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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第5章 ~僕、夏になったら海水浴にいくんだ……~
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僕、夏になったら海水浴に行くんだ…… 2


「副町長。この二週間で過労を理由に退職を希望する者が六名でました」

 総務課長となった高木から報告を受けた暁貴が、満足げに頷いた。

「まずまずのペースだな」

「もっと締め付けても良いと思いますが?」

 澪町役場はブラック企業と化している。

 職員たちは馬車馬のように働かされ、過労で倒れる者やストレスで精神を患う者が続出していた。

 普通であれば、当然問題視される。

 だが、ここにはもう法の加護はないと副町長が明言している。

 巫に従って奴隷として生きるか、逆らって死ぬか、選択肢は二つしかない。

「いや? 他にもあるぞ? 反旗を翻して俺たちを打倒するとか、他の場所に逃げるとか、それこそいくらでもあるじゃねーか」

 副町長が嘯く。

「できるはずのない人間に、できるはずのないことを要求するのは、いささかフェアじゃありませんな」

 苦い口調を作る総務課長。

 圧政者を打倒しようなどと考える者が公務員になるはずがない。

 独立して自分の足で歩こうと考える者も、公務員など選ばない。

 寄らば大樹の陰。

 リスクを負いたくないから、役人になるのである。

「お前さん、俺よりシビアだよな」

「恐縮です」

「ぶっちゃけ、俺としては、不正をしたわけでもない職員たちを、あんまりいじめすぎるのも気が進まないんだけどな」

「不正をしていないだけ、ですね。正確には」

 澪町の職員たちの多くは、不正などしていない。

 だがそれだけだ。

 サービス向上や事務効率向上、町の発展などに一グラムの寄与もしていない。

 決められた仕事をこなしているだけ。

 そうすることが存在意義(レゾンデートル)であるかのように。

 余計なことはしない。余計な意見など言わない。

 彼らに特殊な能力があるとすれば、そのたぐいまれな責任回避能力だろう。

 発言にも行動にも責任が伴うのだから。

「きっついねぇ」

「そうでもないわ。いちおう追跡調査しといたけど」

 沙樹が資料を差し出す。

 ざっと目を通した暁貴が深い溜息を吐く。

 過労や精神病を理由に退職を希望した者たちの調査結果だ。

「ふつー飲み歩いたり遊んだりしてんじゃねーか」

「ええ。だから高木さんの言うとおり、もっと締め付けてもいいくらい」

「あんまり辞められて業務が滞るのもまずいけどな」

「滞らせませんよ?」

 心配性な事を言う副町長に、総務課長が苦笑を向ける。

「まだ試算の結果は出ていませんが、最終的に人員的には今の四割で事足ります。人件費的には七割まで削れます」

 最小限の人数で、最小限の金で運営しようというのだ。

「鬼だ。鬼がいる」

「決められた仕事しかできないような人間などいりません。そんなものは機械で充分です。澪に必要なのは町民と向き合える人間です」

「高木さん良いこと言った。あたしも全面的に協力しちゃう」

 会心の笑みを交わし合う秘書と総務課長。

 人間が求められる職場。

 だがそれは、べつにおかしなことではない。

 いままでが異常だっただけだ。

「自堕落な生活から規律正しい生活に戻そうとすれば、けっこう大変です。いまの澪役場はそういう状態なだけですよ」

「ま、俺らが率先して苦労しないと、町民たちも納得できねーだろうしな」

 役人受難の時代はまだまだ続くな、と思いながら、苦笑を浮かべる暁貴だった。






 受難の時代を迎えているのは、澪町役場だけではない。

 澪高校もまた暴君の出現によって恐怖政治が敷かれていた。

 具体的には、全校生徒による海岸清掃ボランティア計画である。

 全校集会。

 壇上に立った生徒会長どのが、計画の意義を説いている。

 生徒たちは項垂れて聞いていた。

 語っているのではなく語らされているのだと思い知らされているから。

 実剛たちがいなかった三日間で、琴美、信一、信二、光則の四人は、完全に澪高校を支配下に置いた。

「赤子の手を捻るより簡単でしたよ」

 とは、魚顔軍師の台詞である。

 生徒、教職員、家族、すべてが屈服するまで丸二日も要さなかったらしい。

