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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第6章 ~歓迎! 勇者様御一行~
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歓迎! 勇者様御一行 8


「気づいていたのか。存外人が悪いな。小娘」

 夜の高速。

 疾走するリムジン。

 これまでの礼儀正しい態度など、一光年の彼方に放り捨て、サトルが足を組む。

 対面座席で、沙樹が苦笑する。

 まさか四十を過ぎて小娘呼ばわりされるとは思わなかった。

「気づかれていないと思っていたわけでも無いでしょうに」

 姓のない人間。

 ただのコードネームかとも思ったが、内調のトップと同席したことで、単なる諜報員や案内係という線は消えた。

 彼女に対抗しえる存在を配置したと考える方が自然である。

 そんなものが普通の人間のはずがない。

「しかし不正解だ。俺は人間になど使われていないからな」

 不敵な笑み。

 溜息をつく美女。

 その可能性を考えなかった訳ではない。

 わけではないが、そうであって欲しくないと思っていた。

 この国の政府の中枢に、すでに人外が深く食い込んでいるなど。

「ちなみに、気づかなかったらどうなっていたか、訊いて良いかしら」

「田舎から出てきた小娘が一人、行方不明になるだけだな。この街ではとくに珍しいことではない」

「女性秘書、謎の自殺。とかじゃないんだ」

「死体が残るのは拙いだろう。お互いにな」

 車内の気温がどんどん低下してゆく。

 男女の放つ殺気によって。

「あたしはべつに困らないけどね。どうせ死ぬのは、あなただし」

「ほざいたな」

 瞬間。

 リムジンの屋根がはじけ飛ぶ。

 タイヤを軋ませてスピンし、周囲の車を巻き込みながら首都高の壁に激突する。

 一瞬の時差をおいて炎の舌が高級車を包みこんだ。

 むろん、沙樹もサトルもそんなものに巻き込まれたりしない。

 疾走する二つの影。

 高層ビルの外壁を駆け上がり、電柱から電柱へと飛び移り。

 目撃者がいれば、都市伝説になりそうな光景だ。

 東京の濁った空に影が舞う。

「疾っ!」

 男が振るった手刀。

 風が唸り、大気が裂ける。

 真空の刃。

 眉ひとつ動かさず、見えない凶刃を回避する魔女。

 無言で距離を詰めて拳を繰り出す。

 構えも何もないただのグーパンチ。

 冷笑を浮かべようとしたサトルの表情が凍り付き、大きくのけぞる。

 鼻先二ミリを通過するチカラ。

 はるか後方のビル。外壁が陥没しガラスが砕け散った。

「動かないでよ。当たらないでしょ」

「避けなければ死ぬだろうが」

 体勢を戻したサトル。

 サングラスが割れ砕ける。

「金の瞳……」

 呟く魔女。

 金色の瞳は、すなわち証である。

「魔族……実在するのね」

「女神や鬼の末裔が存在する愉快な世の中だ。魔族が存在してはいけないということはなかろう」

「いけないことはないけど、関わりあいにはなりたくないわ。女神の裔としてはねっ」

「かなりの線で同意見だ。消えてくれ。俺たちのいる世界から」

 脚と脚、拳と拳がぶつかり、非音楽的な音を立てる。

 夜の大都会。

 ビルからビルへと飛び移りながらの戦闘。

 埒があかないと判断したのか、サトルが右手を伸ばす。

 掌に現れる長剣。

 召喚したのか、認識阻害で隠していたのか。

 沙樹には判断が付かなかった。

 判っていることは、武器を持った能力者を相手に、素手ではあまりにも不利だということである。

 たんっとステップを刻んで距離を取る。

 逃がすまいとサトルも追う。

 が、目前に蒼銀の髪。

 退いていないっ!?

 むしろ踏み込んでいた!?

 笑みを刻む魔女の唇。

 充満する濃密な死の香り。

 紙一重での見切り。

 脊髄すら通さぬ意志が、生存本能だけで右腕を跳ね上げさせる。かろうじてぶつけた剣の腹がチカラの流れをごくわずかに変えることに成功する。

 計算でもなんでもなく、大きく飛びさがるサトル。

「……蒼銀の魔女」

 かつて最強の名を恣にした澪の女戦士。

 侮っていたわけではない。

 背筋を氷塊が滑り落ちる。

「強いのね。サトルさん。本気になっちゃいそう」

 甘いワインを滴らせるような妖艶な声。

 黒い瞳が闘争本能に爛々と輝いている。

「くっ」

 一気に距離を詰める男。

 読み合いに勝機なし。

 思い定める。

「おぉぉぉぉぉっ!」

 雄叫びとともに振り抜かれる長剣。

 斬りつけ、外れた。

 打ち下ろし、回避された。

 薙ぎ払い、いなされた。

 突き込み、弾かれた。

 強い。

 今更ながらに認識する。

 二十合。三十合。

 サトルは自分の顔が笑みにゆがんでいることに気づいた。

 楽しいのだ。

 死を意識するほどの強敵。

 ぬるい人間どもとはまったく違う。

 油断した瞬間に喉笛を咬み裂かれるような、ぎりぎりの攻防。

 たのしくて仕方がない。

「どんだけバトルマニアよ……」

 一方、沙樹は辟易していた。

 素手のままでは、致命傷を与えるのは難しい。

 今のところは互角に戦えてはいるが。

「なんか隙をついて逃げたいんだけど……」

 永遠に戦い続けるわけにもいかないのである。

「うぉぉぉぉっ」

 サトルが叫びとともに手を伸ばす。

 灼けつくほどの、渾身の力を込めた突き。

 蒼銀の髪が数本、宙を舞う。

 女の頬に描かれる紅い線。

 くたりと崩れ落ちる魔女の身体。

「なにっ!?」

 技を出したサトルが最も驚いている。

「驚いたな。背後から近づいてもまったく気づかないとは」

 崩れた沙樹の身体を抱き留めた男が口を開いた。

 右手にはスタンガン。

「……三浦陸将補。余計な真似を」

「そういうなサトル。あまり騒ぎを大きくしすぎるのもまずい」

「……どのくらい戦っていた? 俺は」

「十五分ほどだ。そろそろ野次馬が集まり始めている」

「本当にまずいな。退くぞ」

「理解してもらえて幸いだ。貴官が遊んでいたせいだがな」

「……本気だった。もしこの女が武装していたら、十五分間など戦えなかっただろう」

 もっと短時間で決着していたはずだ。

 自分の敗北というかたちで。

「貴官にそこまで言わしめるとはな」

「御前に差し出すのが惜しくなった。俺のものにしよう」

「それは好きにすればいいさ。年増が好きだとは寡聞にして知らなかったがな」

「女は四十を過ぎたあたりが一番美味いんだ」

 軽口を叩きながら、男たちが闇の中へと消えてゆく。

 気を失った沙樹を抱えて。







 みのむしみたいにロープでぐるぐる巻きにされた男たちが転がる。

 巫邸である。

 襲撃があると予測していた実剛陣営によって、襲撃者四名は一分足らずの間に全員が捕縛された。

「絵梨佳ちゃん。顔にまで粘着テープ巻いたらダメだよ。窒息しちゃうから」

「口のところに空気穴を開けてあげようかと」

「虫じゃないんだから」

 少年たちがわいわい騒いでいる。

 はるか遠い東京の空の下。

 運命が動き出したことも知らずに。






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