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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第7章 ~四方八方敵だらけっ~
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四方八方敵だらけ 10

「そこまでにしておけ。薄。勝敗は決した」

 ぽん、と肩を叩かれる。

 少女の背後から現れる少年。

 黒い髪と黒い瞳。

 そして作業服とニッカポッカ。

 見事なまでの鳶職スタイル。

「御劔……」

 かるく頷いて、

「貴様の部下たちは、全員拘束させてもらった。策は破れたぞ。自衛隊くずれ」

 言葉を投げる。

 対峙する男と少年。

「……きさまも勇者の末裔か? とび」

「然り。解説すると、俺たちの他に四人の仲間がいる。彼らが貴様の部下たちを拘束したという次第だ。納得いったか?」

 迷彩服と作業服の対比が、なんともシュールだった。

「降伏しろ」

「でなければ殺す、か? 我々はお前らの仲間を殺していないぞ?」

 先に手を汚すのか、と、辛辣に問う。

 できないと知っているから。

 モンスターたちもそうだが、勇者は人を殺せない。能動的には。

 甘いのだ。

 だから追いつめられる。

「殺すさ。こうして交渉を持ってやっているのは、実剛の意志だからだ。だが、それを悪用し愚弄するものを、俺はけっして許さない」

 御劔の手に現れるロングソード。

 人間たちの思惑など判りきっている。

 こちらの優しさを盾に取っているだけだ。

「人間はいつもそうだな。人質を取って要求を突きつける。そして人質が死ぬのは要求を呑まないお前らのせいだと脅すのだ」

 一歩、二歩。

 近づいてゆく御劔。

 男の手が彷徨う。

 拳銃を抜くか、退くか、降伏するか、揺れているのだ。

「そうやって人間は論旨をすり替える。この国では昔から言うな。盗むのは泥棒だが盗まれるのはベラボウだ、と」

 盗まれた側に防犯意識が欠けているからだ、というわけだ。

 いつのまにか、被害者の方が悪いことにされてしまっている。

 たとえば強姦事件があったとする。

 いつのまにか、被害女性が扇情的な服装をして夜の街にいたのが悪い、ということにされている。

 たとえばいじめがあったとする。

 いつのまにかいじめられる側に問題があったのではないか、という話になっている。

 この国の人間が最も得意とする議論のすり替え。

 そうやって勇者の一族も殺され、逐われてきた。

「貴様らは澪の領域に目的を持って侵入した。そして障害となる戦闘員たちを傷つけた。事実はそれで充分だ。殺していないのだから殺されるわけがないと思いこむのは貴様らの勝手だろう」

