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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第9章 ~うごめくモノども~
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うごめくモノども 1

 ぐっと弓弦を引く五十鈴。

 つがえた矢は二本。

 こんな()ち方をして当たるわけがない。が、まっすぐに飛ぶはずの矢が空中で軌道を変え、振り上げられた処刑刀エクセキューショナーズソードを弾き落とす。

 剣に刺さった矢羽は、三枚のうち一枚が咬み千切られていた。

 もちろん五十鈴によって。

「矢が直線でしか飛ばないと思ったら大間違いですよ」

 ぺっと羽を吐きすて、女勇者が笑う。

 矢羽を切っただけなら狙いなど付けられない。

 空気抵抗、弾道、速度、すべてが頭に入っていてこその曲射だ。

 まさに絶倫の技量である。

 蹈鞴を踏む処刑人ども。

 命令通り巫の眷属を殺すか、あるいは迎撃するか。

 迷いは、砂時計からこぼれ落ちる砂粒が数えられるほどの時間。

 御劔にとっては充分すぎる時間だ。

 五十鈴の横を駆け抜け、内院に躍り込む。

 鞘のまま振るわれるブロードソード。

 速い。

 視認できる速度を軽く超えている。

 生身の状態で量産型能力者第二隊とほぼ同等の身体能力を持っていた勇者が霊薬を飲んだらどうなるか。

 その結果がこれだ。

 瞬く間に無力化されてゆく処刑人。

 討ち漏らしには次々と五十鈴の矢が飛ぶ。

 十秒も要さず制圧される内院。

「ち」

 だが御劔が舌打ちする。

 駆け寄った宇蘭と津流木の家族は拷問の痕も痛々しく、全員がぐったりと気を失っていた。しかもすでに半分ほどが冥界の門をくぐっている。

 具体的には、ただの人間である現当主の妻たち。そしてまだ小学生だった宇蘭の娘である。

 さらに、現当主たちも虫の息で、このままでは時間の問題だろう。

「薄っ!」

 大声で呼ぶ。

「わかっています」

 弓を収納した五十鈴が走り寄る。

 両手には柔らかな光。

「私の回復魔法では全快など望めませんよ」

「ないよりマシだ」

「全力は尽くします。御劔は」

「ああ、時間を稼ぐ」

 周囲をぐるりと睨め付ける勇者。

 意識を刈ったはずの処刑人たちが立ちあがっている。

 うつろな目。

 ぬらぬらと光る肥大化した犬歯。

「異様だな。なにものなのだ」

 呟くような御劔の問いには、だれも答えなかった。





 併走する少年二人。

 一方は海の蒼、もう一方は黒い髪をもっている。

 駐車場の車を飛び越え、庁舎の壁を駆け上がり、あるいは宙を舞い。

 互いに数百の攻撃を繰り出しながらも、決定打は出せないでいた。

「なかなかやるじゃないか。眷属ごときが」

 カトルがうめく。

 繰り出す両手の爪は、光の動きを捉えきれない。

「うしろに美鶴がいるからな。負けらんねーのさ」

 にやりと笑ったウィンドマスター。

「ほざけっ」

 カトルが真空の刃を生み出す。

 絵梨佳との戦いで見せたものだ。

 近接格闘では埒が明かないと考えたのだろう。

 襲いくる数千のカマイタチ。

 光は回避すらしなかった。

 少年の前で、すべてが涼風と化す。

「すべての風は、俺の配下だ」

 一歩、二歩と進みながらの言葉。

 周囲に大気の結界を纏い。

 それは酸素を操る光のチカラ。彼の周囲には、分厚い酸素の壁が形成されている。

 目に見えず、触れることもできない壁。

 エアカーテンのように、攻撃を受け止める。

「ふざけるなっ」

 かっとしたカトルの背に現れる翼。

 上空から絨毯爆撃を仕掛けようと羽ばたく。

 が、少年の身体は浮き上がらない。

「美鶴にならった。酸素は空気より重いんだってよ」

 鳥でも飛行機でも良いが、浮き上がるためには揚力が必要である。

 ようするに重力の枷を振り切るだけの力が必要なのだ。

 何もない状態で、空気の重さは一立方メートルあたり一.二キログラム。

 けっこう重い。

 そして酸素は、それよりずっと重い。

「だからさ、普段の力で飛ぼうとしてもそう簡単にはいかねーよ」

 三歩、四歩。

 近づいてくる。

 危険を感じたカトルが距離を取ろうと、より必死に翼を動かす。

 なのに飛び立てない。

 むしろ、徐々に翼の動きが鈍ってくる。

 どうしてこんなに身体が重い?

