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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第3章 ~こんなシリアスな話だっけ?~
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こんなシリアスな話だっけ? 8


 学校の掌握など、優先度はかなり低い。

 前述のように、利益をあげられる場所ではないからだ。

 ただ、将来的な人材育成という点においては、学校の存在を無視することはできない。

「といっても、それこそそれは将来の話。生きるか死ぬかの瀬戸際に後進の育成までしている余裕はないですからね」

 トイレ掃除の監視から戻った信二が肩をすくめる。

 無駄な時間を過ごしてしまった。

 放課後の教室。

 彼の担当がどうやら最後の組だったようで、中学生を除いた実剛陣営が勢揃いしている。

「お手数をおかけしました。信二先輩。それにみんなも」

 恐縮する実剛。

 支配権の確立が最も遅かったのが、三人もの能力者がいる実剛のクラスだった。

 リーダーとしては幾重にも面目を失した形である。

「実剛くんの甘さは今に始まった事じゃないし。暁貴さん譲りでしょ」

 琴美が手を振って受け流す。

 一様に頷く仲間たち。

 大胆な決断をするくせに、詰めは甘いのだ。

「さしあたり日常生活に支障をきたさない程度の掌握で充分ですしね。メインはあくまで役場ですから」

 魚顔軍師の言葉である。

 改革には金がかかる。

 萩が潤沢な資金を持っているが、無限なわけではない。

 使うにしても、なるべく効率的に使わなくてはいけないのだ。

「最悪、登校しないで卒業資格だけいただくという手もありますので、学校の支配にこだわる必要はありません」

「そこまで堂々と不正するのもどうかと思いますが」

 苦笑しながら鞄を手に取る実剛だった。

 結局、罰掃除を監督する関係上、彼らが最後まで学校に残ることになった。

 もちろん、彼らが見ていたのは掃除の成果ではない。

 生徒たちの間で、吊し上げやリンチが行われないか、監視するためである。

 一部の不心得者のおかげで、他の生徒たちが割を食った。

 関係ないのに怖い思いをし、罰掃除までさせられている。

 そう考える生徒が一定数いれば、すぐに魔女狩りに発展するだろう。

 防止するために実剛陣営が張り付いた。

 暴君というものは、なかなかに気遣いが大変なのだ。

 さて、全員が参集したら戦略会議の始まりである。

「むしろ試食会じゃね?」

 串焼きを頬張りながら光が口を出す。

 もちろんそれも兼ねている。

 女性陣がそれぞれにアイデアを持ち寄り、澪豚のもっとも美味しい食べ方を試行錯誤しているのだ。

 試食は全員で行うが、味覚を麻痺させないために一口ずつと決められた。

 結果、余ったものは光と信一が責任を持って処理することとなる。

 あまり食べ過ぎると頭が働かなくなってしまうが、そもそもこの二人に頭脳労働を期待しているものは誰もいない。

「観光産業をメインに。この方針は変えようがありません」

 司会進行役の信二が告げる。

 暁貴、実剛、光則、准吾が頷く。

「ですが、観光だけでは食っていけないのも、また事実です」

 軍師の言葉は苦い。

 澪の基幹産業は行き詰まっている。

 農業も、漁業も、水産加工業も。

 深刻な後継者不足に加え、対外的な競争力がほとんどない。

 最近になってホタテ貝のブランド化事業などが始まってはいるが、起死回生には程遠いだろう。

「となると、外部企業の誘致しか方法がないやな」

 下顎を右手で撫でながら当主が言う。

 これまで澪は、外部からの参入をことごとく退けてきた。

 澪の血の秘密を守るため、という名目で。

 もちろん本心は別である。

 競争したくないのだ。

 大きな資本が町に入ってくれば、土着の産業が致命傷を受ける。資本力で勝てないから。

