろん実剛も追撃などしない。

 奇襲が通用するのは一回だけと判っているから。

 御前は尊大で残忍な性格と読んだ実剛は、自分をエサとすることで罠を張った。

 大将自らが前線に立てば、間違いなく接近戦に応じるだろう。

 実剛のような未熟者が相手ならば、なおさらだ。

 そして無惨に殺すことで、澪陣営の憎悪を煽る。

 そのための前段階として二度や三度は攻撃を受けてみせる、そう実剛は判断した。

 小細工のネタはツルギと、未熟極まる剣技。

 一撃目で使えば当たる公算は高いが、それで勝負が決まるとは限らない。

 回避されたり、致命傷を与えられなかった場合を考え、後詰めを御劔が務める。

 彼が配置に付くまでの数秒を稼ぎ出さなくてはいけない。

 そのために芸のない攻撃を二度行った。

 一度目と三度目を同じ攻撃にしたのは、実剛の実力を正確に計らせるため。

 油断してもらってこそ、勝算も高まるというものだ。

 ゆえに、もう実剛は攻勢には出られない。

 体力もなく体術ももたない彼が前に出れば、一撃で葬られるだけだ。

「どうする? 吸血鬼の王よ」

 剣を突きつけたまま、御劔が問いかける。

 降伏勧告。

 聞き入れられるとは思っていないが。

 唇をゆがめる御前。

「答えのわかっている質問は時間の無駄だぞ。勇者」

「であろうな」

 ぐっと踏み込んで長剣を突き出す。

 次の瞬間、バンパイアロードが霧散した。

 文字通り黒い霧となったのだ。

 さすがに驚いて跳びさがる勇者。

 左手で口を押さえて。

 霧を吸い込んだら、どんな悪影響があるか判らないからだ。

 わだかまっていた霧が玉座の前でふたたび人の姿をとる。

 隙なくスリーピースに身を包んだ壮年の男の姿を。

 切り落とされたはずの右腕も元に戻っていた。

 床に落ちているのは真っ二つになったレイピアだけだ。

「……とことんまで非常識だな。吸血鬼の王」

「眷属の身体からSF武器を取り出す連中に言われたくはないがな」

「実剛は何をしても良いのだ」

 きっぱりと言う。

 遠くの方で、実剛が微妙な顔をした。

 友情が重い。

「しかし、こんなことをしていても良いのか?」

「なんだ? 突然」

「サトルやカトルが出てこないこと、不思議には思わぬのかということだ」

 実剛たちが先日、首相官邸で戦った魔族たちの名だ。

 ふ、と御劔が笑う。

「時間稼ぎか。どうやら元に戻ったのは姿形だけのようだな」

「忠告だよ。彼らは今、澪を襲撃している」

「なに?」

「ここで我を倒しても、貴様らに帰る家などないということだ」

「世迷い言をっ!」

 猛然と勇者が突きかかる。

 速い。

「だが、隙だらけだ」

 危なげない回避から繰り出される拳。

 左肩をかすめる。

「ぐっ」

「どうした? 剣筋が乱れているぞ」

 連続する攻撃。

 なかなか御劔は立て直せない。

 やっと見つけた安住の地がなくなるかもしれない。その懸念が、彼の集中力を殺いでいるのだ。

「くっ 実剛っ!!」

「わかってるっ でも繋がらないんだっ!!」

 携帯端末を操作しながら怒鳴り返す少年。

 澪町役場の電話番号が不通になっている。

 ありえることではない。

 公的機関なのだ。

 まさか。

 まさか本当に澪はもう壊滅したのか。

 悪い予感が染みとなって、実剛の心を蚕食してゆく。

 どうする。

 戦場を放棄してでも澪に戻るべきではないか。

 一瞬の迷い。

 と、目前を青いものが通過する。

「よいしょっ!」

 遅れて聞こえる声。

 婚約者のものだと気づいたのは、御前が蹴り飛ばされるシーンを頭が認識してからだった。

「絵梨佳ちゃんっ!?」

「はいっ」

 戦域に乱入して、いきなりボスキャラを蹴り飛ばした少女が、少年に笑顔を向ける。

「こっちは片づきましたっ」

 たなびく成層圏の蒼(ピュアブルー)の髪。

 視線を転じると、佐緒里と五十鈴が親指を立ててみせる。

「萩に同じ手は二度通じない」

 相変わらず何を言っているか判らないが、弓矢との連携で短時間のうちに全滅させることに成功したということなのだろう。

「問題ありませんよ。御大将」

 信二が告げる。

 自信に満ちて。

「こっちが陽動なのは織り込み済みです。澪はちゃんと迎撃してますよ」

「父もいるしな。不本意ながら」

 苦虫を噛み潰したような佐緒里の顔には、だが信頼が滲んでいた。

 ふうと息を吐く実剛。

 そうだ。

 仲間を信頼せずして、なにが大将か。

 澪には伯父がいる。妹もその守人も。

 御前の戦力がどれほどのものか知らないが、大丈夫だ。

 絶対に守りきれる。

「ごめん。動揺しちゃった。もう平気」

 いつもの横回転ジャンプで横に着地した絵梨佳に微笑みかける。

「心配なんてしてませんよ。実剛さんは最強ですからね」

「メンタルだけね」

 婚約者の髪を軽く撫でる。

「じゃ、そろそろ〆ましょうかっ」

「OK。みんなっ! 今度こそ本当に鬼退治だっ」

『応っ』

 仲間たちの声が重なった。




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