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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第1章 ~おかしな人たち~
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おかしな人たち 5


「凌ぎましたね」

「はい。なんとか」

 歩み寄ってきた信二に、実剛が頷いてみせる。

 予想された萩の襲撃、その第一波を退けることはできた。

 とはいえ、転校初日からこれでは、なかなかに先が思いやられる。

「波乱の人生ですねぇ」

「他人事だと思って」

「まさか。もう運命共同体ですよ。俺たちは」

 信二が笑う。

 気持ちの悪い笑顔だった。

 出会ったときと変わらず。




 琴美と光を仲間に加え、四人パーティーとなった一行は、中学校へと向かって旅を続ける。

 ロールプレイングゲームみたいだ。

「ねえ光。さっき四天王って言ってなかった? あんたが最弱の土属性だって」

 なれなれしく呼び捨てにして美鶴が訊ねる。

「土属性なめんな。俺は土じゃねーけどなっ」

「そこはどうでもいいよ」

「つーか四天王ってなに?」

「ほんっと、自分の発言には責任を持ちなさいよね?」

 何も考えずカンペに書いてあることを読んだだけ。

 しかも何を言ったのかすら憶えてない。

 アホの子の面目躍如である。

 やいのやいの言い合いながら前方を歩く年少組を、なまあたたかく見守る琴美。

「美鶴ちゃんが物怖じしない子で良かったわ。すっかり打ち解けちゃって」

「いや、あいつけっこう人見知りしますよ。すぐ馴染んだのは、むしろ羽原くんのおかげでしょうね」

 実剛の率直な感想だ。

 光を相手にしていると、初対面だから構えるなどというのがばかばかしく思えてしまう。

 出会いも強烈だったし。

「琴美さんほどじゃないですけど」

 まったく役に立たない特殊能力者。

 新機軸である。

 強烈を通り越して驚愕だ。

「アンジー」

「え?」

「親しい人はそう呼ぶわ」

 ニックネームで呼んで欲しい、と言うことなのだろう。

 でも、なぜアンジー?

