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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第7章 ~四方八方敵だらけっ~
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四方八方敵だらけ 5


「副町長。お電話です」

 緊張した面持ちで、高木が副町長室に入ってきた。

 子供チームが首相官邸でひと暴れしている時刻である。

「電話ならふつーに取り次げよ」

「ちょっとやばそうな相手なんで」

「誰だよ?」

「日本国首相。新山鉦辰(にいやま かねとき)

「ほほう。それはそれは」

「居留守を使いますか?」

「すごいねお前さん。総理大臣あいてに居留守とか」

「私なら迷わず居留守ですが」

「気持ちはわかるよ」

 苦笑して電話機のスピーカーモードのボタンを押す暁貴。

 もちろん、高木にも聞かせるためである。

「お電話かわりました。副町長の巫です」

「電話で失礼いたします。澪の王よ。新山と申します」

 いきなり謙った口調だ。

 それにしても、澪の王とはどういうことだろう。

「首相閣下。私の役職は副町長であり、けっして王様ではないのですが」

「澪の王よ。いまさら隠し立ては無用。ざっくばらんにいこうではないか」

 つまり、知っているということなのだろう。

 やはり寒河江からの情報通り、日本という国のかなり深い部分まで人外が食い込んでいるらしい。

「了解した。和の国の主よ。用件を聞こうか」

「此度のこと、日本政府は関与していない」

「それは沙樹を拉致したことか?」

「然り」

「じゃあ、誰の采配なのか教えてくれるかい?」

「私の口からは言えん。だが、日本政府は貴殿らと事を構えるつもりはない」

 ずいぶんと虫のいい話である。

 とはいえ、それを指摘しては交渉にならない。

「俺らだって、ことさら争いたいわけじゃねえぜ。協力関係とまではいかなくとも、せめて友好的中立でありたいもんだな」

「ゆえに頼みたい。いま官邸に向かっている自衛隊は無関係だ。交戦は避けてもらいたいのだが」

「意味がわからねぇんだが?」

 慌ただしく情報が交換される。

 実剛たち子供チームが、首相官邸に捕らわれていた沙樹を救出したこと。

 詰めていた東京の能力者が敗走したこと。

 その戦闘を防衛システムが敵襲と判断し、自衛隊に出動命令が下ったこと。

「すみやかに撤収してもらえれば、誤報ということで処理できる」

「そりゃ面目まる潰れじゃねぇのかい? 技術大国ニッポンとしては」

「交戦状態に入るよりマシだ」

「もっともだ。連中はすぐに引き揚げさせよう。で、だ」

「判っている。この件に関しては後ほど会談を持ちたい。こちらから澪に出向かせてもらってかまわないだろうか」

「首相閣下をお泊めするような宿は、澪にゃあないがね」

「非公式なものだ。いっそ車中泊でもかまわんよ」

「そりゃあんまりだろうよ。ともあれ話はわかった。予定が決まったら連絡をくれ」

 事務的なやりとりを二言三言交わして通話を終える暁貴。

 感心したように高木が見つめる。

「よくもまあ、一国の元首あいてにそこまで横柄な口がきけますね」

「いや。わりと緊張してたぜ。手が汗でびっしょりだ。相手が音声だけだったから助かったな」

「そういうものですか」

「子供チームに撤収の指示を出してくれ。可及的速やかにな」

「了解です」





 元のメンバーに沙樹と村井を加え、八人となった実剛チームが撤退を開始する。

 ルートは裏口。

 本来であれば、間違いなく回り込まれているだろうが、すでに誤報であるとの連絡が進行中の自衛隊に飛んでいるはずだ。

 目立たないように現場を離れれば良い。

 そう思い定めた信二は数分で脱出プランを構築し、メンバーたちは完璧に実行した。

 そして一時間後、彼らの姿は新宿駅にあった。

 救出作戦の一助となった村井を見送るためである。

 途中、低価格衣料品店に立ち寄り、全員が衣服を購入して着替えをすませている。

 戦闘でかなり破損してしまったから。

「いやあ、し○むらってどこにでもあるんですねぇ」

 絵梨佳などが妙な感心をしたものである。

 わりとどうでもいい。

「世話になったな。巫の」

 東北へと向かう高速バス。

 乗車直前に村井が言う。

「いえ。こちらこそ助かりました」

 応える実剛。

 実際、村井がサトルを抑えていてくれたおかげで、理想的な各個撃破ができた。

 完勝の立役者といっても良いほどだ。

「そちらではない」

「へ?」

「なんでもないさ。では、縁があればまたな」

 狭い乗車口へと消えてゆく中年男。

 少年の頭上には疑問符が飛び回っていた。

 静かに滑り出す高速バス。

 見送る一同。

 後日、沙樹と村井は復縁することとなり、村井あらため安寺は寒河江に単身赴任という形に落ち着くのだが、これはまったく関係のない、余談というものであろう。

「さて、我々も引き揚げますか。御大将」

 魚顔軍師が言った。

「せめて一泊くらいしたいですけどね。東京日帰りとか、正気の沙汰じゃないですよ」

 げっそりと応える。

 午後に東京入りして、一戦交えて、夜には澪に戻る。

 ブラック企業の出張だってもう少し余裕があるだろう。

「なにしろ急なことでしたから宿を取っていませんよ。もちろん帰りのチケットもこれから取るわけですが」

 最悪、空港まで移動してから帰れない、という事態に陥る可能性がある。

 ぜひともそれは避けたいところだ。

「よし。一泊しましょう。適当なビジネスホテルでいいんで」

 携帯端末を操作する実剛。

 ツインが二部屋とトリプルが一部屋あれば事足りるはずだ。

「わたしは実剛さんとダブルでもかまいませんっ」

「じゃあ、あたしは坂本光則とダブルで」

「じゃあってなんだよっ 仕方なさそうにダブルを要求するとかわけわからんっ」

「その場合、俺だけシングルですか? ぼっちですね」

「や。信二は私たちと同じ部屋でいいわよ?」

「信用してるのか男扱いされていないのか、聞くのが怖いので問いません」

 後ろで仲間たちがわいわいと騒いでいる。

 なかなか迷惑な光景だが、大都会では見とがめる人もいない。

「……こいつは、どうしようかな」

 端末を見ながら呟く実剛。

「どうしました? 実剛君」

「メールが入ってる」

「知らないアドレスからですか? 迷惑メールじゃないです?」

「僕もそう思ったんですけどね、信二先輩。伯父さんから迷惑メールではないって確認のメールがきていました」

「メールを保証するメールですか。迂遠なことですね。電話じゃだめだったんでしょうか」

 失礼、と言ってから、実剛の端末を覗き込む軍師。

「ほほう。こいつはなかなか厄介ですねぇ」

 微笑。

「みんな。今日の宿泊場所が決まりましたよ」

 楽しそうな魚顔が気色悪い。

 きょとんとする一行。

「帝国ホテル。招待者は、日本政府です」




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