 ぶん、と長剣がうなる。

 間一髪、腰のファイティングナイフを引き抜いた男が音高く受け止めた。

「ぐ……っ」

「受けたか。さすがといっておこう」

 急所を外した攻撃ではない。

 一撃で首を飛ばしてやるつもりだった。

 飛び離れる二人の男。

 一方はロングソードを、もう一方はファイティングナイフを隙なく構えている。

「勇者のお前が、どうしてモンスターに肩入れする」

 男の問い。

 ごくわずかに頬を染める御劔。

「……友だと」

「なに?」

「友と呼んでくれたのだ! 実剛はっ!」

 力強い踏み込み。

 思いに呼応するように長剣が閃く。

 なんとか受け、弾く男。

 重い。

 一撃ごとに体力が奪われてゆくようだ。

「なにを言っているんだっ お前はっ」

「貴様には判るまいっ」

 利用するのではない。

 利用されるのでもない。

 君主でもない。

 臣下でもない。

 対等な友。

 友達になってください。

 あの言葉がどれほど嬉しかったか。

 先祖たちが焦がれて焦がれて、ついに手に入れられなかったもの。

 人間たちが握ってくれなかった異能の手。

 なんの躊躇いもなく差しのべられた実剛の掌の、なんと温かかったことか。

「だから俺は、実剛のためなら笑って死ねるのだ」

 ロングソードが加速してゆく。

 捌ききれない。

 小さな傷が、いくつも男の身体に刻まれてゆく。

「くっ しょせんはモンスターの同類かっ」

 捨てぜりふを残して、踵を返す男。

 逃げを打った。

 計算も何もなく、ただの逃走だ。

 咄嗟に振り抜かれたロングソードは、男の影を切り裂いたにとどまる。

 無防備な背中に(やじり)を向ける五十鈴。

 左手を挙げ、御劔が制する。

「良い。逃がしてやれ」

「おや? 優しいですね。御劔」

「敵のほとんどは拘束した。萩邸の防衛にも成功した。一人や二人逃げたところで大過あるまい」

 大きく息をついて長剣を隠す。

「まあ、あのまま戦い続けたら殺すしかありませんでしたからね」

 同様に長弓を隠した五十鈴が笑う。

 含みのある笑みだ。

「なんだ?」

「べつに? なんだかんだいっても実剛さんの進む道に死体を積み上げたくないくせに、なんて思っていませんよ?」

「……殺す必要がなかっただけだ。必要があれば殺す」

「だから、思ってませんって。らぶらぶだなぁなんて」

「頼む。話を聞いてくれ。薄」

「いやでーす」




 さて、萩邸付近の森で暗闘とか漫才とかが繰り広げられている頃。

 澪海岸では取材を終えた絵梨佳たちが、わいのわいの騒いでいた。

 ふって沸いた話に。

「デビューとか、なんの冗談だってレベルだけど」

 ふん、と美鶴が鼻を鳴らす。

 番組プロデューサーから持ちかけられたのだ。

 琴美、佐緒里、絵梨佳、美鶴の四名でユニットを組み、アイドルとしてデビューしないかと。

 たしかに容姿だけなら充分通用するだろうし、なにしろキャラが立っている。

「でも肝心の歌は、さっぱりだけどね」

 琴美が笑う。

 自他共に認める音痴なのだ。

 身体能力は高いので踊ることはできるが、歌うことはできない。

「まあ、罠でしょうけどね。あなたも気づいていたのでしょう。アンジー」

 笑いながら琴美の頭に手を置く信二。

「まあね。札幌に呼びつけたいのがひとつ。多忙にさせて戦力を分断したいのがふたつめの理由ってところかしら」

 頭二つ分高いところにある魚顔を振り返る少女。

「あとは、注目を浴びれば浴びるほど、身動きが取れなくなるってのがありますね」

 軍師が付け加える。

 地元出身のアイドルというのは話題性としては充分だが、べつにそれで観光客が呼び込めるわけではない。

 損得で考えると、損の方が多いだろう。

「そもそも、あなた達は学業優先ですよ」

 奈月の台詞である。

 彼女には声がかからなかったのでひがんでいる、わけではない。

 現実的に子供チームは多忙なのだ。

 秋のB-1の準備もあるし、先日のような「公務」が突然入ることもある。もちろん学業だって疎かにはできない。

 琴美や魚顔兄弟は高校三年生なのだ。進路についてちゃんと考えなくてはならない。遅すぎるくらいである。

「とはいえ。こうちょいちょいとちょっかいを出されるのも、対処が面倒ではありますね」

「ええいっ 面倒!」

 佐緒里が何か言っているが、無視して腕を組む実剛。

 東京に比較すればチャンネル数が少ないとはいえ、北海道の民間放送局は大きいのだけでも五社ある。

 取材くらいならば都合は付けられるが、頻繁に番組に引っ張り出されるようでは、いろいろ差し支えが出てくるだろう。

 なんとか一刀に乱麻を断つ方法があれば良いのだが。

「知事に直接働きかけるしか無いですね。どうせこの動きだってあの女史の思惑でしょうから」

「デスヨネー」

「不満ですか? 御大将」

「信二先輩。夏休みが半分を切りました。これで札幌まで出掛けたら、僕はいつ絵梨佳ちゃんとデートすれば良いと思いますか?」

「ああ。その話ですか。諦めてください」

「デスヨネー」

 砂浜にのの字などを書き始める次期当主だった。

 わりと鬱陶しい。

 絵梨佳が、婚約者の肩を叩いてやる。

「大丈夫ですよ実剛さんっ いつも一緒にいるじゃないですかっ」

「うう……絵梨佳ちゃん……」

「なんだったら、今夜から一緒に寝ますかっ」

「ダメに決まってるでしょ」

 間髪入れずに却下する奈月。

『デスヨネー』

 若い恋人同士の声が悲しみのハーモニーを奏でた。




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