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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第8章 ~モンスター~
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モンスター 9


 空港ロビーで出迎えを受けた。

「……新山総理……僕の知っている総理大臣という役職は、空港に高校生を迎えにきたりはしないものですが……」

 ハンチング帽をかぶった地味なおっさんに話しかける実剛。

「誰にでもプライベートはあるものさ。公人だろうとアイドルだろうとね」

 片目をつむって見せるこの国の主権者。

「僕はここのところ、ブライべートがないんですが」

「それは諦めたまえ。次期魔王どの」

「首相……あなたもですか……」

 ブルータスに裏切られたジュリアス・シーザーって感じで実剛が嘆く。

 それほどたいしたものではない。

「御前の元へと案内しよう」

「しちゃって良いんですか?」

「良くはないが、東京で一暴れされるよりはマシだ」

 すごいぶっちゃけトークだ。

 実剛が肩をすくめる。

「ただし、場所は明かせない」

「目隠しでもしますか?」

「そんなところだ」

 案内されたバス。窓には分厚いカーテンがかかっていた。

 中からも外からも見えないように。

 これで御前とやらのところにつれていかれるのだろう。

「そのカーテンは開けないでくれたまえよ。お互いのために」

「是非もない」

 代表する形で応えた佐緒里が、軽く目を閉じる。

 敵の本拠地に興味はない。

 二度も三度も訪れたい場所ではないし、今回で勝負を決められなければ、そもそも再度の挑戦などありえないのだ。

 向かう先が地獄だろうと奈落だろうと関係ない。

 全力で巫の眷属たちを奪い返すのみである。

 シンプルな思考。

 苦笑した御劔が、鬼姫にならうかのように瞼を閉じた。





 鳴動がきた!

 直下型地震に襲われたかのように老兵の庁舎が揺れる。

 響く悲鳴。

 逃げまどう客や職員たち。

 ちょうど階段をのぼっていた高木は、最初に壁に、次に手すりに叩きつけられ、あげく二十段ほどを転げ落ちることになった。

 とことんまで運に見放されていたようである。

 左足と右腕はありえない方向に曲がり、肘からは皮膚を突き破った骨が露出する。

 重傷であるが、彼は痛みを感じなかった。

 最初の衝撃で気を失っていたからである。

「高木さんっ」

 駆け寄った沙樹がすぐさま癒しの力を使う。

 みるみるうちに塞がってゆく傷。

 一撃目で、多数の負傷者が出た。

「くそ。予想していたのに後手に回った」

 無念の臍を咬む暁貴。

「後悔は後だ。迎撃する」

 庁舎を飛びだしてゆく鉄心。

 単独行動だが、こればかりは仕方がない。

 庁舎にいる能力者は三人だけ。

 そのうち沙樹は負傷者の世話に当たらなくてはならない。

 いまフリーハンドで動けるのは鉄心しかいないのだ。

 暁貴の手が携帯端末を掴む。

 全部隊に飛ぶ出動命令。

 澪が襲撃された場合に備え、避難と迎撃の計画はすでに立てられている。

 戦闘力が比較的低い第二隊が中心になって、負傷者の後送と住民の避難誘導。

 これを指揮するのは奈月と准吾だ。

 第一隊と勇者隊は周辺警戒と敵補給路の遮断。

 際限なく兵力を送り込まれてはかなわないので責任重大である。

 こちらの指揮を執るのは信一。

 残りの能力者で敵の先鋒を挫く。

 これが基本骨子だ。

 危なげのない作戦であるが、それだけ能力者にかかる負担は大きい。

「持ち堪えてくれよ。鉄心。すぐに救援がくるからな」

 巫邸から澪町役場までは徒歩五分ほど。

 能力者の全力疾走ならば二分もかからないだろう。

 問題は、その二分間を萩の鬼が稼ぐことができるかという点だ。

 割れた窓ガラスから前庭を睨む澪の王。

 行く手を遮るように立ちふさがる鬼と、対峙する三人の人影を。



 

 豪壮な屋敷。

 萩邸や寒河江邸も大きかったが、その十倍はゆうにありそうだ。

 敷地面積ならば二十倍といったところだろう。

 東京は土地不足なのではなかったか。

「ここは皇居ですかね?」

「そんなわけがなかろう」

 実剛の不出来な冗談に、愛想笑いすらせずに新山総理が応える。

「案内はここまでだ。あとは自分たちでなんとかしたまえ。私としては、君たちと御前が相打ちになって果てることを望んでいる」

「それは僕たちの望みとは、少々異なるようです」

「残念だよ」

 にやりと笑ってバスの中へと戻る首相。

 発車はしない。

 顛末をここから見届けるつもりなのだろう。

 肩をすくめた実剛が巨大な門扉に向かう。

「呼び鈴を押すのが礼儀かな」

「そんな宣戦布告はない」

 言った佐緒里が拳を握りしめる。

 派手に打ち壊すつもりだと悟ったが、べつに止めるつもりはなかった。

 話し合いにきたのではない。

 戦争をしにきたのだ。

 始まりの号砲は、派手すぎるくらいでちょうど良い。

 止められないので気をよくした佐緒里が三メートルほど後退する。

 助走をつけるつもりなのだ。

 哀れな鉄門に深い同情を捧げる一同だったが、残念ながら佐緒里のやる気は空振りに終わる。

 音もなく門が開いたから。

 来訪者を招き入れるように。

「歓迎会の準備は整ってるって事ですね。当たり前といえば当たり前ですが」

 無表情に言った信二が、くいと眼鏡を持ち上げた。

 新山首相のことを、彼は一ミリグラムも信用していない。

 御前と澪の共倒れを願うようなことを言っていたが、それだって信じるに足りないだろう。

 敵方の人間である可能性の方がずっと強いのだ。

「征くか」

 抜き身のブロードソードを肩に担いだ御劔が歩き出す。

 先頭に立って。

「なんで御劔くんが先に行くんだよ」

 やや慌てて実剛が続いた。

「盾になるためですね。実剛さんの」

 くすくすと笑う五十鈴。

 戦闘力の高い三人が前衛の位置につき、戦えない実剛と信二が中段。殿を五十鈴が務める。

 たった六人の紡錘陣形だ。

 とくに妨害もなく玄関にたどり着く。

 先ほど肩すかしをくらった鬱憤を晴らすように、扉を蹴り破る佐緒里。

「ごめんください」

「行動と台詞が合ってないよっ」

 思わずつっこみを入れてしまう実剛である。




「たかが鬼っころが俺たちの妨害をするのか」

 サトルが言う。

 正面に立ちふさがる鉄心。

 額から二本の角が伸び、諸肌を脱いだ上半身は筋肉が盛り上がって鎧のようだ。

「いいおる。魔に堕されたへっぽこ神ごときが」

「ほざいたなっ」

 ロングソードを掲げて迫るサトル。

 後ろに続くカトルとリン。

 に、と笑った鉄心が、アスファルトに拳を叩きつける。

「ぬるいわっ!!」

 クレーターのように陥没する地面。

 爆風と破片が三人を襲う。

 カトルは上空に飛んで逃れ、リンは槍を回転させ瓦礫を弾きつつ後退する。

 そしてサトルは、青眼にロングソードを構えた姿勢のまま、数メートルの距離を押し戻された。

「なかなかやるな。鬼」

 広範囲攻撃。

 本気で三人を相手取るつもりなのか。たかが鬼一匹で。

「ここから先は有料ゾーンだ。入場料は、けっこう高いぞ」

 鉄心が嘯く。

「あいにくと手元不如意でな。踏み倒させてもらうっ」

 ふたたびサトルが斬りかかった。



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