主婦、和希
帰宅した和希だったが、冬牙の姿はなく、和希はやはりか、と思いながらも溜息を零す。
シンとした家に帰るなんていつぶりだろうかと、考えると、なんと、中学生時代に母が祖父の入院に付き添った時だと思い出し、それは寂しいはずだと納得する。
今も昔も家族には恵まれている和希は冬牙を思い何とも言えない気持ちになる。
この役目が終わる時まで、せめて自分が彼の帰る居場所になろうと、和希は再度誓うのだった。
「さて、ボーとしている暇はないんだから。」
やらなくてはならない事は山ほどある。
部屋の掃除。
洗濯物を取り入れ、たたむ。
夕食の準備。
風呂の支度。
明日の朝食の下ごしらえ。
明日のお昼の下ごしらえ。
宿題。
予習、復習。
パッと思い浮かべるだけでもそんなにもあるのだから、いくら時間があっても足らないだろうと、和希は思っている。
重い荷物を持って和希は台所にたどり着けばすぐに買ってきたもので、冷やさなければならないものを冷蔵庫に詰め込んでいく。
ほんの二日前まで生活感がなかった冷蔵庫は和希の手によって、ようやく人が生活しているように見えるようになった。
「ふう……。」
ある程度片づけた和希は顔を上げ、時計を見て思ったよりも時間がかかっている事に気づきすぐに洗濯物を取り入れる為に立ち上がる。
ベランダに干してある洗濯物に触れれば完全に乾ききっていたので、和希は両腕に洗濯物を抱える。
洗濯物はひとまずリビングに置いて、和希は順序良く行動をしていくが、冬牙は帰って来ない。
和希はその事に気づいたのはすっかりと夕飯の支度も終え、風呂もあとはスイッチを入れて湧くのを待つだけとなった時だった。
顔を上げ、時計を見れば八時半を指していた。
「何時に帰ってくるか訊くの忘れていたな、失敗したかも……。」
学部によっては帰宅が遅くなる学部もあるし、それに人付き合いも…、と考え、後半はないかな、と頭を振る。
もし、積極的ないし、ある程度人付き合いをしているのならば、夏子はここまでしていなかっただろうし、部屋だってもう少し違う形になっているだろう。
頬杖を突き、和希はどうするか考える。
正直、お腹はすいている、でも、一人で食べる気はしなかった。
和希は小さく溜息を零し、学校指定の鞄から筆記用具とノート、、教科書を取り出し、冬牙が帰ってくるまでに宿題を終わらせてしまおうと考える。
「遅いと分かっていたら、違う料理にしたのに…。」
机に並べられている、肉じゃが、ほうれん草のお浸し、一応は温めなおしたりとかすれば十分食べられるのだが、それでも、作り立てを食べて欲しかったな、と和希は机にうつ伏す。
「昔は、可愛かったのにな……。」
ついつい、昔を思い出し、泣き言を言う和希だったが、頭では今と昔の関係は違うものだと理解していたので、ただの愚痴でしかなかった。
最後にもう一度溜息を吐いて和希は宿題に取り掛かるのだった。




