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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第9章 ~うごめくモノども~
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うごめくモノども 3

「戦況はどうなっている?」

 治療を終えた鉄心が副町長室に駆け込んでくる。

「良いとはいえねぇな。信一たちも戦闘状態に突入したぜ」

「どっちだ?」

「八雲方面」

「自衛隊か」

「官邸で戦った連中かもしれねぇ」

「きついな」

 交わされる会話。

 八雲には自衛隊の基地がある。

 ここまでの流れから、襲撃者たちはここを経由して侵攻してきたと考えるべきだろう。

 庁舎前の戦いは、こちらの能力者が参戦したことでほぼ互角に推移している。

 だが、八雲方面に振り向けられる能力者がいない。

 沙樹は負傷した町民の治療で手一杯だし、鉄心がここを離れては暁貴が孤立してしまう。

 信一が率いる第一隊三十名と勇者隊四名だけで対応するしかないのだ。

「最悪、俺が出るしかないが」

「当主が城を捨てて迎撃にでるのか? その瞬間に志気が瓦解するぞ」

 苦言を呈する鬼の頭領。

「だが……」

「おちつけ。暁貴。勇者隊もいるんだ。この前のような無様を、第一隊も晒すまい」

 ことが戦闘であるならば、第一隊は強い。

 もともとが超人である。

 潜入迎撃には向いていなくとも、戦いに備えた訓練は積んできたのだ。

「それに、演習での信一の指揮はなかなかのものだったぞ」

「いまは信じるしかないってことか……」

 ぐっと拳を握りしめる盟友の肩を、鬼の頭領が叩いた。





「人間爆弾……」

 内院を見遣った実剛が愕然と呟く。

 咄嗟に絵梨佳が張った重力の壁で彼らに損害はなかったが、庭はまだ爆風が吹き荒れていた。

 人質の体内に爆弾を仕込んで爆発させる。

 悪魔の戦術。

 あの場には澪の血族と勇者の他にも、御前の下僕たちもいたが、まとめて爆発に巻き込んだ。

「あんたは……っ」

 視線を転じて首魁を睨んだ。

「いろいろ考えていたのだ。澪の王子よ。助けにきた相手が爆発したら貴様らはどんな顔をするだろう、などとな」

 得々と語る御前。

 吸血によって眷属にはできなかった。宇蘭と津流木の妻である人間たちを除いては。

 もちろんただの人間を眷属にしても面白くも何ともない。

 人に戻してやることを条件に、当主たちの身体を解剖してみた。

「だが、べつに新たな発見もなかった。正直がっかりだったよ」

 肩をすくめて続ける。

 なので、爆弾を埋め込んでやることにした。

 助けにきた仲間とまとめて屠ることができれば一興。

 その程度の仕込みだった。

「しかし、哀れなものだな。我らの下僕となったものを元に戻す方法などないことは、いくつもの書籍に記されていよう。やはり田夫野人(でんぷやじん)は本も読まぬのかな」

「……だまれよ」

 だらだらと駄弁を垂れ流す男に、実剛が低い声をぶつける。

 ほとんど面識のなかった宇蘭家と津流木家であるが、だからといって、こんな死に方を願うほど不仲だったわけでもない。

 こいつは、生かしておけない。

「怒ったか? だが貴様にはなにもできぬだろう。力無き王子よ」

 嘲笑。

 御前が右腕を振り上げると、ふたたび動き出す吸血鬼ども。

「貴様らはここで終わりだ。澪も今頃はもう片が付いておろう。後顧の憂いはないゆえ、せいぜい派手に死んで我の目を楽しませてみよ」

 じりじりと包囲の鉄環が狭まる。

 倒す方法は判っていても、やはり数の差が大きい。

 佐緒里も絵梨佳も迂闊には飛び出せない。

 ガードを外すわけにいかないから。

「目を楽しませれば良いのか?」

 突如として響く声。

「では、つまらないものだが受け取ってくれ」

 爆炎の晴れ止まぬ内院から。

 言葉とともに飛びくる処刑刀。

 首をかしげた御前をかすめ、玉座に突き刺さる。

「あの爆風の中で無事とは、なかなか非常識なやつだな」

