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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第3章 ~こんなシリアスな話だっけ?~
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こんなシリアスな話だっけ? 6


 翌日、役場を無断欠勤した者はいなかった。

 町長が予測したとおり、事態を深刻に受け止めていないのだ。

「ま、すぐ思い知ることになるけどな。沙樹、昨日議場に来なかった連中を呼び出してくれ。ひとりずつ、放送でな」

「意地悪ねぇ。晒し者にするつもり?」

一罰百戒(いちばつひゃっかい)といってほしいな。最小限の犠牲で最大限の効果を、さ」

「はいはい」

 格好付けてる従兄を放置して、放送設備へと向かう。

 やがて、呼び出された男が副町長室に入ってきた。

 昨日の町長よりひどい顔色で。

「さて、申し開きがあれば聞こうか?」

 問いかける暁貴。

「わ、私は組合に所属しています……」

 労働組合に入っているから不当解雇には応じない。

 すばらしい団結だ。

 にやにやと副町長が笑う。

「呼び出しに応じなかった理由を聞いたんだが、まあいい。昨日参加しなかったなら知らないかもしれないから教えてやろう。もうお前らに法の加護はない。俺に従って生きるか、逆らって死ぬかだ。好きな方を選びな」

「し、従いますっ どうか命ばかりは……」

「あそ。ならいいや。昨日の件は不問にしてやる。減給とかもしねーよ? ただし、自主的に返納するのは自由だぜ。なにしろ澪は財政難だからな」

 人の悪い笑顔で手を振り、男を退室させる。

 いきなり解雇になどしない。

 退職金がもったいないし、公務員あがりなど、使ってくれる企業は少ないから、再就職もままならないだろう。

 路頭に迷われても困る。

 それよりは、俸給の何割かを返上させた方が効率が良い。

 生活のことを考えれば、一割か二割が限度だろうが。

 こうして、昨日欠席したほとんどの職員は、命と引き替えに実質的な減給を選んだ。

「すべてを失うのではなく、一部を失うに留める。戦略としては正しい判断だが、もう少し気概があっても良いと思うんだがなぁ」

「そんな人が役人になるわけないでしょ。独立して一国一城の主になる気概がないから、寄らば大樹の陰で公務員になったんだから」

 暁貴の慨嘆に沙樹が苦笑を返す。

 ふたりの認識が変わったのは、十五人目の欠席者を面談したときの事だった。

 三十代と思しき地味な印象の男。

 呼び出しに応じなかった理由を問われて、彼は接客中だったと答えた。

「業務終了後に参集させたはずだが?」

「ぎりぎりで駆け込んできたお客さんを、時間だからって追い返せと言うんですか?」

 思い切り挑戦的な眼で睨んでくる。

 首を切るなら切ればいい、と、瞳が語っていた。

「正直に言います。副町長。私はだれが支配者になろうと興味はないんですよ。私らの仕事は町民の生活を守ることであって、権力者に媚びへつらうことじゃない。あなたの政治パフォーマンスにつきあう時間があったら、苦情の一件でも処理しますよ」

 一息に言い切る。

 恐怖は、むろんあるだろう。

 膝が小刻みに震えている。だが、節を曲げるつもりはないようだ。

 ついに本物(・・)の公僕がきたな、と、暁貴は内心で襟を正した。目線で沙樹に合図してパーソナルデータを受け取る。

 高木敦也(たかぎ あつや)。三十二歳。独身。中堅の私立大学を卒業後、いくつかの民間企業を経て四年前に採用される。勤務態度は真面目だが、壁を作る傾向があり仲の良い職員はいない。

 素早く確認した暁貴が頷く。

 生粋の役人ではないということか。

 コネ社会の澪役場では、さぞ生きづらいことだろう。

「高木といったか。お前さん。この役場をどう思う?」

「最低ですね」

 間髪を入れない応え。

「お前さんなら、変えられるか?」

「私にそんな力はありません」

「そうか。なら力をくれてやる。お前さんは今日から総務課長。町のナンバースリーだ」

「お断りします」

 断固とした拒絶。

 地位ほしさに意見したのではない。

「そんなくだらないことに人事権を使うくらいなら、その権力で職員全員にサービス・接遇検定を受けさせてください」

「ほう?」

 公務員に特別なスキルは必要ない。

 ましてサービスや接遇に関するものなど、ホテルマンや飲食店などの接客業のスキルではないか。

「役場は接客業ですよ。それを理解していない奴らが多すぎます。フレンドリーと無礼の区別すらついていない」

「ご意見箱には、その手の苦情はあがっていなかったはずだが」

「当然でしょう? 長年の衆愚(しゅうぐ)政策の(たまもの)です。それに出しても握りつぶされるだけだと思われていますしね」

「握りつぶすわけがねえだろうが」

「思われているのが問題だと考えます」

「なるほど」

 大きく頷く。

 こいつは判っている。

 これからの戦いは、空気との戦いになるのだということを。

 何をすれば勝ちなのか、何を失えば負けなのか、それすらも判らない長い長い戦いだ。

「良いだろう。職員全員にサービス・接遇検定を受検させる。目標は一級。半年後までに三級に合格できなかった者は懲戒免職。厳しすぎると思うか?」

「いえ。当然の判断かと」

 三級は努力さえすれば高校生でも合格できる。

 町の選良(せんりょう)たる町職員ならば、目をつぶってでも通らなくてはおかしい。

「そのうえでな。高木。やはりお前さんは総務課長に任じるよ。俺の片腕になってくれ」

「…………」

「ただし、これからの改革は茨道だ。相当恨まれる。人外に尻尾を振る裏切り者として命を狙われるかもしれねぇ。もちろん護衛(ガード)はつけるけどな。それでもお前さんの識見を欲しいと思う」

「…………」

「力を貸してくれねぇかな。澪のために」

「……澪のために、ですか。たぶん他の人が言ったなら信用できませんでした。副町長。あなたは本気なんですね」

 言葉を紡ぐ男。

 瞳のあたりに決意がたゆたっている。

 人外のチカラを持ち、眷属を従え、敵対していた萩まで平らげたこの中年男には、べつに澪にこだわる理由はない。

 町民たちの幸福など意に介する必要など、地平線の彼方まで探しても存在しないはずだ。

「甥っ子がな。榎本武揚の大ファンでな。俺も少しは影響されたかもしれん」

 北の地に共和国を作ろうとした男。

 幕臣でありながら、反乱指導者でありながら、それでも民のために尽くした男。

 明治最良の官僚と呼ばれた男。

 後塵を拝するか。それも良いだろう。

 大きく息をつく高木。

「不肖の身にそれほどのご厚意。報いる術を持ちませんが、無能非才なる身の全力を挙げて職務に精励させて頂きます」

「期待している」

 この瞬間、暁貴は腹心の部下を得た。

 握手が交わされる。

「職員たちには、地獄を見てもらいましょう」

「おっかないねぇ」

「普通の人の十倍くらい苦労して、やっと人並みの苦労だって言ってもらえるのですよ。公務員は」

「厳しいな。公務員だって普通の人間なんだが」

「それが税金から給料をもらうということです。町民たちから、報われない仕事だと同情されるくらいで丁度良いのですよ」

「……お前さん、もしかして役人嫌い?」

「私に限らず、好きな人はいないと思いますが」

 さも当然という応えに、沙樹が大きく頷いた。

 微妙な顔をする暁貴。

 お前らも役人だからな? という言葉を飲み込んで。


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