「酸素中毒ってやつさ」

 カトルの疑念に応えたのは、光であった。

 人間に不可欠な酸素。

 だがそれは同時に毒にもなりえるのだ。

 酸素濃度百パーセントの空気を吸い続けた場合、おおむね二十四時間で中毒症状が起きるといわれている。

「いまアンタが吸ってる空気の酸素濃度は、四千二百パーセントだ」

 あえぐように口を開閉するカトル。

 酸欠の金魚みたいだが、酸素は飽和量を超えて存在している。

「で、この状態で元に戻すと」

 すっと身体が軽くなる。

「ばかがっ 情けをかけたつもりかっ」

 のびた爪を剣のようにかざし、突撃しようとするカトル。

「いや?」

 無表情の光。

 爪は、少年の元まで届かなかった。

 二歩走ったところで、ばたりとカトルが倒れたからである。

 動機は激しく、目眩と嘔吐感に苛まれる。

「高山病って言うんだってよ」

 ようするに、空気の薄い高山に急に登った状態だ。

「ふ……ふざけやがって……」

 よろよろと立ちあがるカトル。

 こんな奇術じみた攻撃で翻弄されるとは。

 黒い両目に屈辱の炎が燃えたぎる。

「先に能力戦を仕掛けたのはそっちだぜ?」

 光が右手を伸ばし、人差し指をちょいちょいと動かす。

 挑発。

「男ならつまんねー芸で勝負してんじゃねえよ。拳骨で語りやがれ」

 ファイティングポーズを取る。

 明らかに、仙台でみた深雪と佐緒里の戦いに影響されている。

「高くつくぞっ ガキが」

 爪を剥きだして襲いかかるカトル。

「是非もねぇぜっ」

 握りしめた拳で応戦する光。





「こいつら……気色悪いっ」

 五人目を蹴り飛ばした絵梨佳が、いつもの横回転ジャンプで実剛の前に着地する。

 御前の下僕たちは、さほどの強敵ではない。

 量産型能力者よりやや強いか、という程度で、はっきりいって佐緒里や絵梨佳の敵ではなかった。

「だが、回復力が異常。まるで芝絵梨佳のようだ」

「一緒にしないでっ」

 鬼姫の慨嘆につっこむ芝の姫。

 殴っても蹴っても、ものの数秒で復活する。

 最初は手加減していた戦士二人だったが、じきにその余裕もなくなった。

 殺すつもりで攻撃を仕掛けている。

 絵梨佳の蹴りが頸骨を折り、佐緒里の手刀が頸動脈を切り裂いても、下僕たちは立ち上がるのだ。

 包囲の鉄環は、徐々に徐々に狭まっている。

 状況は悪い。

「けど、退くにしてもタイミングが」

 ちらりと横目で内院を見る実剛。

 あちらも苦戦中だ。

 すぐに合流しないことから考えて、宇蘭も津流木も相当に厳しい状況なのだろう。

 動かせないほどに。

 あるいは、すでに何人か死んでいるのかもしれない。

 陰性の思考が少年を支配する。

「なるほど。そういうことですか」

 ふいに声を出す魚顔軍師。

「佐緒里嬢。心臓を貫いてください」

「簡単に言う」

 敵は強くはないが、けっして弱くもない。

 狙って攻撃を当てるなど至難の業だ。

「それが、おそらく活路ですよ。お願いします」

「是非もない」

 牙を剥きだして襲いかかってきた敵の腕を掴んで一本背負い。

 投げ飛ばしながら、左腕を突き上げる。

 ずぶりと嫌な感触とともに、鬼姫の手刀が胸を貫く。

「む……?」

 変だ。

 鼓動を感じない。

 疑問に思うよりも先に、敵の身体が灰になって消えてゆく。

「なんだこれは……」

「最も有効な退治法ですよ。吸血鬼(バンパイア)のね」

 魚顔軍師がにたりと笑う。




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