帰宅
布団や食器、すぐに必要な物を買いそろえた三人は冬牙の家についた瞬間ぐったりとしていた。
特に夏子に時々ちょっかいを出された和希の疲労は半端なかった。
「おい、大丈夫か?」
「多分……大丈夫です、今から、ご飯の準備しますね。」
よろよろと立ち上がる和希を残る二人は見送る。
「おい、追いかけなくていいのか?」
「夫から台所に立つな、と言われているのに?」
「……。」
夏子のする事には基本的には許可する彼女の夫が禁止する程の彼女の腕前を逆に見てみたい気がするが、そんな事をすればただでさえ疲れている和希の体力は一気にゼロになるだろう。
「なあ。」
「ん?」
「何であんな餓鬼を巻き込んだ?」
「あんたも大概に餓鬼だと思うけど?」
「俺の事は置いとけ。」
「はいはい。」
夏子が適当に頷くと、スッと目の前に冷たい飲み物が入ったグラスを二つ差し出される。
「えっ?」
「もう少しかかりますので、これでも、飲んでてください。」
「ありがとう、大変じゃない?」
「大丈夫です、慣れているんで。」
和希ははにかみながら台所に戻っていく。
「本当にいいお嫁さんになるわね。」
「……俺の質問には答える気はないのか?」
半眼になっている冬牙に夏子は溜息を零す。
「分かっているんでしょ?」
「…変わらないからな。」
「どうでしょうね?」
夏子はおどけたように言うが、本気でその言葉を言った。
冬牙自身は気づいていないが、和希が自分のテリトリーに入っていても彼は自然に受け入れている所がある。
しかし、たまに気づいた時には威嚇するので、和希はそのたび苦笑いをしながらスッと彼の範囲から一歩退く。
本当に彼女は冬牙の事を理解しているような絶妙な間を保っている。
「あんたは本当に犬みたいね。」
「何だと?」
褒められていない事に気づいている冬牙は眉を寄せる。
「忠犬で、警戒心が強い。」
「……。」
「ああ、犬というか狼かもね、一度仲間に入れたら大切にするもんね。」
「……。」
「ねぇ、一つ約束しておいて。」
「何をだ?」
「和希ちゃんを泣かしてもいいけど、本気で傷つけるのは駄目よ。」
夏子の言葉に冬牙は少し不思議そうな顔をする。
「普通泣かすなじゃねぇのか?」
「あの子は感情豊かよ、泣きたいときくらいあるはずよ、だから、その辺はとやかく言わないけど、ただね、彼女が傷つくのはダメなの。」
「どう違うんだよ。」
「今のあんたなら一生気づかないから言わないわ。」
夏子は冷めた目で冬牙を見る。
「なら、俺は気づかないままでいい。」
「……彼女を傷つけたら容赦しないわよ。」
「あんたが?」
「いいえ。」
夏子の言葉に冬牙は首を傾げる。
「誰が?」
「あの子の母親。」
「……。」
冬牙は怪訝な顔をする。
「言っておくけどあの人を怒らしたら怖いわよ。」
「へ~。」
夏子がそんな脅しをするなんて冬牙は冗談だと思っているのだが、後日和希の母親を本当に怒らせる事になるなんてこの時は思いもしなかった。
そう、それは遠くない未来の出来事…。




