静かに切れた人
「ああああ、見過ごすなんて、何でや、何でや。」
「……。」
「……ふう…。」
喚く、瑛瑠。
無言でジトリと和希を見ている、紅葉。
ただただ溜息を零す、桂子。
そんな三人の反応に和希は遠い目をする。
「皆、いくら自習だからって…というか、瑛瑠ちゃんたちは…。」
今、和希のクラスは自習だった。
本来授業を行うはずだった教科担当の教師が階段から足を踏み外し、そのまま救急車によって運ばれた。
幸いにも命には別状ない為、明日からは松葉づえはついたとしても、授業は行えるそうだ。
しかし、それは和希と紅葉に限った話で、別のクラスのはずの瑛瑠と桂子は普通に授業があるはずだ。
「安心してや、腹痛つーことで、抜け出してきたから、大丈夫や。」
「いやいやいや、全然大丈夫じゃないから。」
すがるように桂子を見れば彼女は小さく肩を竦めた。
「聞くと思う?」
「…………無理だよね。」
桂子は言葉少ないが和希は正確に彼女の言葉を理解した。
すなわち「猪突猛進な瑛瑠ちゃんが、素直にゆう事を聞くと思う?」
諦める事しか出来ない和希はから笑いを浮かべ、項垂れれる。
「和希ちゃん、話し戻すけど、何であないな子、放置したん?」
「まだ、大切な人たちに手を出してないもの。」
ニッコリと微笑む和希に三人は思わず、後ずさる。
「やば……うち、噂のみ鵜呑みしとった。」
「同感……。」
「………あの子、地雷踏んだのね。」
三人は和希が切れている事を悟る。
「どうしたの?」
ニコニコと笑っている和希は何とも表現できないものを背負っている。
無色の圧力、それが一番妥当だろうか、そんなものを和希は発している。
そして、それと同じものを発する人を彼女たちは知っている、それは和希の母親だ。
普段は優しい彼女の母親だが、一度切れるとニコニコと笑いながら急所を踏んで、つらつらと正論を吐き出すのだ。
因みに、それは第一段階で、第二段階は無表情になり、攻撃は敢えて急所から外してじわじわと恐怖を与える。
そして、その血を受け継ぐ和希は彼女の怒り方がよく似ている。
因みに、それを知っているのは彼女らと空也の四人だ。
「まだ、成熟しきっていない子どもだから、もう少し様子を見てみるの。
でも…………。」
和希の目を見た三人は小さく悲鳴を上げる。
その眼は静かな怒りを宿していた。
「子どもだからと言って、甘く見はしない、子どもだからこそ、時に何をしでかすかわからないもの……、その時は徹底的に……躾ける。」
三人はこれ以上何も言えなかった、そして、自習が終わるまで三人は硬直し、和希のみが課題を終わらせていたのだった。




