幕間・未知なる…
冬牙は重い足取りで自分の家へと足を向ける。
いつもだったら適当に切り上げて家で過ごしている冬牙なのだが、この家にはもう一人住人が昨日から住み着いている。
正直言って、追い出したい。
追い出したいのだが、あの夏子に知られたら間違いなくややこしい。
しかも、少女の方も乗り気なようなので、あまり顔を合わせたくない冬牙はいつもよりもかなり遅くに帰宅したのだった。
腕時計を見れば十二時になろうとしていた、あの真面目をそのまま人にしたような少女ならば間違いなく文句を言うか、見限るかをするだろう、と冬牙は考えていた。
明るく照らされるが、人の気配がなかった。
流石に寝ているかと、冬牙は安堵の溜息を吐く。
そして、慣れた足取りでリビングに向かえば、何故か電気が点いていて、お約束な展開じゃないだろうな、と冬牙は顔を引きつらせた。
そして、慎重にドアを開けると、案の定一人の少女が机にうつ伏しながら居眠りをしていたのだった。
「はー。」
呆れと、苛立ちの籠った溜息を零すと、すやすやと穏やかな寝息を立てる少女を睨んだ。
「おい、起きろ。」
怒ったような声音と共に冬牙は乱暴に少女の肩を掴んで揺さぶる。
少女は思ったよりも寝起きが良いのか、唸り声を上げながら目を開けた。
ぼんやりとした漆黒の瞳が冬牙を捕える。
「……かえってきたんだ……。」
寝起きの為か、舌足らずの言葉が少女の口から漏れる。
「ここは俺の家だぞ。」
少女は冬牙の言葉を聞いてクスクスと邪気のない笑みを浮かべる。
その笑い方はまるで、小さな子どもを見ているような、そして、あの人のような笑い方だった。
「誰も、悪いとは言ってないよ。おかえりなさい。」
「………。」
何年も聞いた事のない言葉に、冬牙は言葉を詰まらせる。
少女は冬牙を見て、彼に気づかれないくらい何気ない動作で肩を竦めた。
「あー、変な体勢で寝てたからか、体が強張っているや。」
少女は背伸びなどをして、体をほぐしだす。
「日向さん、食事、済まされました?」
「……。」
無言の冬牙に少女はジッと見つめ、そして、彼の表情を読み取る。
「食べてないんですね。でも、こんな時間か……。」
少女は時計を見て、考える。
「軽く、スープを作るので、それを食べてから寝てくださいね。」
少女はそれだけ言うと台所に向かって歩き出す。
冬牙は予想外の言動を取る少女に呆気に取られる。
正直、他人なんて、嫌いだ。
そして、この少女だっていつか、必ず冬牙を裏切る。
だって、自分にはあの人だけだ。
無償の愛情をくれたあの人。
そして、その無償の愛情と引き換えに命を落としたあの人。
あの人以上の存在なんていない。
それ以外は全て敵だ。
そう、あの人と同じ空気を纏う少女だって、必ず自分を裏切るのだから。
冬牙は傾きかける心を必死になって、抵抗する。
それは無駄な事なのに、それなのに、賢い冬牙はその事に気づいていない。