「ぶっちゃけこっちは特殊能力者(チート持ち)だからな。力での支配なんかわけないさ。意味がないからやらなかっただけで」

「ただまあ、今後は協力者も必要になるからね。兵隊的な意味で」

 光則の言葉を引き継いだ琴美が、協力者のリストを見せてくれる。

 三十名ほど。

 量産型能力者候補だ。

 巫に好意的で、方法はともかくとしても澪の発展を切望する者たち。

 今日の全校集会までにリストアップしてくれたのだ。

「うちのクラス担任もいるね」

 実剛が右手を顎に当てた。

 たしか彼女は、教室で実剛を止めようとしたはずだが。

「わかった。今日にでも会ってみよう」

 力の取り扱いは慎重にならなくてはいけない。

 量産型能力者といっても、普通の人間に比較すれば圧倒的なチカラを持つことになる。

 そのチカラを使って犯罪などに走ったら、とんでもないことになってしまう。

「それはそうなんだが、量産型能力者の初仕事が、海岸清掃ボランティアの主戦力ってのは、どうなんだろうな?」

 呆れたような光則の言葉。

「できることからこつこつと、さ」

 二、三年のうちに、国内外の大手企業が澪町に支社なり支店なりを出すことになる。

 移住者が爆発的に増えるだろう。

 職場ができることで、去っていった人々も戻ってくる可能性もある。

 そのときまでに、住みよい町作りをしておかなくてはならない。

 もちろん、B-1を獲るなどの宣伝も大切だが、住んで良かったと思えるような町にしなくてはならないのだ。

「やるべき事は多くて、時間は限られている。頭が痛いよね」

「気遣い暴君め」

「変な称号つけないでよ」

 肩をすくめる。

 暴君。

 たしかにその通りだ。

 民主主義的な手順をことごとく無視して突っ走っている。

 町のためという言葉が免罪符にならないことを、彼自身が一番よく知っているのだ。

 やがて集会が終わり、生徒たちが無気力に教室へと帰ってゆく。

 体育館に残る実剛。

 近づいてくる人影。

 クラス担任の佐藤奈月だ。

「佐藤先生。正直意外でした。あなたに限らず、先生方は僕たちのやり口を絶対に許さないと思っていましたから」

「許せないと思う部分は、たしかにあるわ」

 立ったままの会話。

 やや離れたところに、佐緒里と光則が控えている。

「でも巫くんの志は立派だと思う。誰だって多かれ少なかれ現状に不満は持っているもの」

 変えてくれる人を待ちながら、でも自分ではなにもしない。

 こんなもんだと自分に言い聞かせながら、日々の生活に追われている。

 その方が楽だから。

 変える努力をするより、変わらない事への愚痴をこぼす方がずっと。

 チャレンジする人を馬鹿にして、嘲笑している方がずっと。

「だからといって、挑戦しない人が悪なわけじゃないの」

 ほとんどの人間には何の力もない。

 力ずくで道を切り開くことができる実剛たちが、むしろ異常なのである。

「まあ、僕たちは人外(バケモノ)ですからね」

 バケモノによる力で変えていかなくてはならないほど、澪は腐りきってしまっていた。

 あるいは、なにもせず、滅びるに任せようとした伯父の態度こそが正しいのではないか。そう考えたのは一再ではない。

 転機を迎えるたびに何か超常的な力が働いて、人々をより良い方向に導くとしたら、少なくともそれは人の歴史とはいえないだろう。

 失敗しても滅びるにしても、人は人の責任で行うべきだ。

「けど、僕たちには何とかするためのチカラがある。チカラを持っているのに使わないのは、それはそれで違うんじゃないかと思ったりもするんですよね」

 何度考えても答えが出ませんよ、と、付け加える。

「その答えがでるのは、きっと取り返しがつかない事態になってからだと思うの」

 成功するにしても失敗するにしても。

 だから、ブレーキが必要だと奈月は思った。

 暴君とは、暴虐な行いをするから暴君なのではない。

 だれも止めることができないから、暴君となってゆくのだ。

 つまり実剛の状態である。

 彼の眷属たちは、彼の意に添わぬ行動をけっしてしない。

 道を誤ったときに、殴ってでも軌道修正させてくれはしない。

 運命共同体として、暁貴と実剛にどこまでも付いていこうとしている。

 それではいけない。

「だから巫くん。私にチカラをください。あなたが間違ったとき、止めることができるだけのチカラを」

 若い女教師が、きっぱりと言った。




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