表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第8章 ~モンスター~
79/338

モンスター 10

 玄関ロビーの奥から現れる女。

 少女といって良い年頃だ。

 えらく古風なメイド服を纏い、来訪者たちに一礼する。

「ようこそいらっしゃいました。魔の皇子」

「その呼び名は新機軸ですね」

 苦々しい顔の実剛。

 呼称が、どんどんよく判らないものになってゆく。

 自分はいつから王子様になどなったのだろう。

「御前がお待ちです。どうぞこちらへ」

 にこりともせず先導するメイド。

 肩をすくめて続く。

 ふと横を見ると、佐緒里が左手で鼻を隠していた。

「どうしたの? 佐緒里さん」

「死臭がする」

 短い言葉。

 嫌な想像が少年の脳裏を走った。

「まさか宇蘭と津流木はもう?」

「わからない。だが臭いは、あの女からしている。あれは死人ではないか?」

「おいおい……」

 実剛の知る限り、死人というのは動かないし口もきかないものだ。

 もっとも、十六年に渡って培われた常識はすっかり瓦解してしまっている。

 いまさら何が出てきても驚くまい。

「驚かないのは良いが、油断するなよ。実剛」

「わかってるよ。御劔くん」

 やがて一同が案内されたのは大広間のような場所だった。

 バスケットボールのコートが二面は取れそうなホール。

「むしろ謁見の間ですか」

 呟いた信二が奥を見やる。

 壁際に(きざはし)があり、豪壮な椅子が設えられている。

 玉座という風情で。

「御前なんていうから、もっと和テイストを想像していたんですが」

 苦笑する実剛。

 思い切り洋風である。

「よくきたな。女神の一族とやら」

 朗々とした声がかかる。

 これも予想外だ。

 漠然と、老人だと思いこんでいたから。

 尊大な態度で玉座に座する男。

 暁貴や鉄心と同年配だろうか。

 案内をしたメイドがしずしずと退室する。

 横目で見遣った実剛が、立ったまま口を開いた。

 臣下の礼など当然とらない。

「巫実剛だ。宇蘭と津流木を返してもらおうか」

 双方の距離は十メートル以上。

 腹に力を入れた声である。

 冷笑を浮かべる御前。

「アレはつまらなかったな」

 意味のわからない言葉。

「女神の眷属という触れ込みだったが、べつに美味くも不味くもなかった。普通の人間と変わらん」

 美味い?

 不味い?