 故に戦わない。

 参入そのものを拒絶する。

 その結果が今の状況だ。

「外部資本に町が乗っ取られる可能性は確かにあるんだが、もうそんなこと言ってる余裕がないのも、また事実だ」

 とにかく雇用を確保せねば、人口流出に歯止めがかからない。

 町のために頑張りたいと思う奇特な人がいくらいても、仕事がなければ出て行くしかないのだ。

「千人規模で雇ってくれるでかいのが三つ。百人規模のやつが二つ。いまんところこれだけだな」

「なにがですか? 伯父さん」

「澪に支社なり支店なりを構えても良いって打診してきた企業だよ」

「嘘ですよね?」

 そんなうまい話があるわけがない。

 企業誘致はどこの地方自治体だって躍起になっているのだ。

 伯父の挙げた数字は、最小のものを取っても三千二百人の雇用確保ができるということである。

 失業問題が一気に片づくどころか、深刻な人手不足が起きるだろう。

「嘘じゃねえよ。もちろん無条件でもねえがな」

「条件?」

「判るだろう?」

「澪の血の秘密、ですね」

 答えたのは信二だ。

 人外を生み出す血。計り知れない価値がある。

 血族にしか顕現しないと思われていたそれが、萩によって量産が可能と立証された。

 軍需産業、化学産業、医療産業。

 喉からどころか、胃からでも腸からでも手を出して秘密を知りたがるだろう。

「もう情報は掴まれていると思った方が良いのですね。当主様」

「だろうな。耳が早いこった」

「どのようにするおつもりで?」

「なんでもかんでも与えてやるってことはできねえがな。ある程度のネタはくれてやって、企業誘致をすすめるさ」

「ほほう」

 軍師の表情には、賛同より留保の色が強い。

 血の秘密は生命線だ。

 これを切り売りしては、将来に禍根を残すことにもなりかねない。

 さらに、能力者が軍事利用されるなどという未来も想像したくない。

「取り扱いは慎重にな。いまは黒幕(フィクサー)どのが折衝に動いてるよ。俺らと手を結べるような企業体を探してな」

 萩鉄心のことだ。

 頷く信二と実剛。

 海千山千(うみせんやません)の萩の当主である。少なくとも彼らがやるよりずっと上手くやるだろう。

「けどまあ、会社を持ってくるにしても、一年二年でどうこうなるって話じゃねえ。それまで食いつなぐ方法を考えにゃならん」

「そこで観光の話に戻るんですけどね」

 観光客を増やしつつ、資金を貯め、人材を集め、企業誘致の時期に備える。

 口で言うのは簡単だ。

「やっぱB-1出ようぜ。B-1」

 唐突に口を挟むのは光である。

 エサを食い尽くして、暇になったのかもしれない。

「いや、だから羽原くん。そういう一時的なものじゃ」

「待ってください。実剛君。案外いけるかもしれません。インパクトとして」

 ぎらりと光る軍師の目。

 気持ち悪かった。

「インパクトですか? 信二先輩」

「ええ。澪ここにあり、というのを胃袋に刻みつけます。選手権は十月。それまでには観光客を迎える準備も、ある程度すすむでしょう」

 漫然と進めるより、期限を切った方が良い。

 十月まで三ヶ月。

 準備期間としては充分だ。

 まずは名を売り、次に実を売る。

 プランとしては悪くない。

 しかも、中高生チームで参戦ということになれば、話題性もある。

 実剛たちが名声を稼いでいる間に、暁貴たちが地盤を固めるという作戦だ。

「よし、それで行ってみ……」

「そんなことをしている場合ではなくなったぞ」

 実剛の台詞にかぶせて響く声。

 同時に開く扉。

 現れる雄偉な男。

 萩鉄心。

「どした? 鉄心」

 暁貴が声をかける。

「……沙樹はいないようだな。量産型能力者の資料が持ち逃げされた」

 何故か沙樹の存在を気にしながら、萩の当主が言葉の爆弾を投げ込む。

 料理をつまんでいた箸を、暁貴が取り落とした。

 ころころと転がる唐揚げ。

 運命の流転のように。



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