躾はしっかりと
机にカレーとサラダが並び、和希は水の入ったピッチャーを用意し終えると、二人を呼んだ。
「ごめんなさい、簡単なもので。」
「いいのよ。」
「……。」
和希の言葉に夏子はカラカラと笑い、冬牙は彼女を一瞥しただけで、そのまま無視して食べ始めた。
「……。」
和希の眉がピクリと動いた事に二人は気づかない。
「……日向さん?」
「……。」
「日向さん。」
「……。」
和希を無視して食べ進める冬牙に彼女は笑顔でその手を掴む。
「何だよ。」
「……。」
不機嫌な顔が和希を睨むが、彼女はニッコリと微笑んだまま掴んだ手に力を入れる。
「――っ!」
冬牙は急に顔を顰める、和希はそれが自分が仕出かした事だとは分かっているが、残念ながら彼女はそれを緩める気にはならなかった。
「日向さん、何で私がこんな事しているか分かります?」
「離せよ。」
「……。」
反抗的に見てくる目に和希は幼いころの彼の姿と被り、ますます、笑みを深める。
「分からないんですね?」
「……。」
「そうですか、分からないんじゃ仕方ありませんね、食事の前はしっかりと手洗いをしてください、そして、食べる前にはちゃんと「いただきます」を言わないといけませんよね?」
「そんな、餓鬼みたいな事…。」
「餓鬼じゃなくても、むしろ、大人だからこそちゃんと子どもの見本とならないといけませんよね?手洗いの意味だって手についた汚れを落とさないとお腹を壊しても知りませんし、「いただきます」だって、農家さんや命を奪った生き物に対してお礼をいうのが普通ですよね?」
「……。」
黙り込み、そして、そっとスプーンを置いて立ち上がろうとする冬牙に和希は彼の肩をがっしりと掴んで満面の笑みを浮かべる。
「もしかして、叱られたから逃げるつもりですか?」
「……。」
「本当に貴方は子どもですか?」
「……。」
「いいですか、私は当たり前の事を言っているだけで、特別な事なんて何一つ言っておりません、いいですか、食事をしなければ、人間は死んでしまいますし、栄養バランスの取れた食事をしなければ、骨粗鬆症になったりもします、老後に骨折して寝たきりなんて嫌ですよね?」
「……。」
「また、だんまりですか、まあ、いいですけど、私がここに住むわけですから、ちゃんとした食事をとってください、そして、最低限のマナーは守ってください、そうしなければ…ね?」
冬牙は和希の迫力を見て、彼女を連れて来た夏子を睨む。
一方夏子は自分の予想以上の事をする和希を見て拍手を送っていた。
「貴方は子どもじゃないんですよね?」
「まあな。」
「それだったら、それらしい行動を私に見せてください、そうしない限りは夏子さんがたとえ十分と思っても私は貴方の躾役から降りるつもりはありませんからっ!」
ビシリと指を突き付ける和希に冬牙は眉を寄せた。
「お手拭きがここにありますから、手は拭いてちゃんと残さず食べてくださいね?」
有無を言わせない和希の笑みに冬牙は渋々彼女に従うのだった。




