幕間・乙女たちの小バトル????
「うち、あんたに言っておく事があるんやけど。」
「何かしら?」
高飛車に笑う少女に瑛瑠はいつものへらへらとした笑みではなく、その顔に良く似合う冷笑を浮かべていた。
和希たちや空也は瑛瑠が自分の釣り目があまり好きじゃない事を知っている、そして、彼女が浮かべる笑みが冷笑に近いものになるので、瑛瑠がそうならない笑みを常に浮かべている事実を知っていた。
そして、瑛瑠の笑みを見た少女はギクリと体を強張らせる。
「な、何よ。」
「うちら、言ったよな?」
「だから、何よ。」
「和希ちゃんには関わらんといてって。」
「そんなの聞いていないわ。」
少女の言葉に瑛瑠は小ばかにしたような笑みを浮かべる。
「へぇ、あんたの頭は鳥並やね。」
「――っ!」
少女は顔を真っ赤にして瑛瑠を睨むが瑛瑠は涼しい顔をしてそれを受け止める。
「ほんまにあんたの頭の中は自分中心や。」
「本当に、残念すぎるわね。」
「何なのよ、わたしの邪魔ばかりして、バグっているんじゃないかしら。」
苛立ちからか爪を噛む少女に瑛瑠は冷笑を浮かべたままで一瞥し、桂子は溜息を零す。
「バグっているのは君の頭。」
「何ですって。」
「そうそう、今どきアンチ王道なんて流行んないで。」
「それ、違うよね?」
「えー、十分そっくりや、なんせ自分の都合のいいように聞き分ける耳、何でもかんでも大声で話す、んでもって逆ハー狙いの痛い子。」
「……確かに。」
「わたしは冬牙様一筋よっ!」
瑛瑠の言葉に少女は怒鳴るが、二人は無視する。
「自滅すんの待つのうち嫌やで。」
「そうね。」
「何訳の分からない事を言っているのよ。」
「「……。」」
瑛瑠と桂子は互いに顔を見合わせ、同時に肩を竦める。
「こないな子まで気に掛ける和希ちゃんて、ほんま聖女や。」
「そうね、彼女こそ乙ゲーとかのヒロインがピッタリよ。」
「せやな、んでもって、ヤンデレ×おかんって素敵やない?」
「和希ちゃんの相手がヤンデレなんて駄目よ。」
「受け溺愛?」
「そうね、出来ればヘタレも入っている方がいいわね。」
「えー、なんでやっ!」
不満そうな顔をする瑛瑠に桂子はニヤリと笑う。
「あたしたちに歯向かうなんて奴はいらないわ。」
「あー確かに、それなら、ヘタレくらいがちょうどええな。」
「そうでしょ?」
一人放っておかれた少女はハッとなり、再び怒鳴る。
「わたしを無視するなんていい度胸じゃないっ!」
「ああ、まだ居ったん?」
「さっさと教室に戻れば?」
「……っ!」
少女は二人をギロリと睨んだ瞬間、予鈴が鳴る。
「あー、次はなんやったけ?」
「現社よ。」
「うわ、めちゃ眠いやん。」
「諦めなさい。」
「うわーん、どないしようかな。」
「どうも、こうも、ちゃんと授業を受けないと和希ちゃんも須藤くんも怒るわよ。」
「そりゃ、あかんわ。」
瑛瑠は肩を竦め、屋上の出入り口に向かう。
「桂子ちゃん、はよ、行こうか。」
「そうね。」
完全に少女を無視した二人は教室に向かう。
そして、一人残された少女はわめいているが、残念ながら興味を無くした二人がそれに気づく事はなかった。