「なんか特別ないわれでもあるんですか?」

「苗字を音読みしただけだけど?」

「この上なくわかりやすい説明をありがとうございます」

 安寺(あんじ)というわけだ。

「じゃあ僕も、アンジー姉さんと呼ばせてもらいますね」

「ありがとう。タカちゃん」

「それは勘弁してください」

「サネちゃん?」

「人間、普通が一番ですよ?」

「つまんないわね。実剛くん」

「ありがとうございます。つまらない人間になりたいと、常々考えております」

 くすくすと笑い合う。

 ところで、澪中学校と澪高校は隣り合っている。

 広い意味では、間違いではない。

 ふたつの学校を隔てるものは、原野と雑木林しかないのだから、お隣さんという認識で正しい。

「けど一キロ以上離れてるよ……」

「やったね。兄さん。足腰が鍛えられるよ」

 ただの一キロではない。マニュアル車だったら坂道発進で泣きそうなくらいの勾配をのぼっての一キロだ。

「昇りもきついけど、帰りがつらくない? これ」

 急な坂というのは下りの方が怖いものである。

「慣れるわよ」

 のほほんとした琴美の声。

「足が太くなりそうですよ」

「ケンカ売ってるのかしら?」

 笑顔が怖いアンジー。

 もちろん虎の尾を踏む方が悪い。

 笑いさざめきながら高校の校門をくぐる。

 春休みで閑散とした学校。

「よくきたなっ! 巫の一族っ!」

 轟き渡る声。

 物陰から姿を見せる二人の男。

「さてと、下見も済んだし、帰りましょうか」

 一行を促して、琴美が踵を返す。

 誰も反対しなかった。

 関わらない方が良さそうな空気を、ひしひしと感じる。

「無視するなよぅ……」

「あの、アンジー姉さん。なんか言ってますけど」

「邪推よ。気のせいよ」

 そんなわけはない。

「せめて自己紹介くらいさせろって。アンジーっ」

 走り寄ってくる男たち。

 すごく仕方なさそうに琴美がため息をついた。

「こいつらは(なぎ)家の信一(しんいち)信二(しんじ)。うざい双子って認識で良いわ。巫の分家ね」

 さらっと紹介してしまう。

 自己紹介などさせてやるものか、と、態度が語っていた。

「信一だ」

「信二です」

 双子だけあってよく似ている。

 血色の悪い顔と薄い唇。

 素通しの眼鏡をかけた魚顔が弟の信二。

 筋肉質でガタイが良い魚顔が兄の信一である。

 どっちにしても魚であることには違いがない。

「失礼なことを考えていますね? 本家のご兄妹」

「まさかテレパスっ!?」

 驚愕する実剛。

「顔に出ていますから。ていうか本当に失礼ですて」

「申し訳ない」

 同世代の眷属が揃った。

 これが、伯父の暁貴が知己となるべき者として用意してくれた人物たちである。

 