「貴様の頭の中身ほど非常識ではないから安心しろ」

 邸内に入ってくる人影ふたつ。

 むろん御劔と五十鈴だ。

「すまん。実剛。助けられなかった」

 謝罪する御劔。

「たった一人しか」

 続ける五十鈴。

 勇者たちの背後から飛び出す影。

 黒い瞳を怒りに燃やした青年。

「吸血鬼野郎……絶対に許さない……」

 津流木の息子だ。

 あの爆発の中、勇者たちはサイコキネシスで防御フィールドを形成したのである。

 もちろんそれは万能ではなく、彼ら自身とたった一人を守ることしかできなった。

 御前に指を突きつける。

津流木聖(つるき ひじり)。両親と友の仇、討たせていただく!」

 血を吐くような宣言。

 だが御前は、

「うるさいのが増えたか」

 退屈そうに欠伸をかみ殺しただけであった。





 足を止めての殴り合い。

 先に根をあげたのはカトルだった。

 バックステップで距離を取る。

「君はバカなのかい?」

 声がくぐもるのは、何度も殴られた顔が腫れているからだ。

 剣のような爪も数本が欠けてしまっている。

「男は、ちょっとバカなくらいが格好いいって、俺の彼女が言ってるからな」

 光の返答。

 彼もカトルと似たり寄ったりの有様だ。

 体中が爪で切り裂かれている上に、あちこちに折れたカトルの爪が刺さっている。

 刺しこまれたところを、筋肉を収縮させて折ってやった結果だ。

 バカといわれても、たぶん誰からも異論のでないような戦いぶりである。

「限度があるんじゃないのかな?」

 息を整えるカトル。

「はっ 限界を突破してこそ男は輝くんだぜ」

 光の傷が治ってゆく。

 絵梨佳ほどの速度はないが、それでもかなり速い。

「いつみてもチートだよね。それ」

「知ってて挑んだんだろ? いまさら泣き言いうんじゃねえよ」

「泣き言くらいは勘弁して欲しいよ」

 言ったカトルの姿が歪んでゆく。

 ねじれ、おれ、人ではないモノの姿へと。

 それは、翼を持つ大蛇。

 体長は四メートル以上はあろうか。

 アステカの神話に登場する、ケッツァルカトル。

「褒めてやるぞ。小僧。私にこの姿を晒させたのだから」

 口調まで変わっている。

 言葉というより吠え声だが。

「口だけの感謝なんかいらねえよ。なんか褒美をよこせ」

 軽口を叩きながらも、慎重に構えを取る光。

 油断できない相手であることは当然のこと、人型でない相手と戦うのは初めてである。

「ではくれてやろう」

 躍りかかる大蛇。

「しまっ 速いっ」

 身体の大きさから速度を見誤った。

 迎撃か回避か、一瞬迷う。

 その一瞬が命取りだ。

 巨大な体が少年に巻き付き、ぎりぎりと締め上げる。

「ぐぇぇぇ」

 蛙が押しつぶされるような声が光の口から漏れた。

 みしみしと骨が軋む。

「これで骨が砕けないか。頑丈だな。小僧」

 鎌首をもたげた蛇が感心したように言う。

「こんなほうびはみとめられねえぜ……」

「ざれごとを」

 もう光には抵抗の手段はない。

 蛇身に締め上げられ、腕を動かすことすらできないのだから。

「こなくそぉっ!」

 一声叫び、なんと少年が蛇に噛みついた!

「なっ!?」

 驚愕と、ぶつりと肉を咬み千切る音は同時だった。

 狂ったように尾をばたつかせるケッツァルカトル。

「まずいっ もう一口っ!」

 さらに大口を開けて少年が迫る。

 たまらず拘束を解き、蛇神が距離を取った。

「無茶苦茶にも程があるぞ。小僧」

「はぁはぁ……澪の食欲魔神と呼ばれた俺をなめんなよ……」

 荒い息を吐く。

 左腕が動かない。

 おかしげな方向に曲がってしまっていた。

 折られたらしい。

 気にしない。

 まだ右腕は動く。足も動く。

 充分だ。

「その称号は嬉しいのか?」

「……いに決まってんだろ」

「なに?」

「嬉しいに決まってんだろっ 美鶴と一緒にもらったあだ名なんだからよっ!」

 右の拳を握りしめて駈ける。

 ふたたび近接格闘戦(ドッグファイト)を挑むために。



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