 何を言っているのだ。

 背筋を這い回る冷たい手を感じ、知らず半歩後退する実剛。

「我の下僕にできない、というのは不思議ではあったが、ただそれだけだった。ゆえに」

 ぱちんと指を鳴らす。

 実剛たちの右手の壁。巨大な窓にかけられたカーテンが開いてゆく。

 窓の向こうは内院(なかにわ)だろうか。

 後ろ手に縛られた男女が、いままさに処刑されようとしていた。

「殺すことにした。そなたらが手に入ったので、分家ごときは必要ないからな。即死なら死ぬのだろう?」

「ふざけるなっ!」

 最初に爆発したのは、やはり佐緒里だった。

 猛然と窓に駆け寄って拳を振るう。

 だが破れない。

 数トンのパンチ力を誇る鬼の拳が、むなしく跳ね返される。

「くっ」

「無駄だ。バズーカ砲でもその窓は破れぬよ」

 愉悦に満ちた御前の声。

 眷属がむなしく殺されるのを見物しろと笑う。

「ただのサディストですか。底が知れましたね」

 黙り込んでいた魚顔軍師が口を開き、絵梨佳の肩をぽんと叩いた。

「絵梨佳嬢。出番です。あなたのチカラなら簡単に砕けますよ。あんな窓は」

 頷いた少女が窓へと向かう。

 突き抜ける成層圏の蒼に変わってゆく髪。

 ゆっくりと手をかざす。

 それだけ。

 ぼろぼろと、音もなく窓が崩れ落ちてゆく。

 御前が目を見張った。

「御劔君。五十鈴嬢。救出」

「心得た」

 飛びだしてゆく勇者たち。

 素早く佐緒里と絵梨佳が戻り、実剛たちを守るポジションに入る。

「……なにをした。小娘」

「訊きますか? 敵に。手の内を」

 軍師が冷笑した。

 絵梨佳の力とは風の力。

 風と音は同じもの。つまり大気の振動なのである。

 どれほど衝撃に強いガラスでも高速の振動には耐えられない。まさに風化したのだ。

 だが、どこの馬鹿が敵に明かすというのか。

「雑言は高くつくぞ。魚」

 玉座から立ちあがる御前。

 背後には数人の人影。控えていたのだろう。

 先ほどのメイドの姿もある。

「そちらこそ。人の容姿をあげつらった罪は重いですよ」

 一度言葉を切って実剛の方を向く。

「御大将。号令を」

 大きく頷き右手を振り上げ、

「戦闘開始っ!」

 上げたときの百倍の速度で、少年が振り下ろした。






 サトル、カトル、リン。

 だれか一人であれば、鉄心は互角以上に戦うことができただろう。

 しかし、衆寡敵せず。

 魁偉な鉄心の身体は、リンの槍に貫かれ、カトルの爪に引き裂かれ、いままさにサトルに斬り捨てられようとしていた。

「鬼の分際で良く粘ったが、ここまでだな」

「ぐ……お前らが、な……」

 絶え絶えな言葉。

 同時に降ってくる影。

 サトルたちが大きく跳びさがる。

「援軍、ただいま参上っ!」

 大声で言ったのは光だ。

 これは、事実によって味方を鼓舞するという狙いもある。

 もちろん少年の頭脳からでてくるようなアイデアではない。

 光にやや遅れて到着した琴美と光則。

 そして美鶴。

 信二に次ぐ子供チームの軍師の発案だ。

「待ちかねたぞ……」

「鉄心さんは伯父さんのところへ。沙樹さんの治療を受けてください」

「かたじけない。巫の姫」

 庁舎内に退いてゆく鬼の頭領。

 魔族たちは追撃しなかった。

 否、できなかった。

 カトルが光と、リンが光則と、そしてサトルが琴美とそれぞれ対峙していたからである。

 いままで鉄心が立っていたポジションには、美鶴が入る。

 三組の戦いを等分に見遣る位置だ。

「わざわざそちらからきてくれるとはな。魔女の娘」

「こないだは逃しちゃったけど、今回はきっちり殺してあげる」

 ロングソードを構えたサトル。

 銘刀貞秀を逆手に持った琴美。

 軽口を叩きながら、じりじりと間合い計る。

「君は初見だね。金髪少年。僕はカトルだよ」

「羽原光。美鶴の守人だ」

「ミツルちゃんってのは、後ろの美少女かい? ぞくぞくしゃうね」

「見んじゃねえ。美鶴が汚れるだろうが」

「これからもっと汚してあげるよ」

「そんな日は永遠にこねーよ」

 しゃらくさい口を叩く。

 が、踏み込めない。

 判るのだ。

 互いに卓越した戦士だけに、相手の力量が判ってしまう。

 迂闊に飛び込むのは危険。

 ぺろりと光が上唇を舐めた。

槍士(ランサー)、か」

「リンよ」

 禍々しく紅い槍を隙なく構える少女。

「坂本光則」

 名乗ったその手に砂が集まり、砂槍(サンドジャベリン)を形成する。

「地獄の宴にようこそ、と言っておくわ。砂使い」

「いいだろう。地獄の宴とやらゴチになる」

 ぎん、と音を立てて穂先がぶつかる。

 それが合図とするように、美鶴が声を張り上げる。

「各員! 能力解放許可っ!!」

 髪の色が変わってゆく三人。

「了解よ。美鶴ちゃん」

 琴美は、もう見慣れた蒼銀(ミスリルブルー)に。

「任せろ」

 光は、真夏を思わせる海の蒼(オーシャンブルー)に。

「ROG」

 光則は、不思議な光沢を放つ土耳古石の蒼(ターコイズブルー)に。

 右手を振り上げ、

「戦闘開始っ!」

 上げたときの百倍の速度で、少女が振り下ろした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