 この地に女神が降り立った。

 その衝撃は凄まじく、大地は裂け海は割れた。現在の内浦湾が形成されたのはこのときだという。

 女神は着地の衝撃で傷を負った土地神に詫び、豊饒と豊漁を約束した。

 謝罪を受け入れた土地の神は、ここを約束の地として眷属たちを招いた。

 土地神と女神と交わり、子を成した。

 その子は、神子となった。

 祝福の地を守る(かんなぎ)の始祖である。

 やがて女神は老い、寿命を迎えた。

 土地神は嘆き、悲しみ、幾千の夜を泣き暮らした。

 涙は地を覆い、いくつもの河となって海へ注いだ。

 女神の亡骸は涙に流され、海へ帰っていった。

 その後、女神が帰った海に、たくさんの土筆(つくし)が生えた。

 土筆はそれぞれが人の姿を成し、土地神を慰めた。

 死してなお身を尽くしてくれた女神に、土地神は感謝を捧げた。

 愛しき澪標(みおつくし)たちの住む土地。

 いつしか、この地は、澪と呼ばれるようなった。

「土着神話ってところですかね……」

 聞き終えた実剛が、言葉を選びながら感想を述べる。

 彼らは巫家に戻り、琴美から澪にまつわる神話についての説明を受けていた。

 望んだのは実剛であり、美鶴にも否やはない。

 たとえばビーストテイマーたる琴美の能力を、受け入れるのはともかくとして、何の説明もなしというのはいささか気味が悪いのである。

「誰も信じてないけどね」

 笑顔の琴美。

 そりゃそうだろう、と、美鶴が頷いた。

 フシギの国ニッポンには、いろんな伝承がある。それらすべてに信憑性があるわけではない。

 むしろほとんどがでっちあげだ。

 青森県は新郷村にあるキリストの墓とか。

「でも、アンジー姉さんの特殊能力が、神話の裏付けなんじゃないですか?」

 他人にはないチカラ。

 それこそが何よりの証拠だろう。

 実剛の問いかけに。琴美がきょとんとした表情を浮かべた。

「こんな全国びっくり人間大集合みたいな能力が?」

「すごい能力ですって……」

 疲れたような声を出す美鶴。

 常識をひっくり返すようなチカラを隠し芸と同列に置かれてはかなわない。

「ちなみに、俺だってチカラあんだぜ? 美鶴の守人(ガーディアン)だしな」

 わけのわからないことをいう光。

「そーいえばそんなことを言ってましたねぇ。どーでも良いから忘れてたけど」

 美鶴が半眼を向ける。

「扱い悪っ」

「どうせ中二病っぽいチカラでしょ? 魔王の目とか暗黒の炎とか」

「おまっ なめんなよっ」

 地団駄を踏む光くん。

「実剛兄ちゃんっ!」

「あ、はい」

「そのライター点けてくれっ 俺のチカラを見せてやるぜっ」

 暁貴の煙草セットだ。

 やれやれといった体で、実剛がバーナー式ライターを着火する。

 青白い炎が灯った。

「いくぜっ! 死颶風(デスタイフーン)!!」

 かけ声とともに、びしっとかっこいいポーズを決める。

 瞬間、ふっと炎が消えた。

 しゅー、と、いうガスの吹き出る音のみを残して。

「…………」

 実剛は、無言だった。

「…………」

 美鶴も、無言だった。

 互いの顔を見る兄妹。伊達に十三年の付き合いではない。アイコンタクトが成立している。 兄さんがつっみなさいよ。

 お前がつっこめよ。

 視線が絡み合い、ばちばちと火花が散る。

「光。その名前ってあんたが考えたの?」

「おう! もちろんだぜ!」

「そのポーズも?」

「おう! もちろんだぜ!」

「OK。あんたはクビよ」

 ぺいっと切り捨てた美鶴が光に向き直る。

「光。あんたどうやって火を消したの?」

 核心に迫る質問。

「そりゃあ風を起こして……」

「嘘ね」

「なんで嘘なんだよっ 俺は風使い(ウインドマスター)だぞっ!」

 噛みつく。

 琴美がビーストテイマー。

 光がウインドマスター。

 かっこいいったらありゃしない。

「本当の事よ。美鶴ちゃん。光くんのチカラはライターやロウソクくらいの火を吹き消す能力。ウインドマスター(笑)ってところね」

 琴美のフォローに首を振る少女。

 嘘をついているわけではない。単純に、彼らは知らないだけだ。

「姉さん。光。いいことを教えてあげる。ガスバーナーの火は、風じゃ消えないのよ」

 たとえライター程度であっても。

「つまり、羽原くんは風で火を消したわけじゃないってことかい? 美鶴」

 軽く腕を組んで訊ねる実剛に、妹が頷いた。

「光が操ったのは風じゃない。たぶん酸素でしょうね」

 火が燃えるためには絶対に酸素が必要だ。そもそも燃えるということ自体が酸化現象なのである。

 大気中に二十一パーセントほど存在するそれの濃度を局所的にゼロに近づけることで火を消した。

 種を明かせば、そういうことである。

「じゃあ俺って……ほんとにウインドマスター(笑)じゃん……」

 膝をつく光。

「まあ、ロウソクの火を消すのに、そんな手間をかける理由はないよね。普通に吹き消せばいいんだから」

 苦笑する兄。

 こいつら本気で判ってないな、と、美鶴が嘆息した。

「光。アンタその技、人間に使ったことないでしょうね?」

「人に使ってどーすんだよ。ちっちゃい火を消すくらいのパワーしかねーんだぞ?」

「良かったね。殺人犯にならなくて」

「……ぇ?」

「本当に死を呼ぶ風よ。それ」

 あまり知られていないが人間の呼吸というものはガス交換によっておこなわれる。呼吸によって取り込んだ酸素を体内の二酸化炭素と交換する、という仕組みだ。

 二十一パーセントの酸素が含まれる空気の中から、人間が取り込めるのは四から五パーセント。

 つまり、吸う空気には二十一パーセント、吐く空気には十七パーセントほどの酸素が含まれている。

 では、吸う空気の酸素含有量が五パーセントしかなかったら?

 人間の体は、五パーセントの酸素しかない空気を取り込み、現在体の中にある十七パーセントの酸素が含まれた空気を吐き出すことになる。

「そして人間には必ず酸素が必要。酸素濃度が一桁の空気を吸い込んだ場合、一回の呼吸で死に至るっていわれてるの。酸素欠乏(さんけつ)でね」

 美鶴の言葉が不吉な彗星のように尾を曳いて消えた。

 光の作り出した、火を消す空気(・・・・・・)には、はたして何パーセントの酸素が含まれているだろう。一パーセントか。二パーセントか。

「み、美鶴ちゃん、それって……」

 琴美の声がうわずる。

「そう、姉さん。これは文字通り、現代に蘇る即死魔法よ」

 生物である以上、絶対に逃れることができない魔法。

 無味無臭のサイレントキラー。

 酸素を操る、とは、そういうことだ。

 だからこそ、酸素欠乏の危険がある場所では、作業をする人間もさせる人間も国家資格が必要なのである。

 身震いする光。

「や、やべえ……俺、超ぶるってきた……」

 十三歳の少年としては当然の反応だ。

 琴美のチカラ、光のチカラ。

 使い方次第では大惨事を生むだろう。


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