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前世の俺は攻略キャラだったらしい  作者: 弥生 桜香


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文化祭 4

「……。」


 むすっとしている紅葉を横目で見ながら和希はどうしてこうなってしまったのだろうかと、額に手を当てる。

 結局あの後ついて行くという冬牙を拒否することが出来ない上に、詩音までもついてくることになってしまったのだ。

 その所為で紅葉が不機嫌になってしまい、和希はどうしたものかと頭を悩ませていた。


「なんか、ごめんね。」


 詩音は申し訳なさそうに和希にこっそりと謝る。

 和希はその謝罪に苦笑しか出なかった。

 紅葉の不機嫌の割合が、五割冬牙、四割詩音、残りの一割が和希というところだろう。

 どれも不機嫌の理由は違うのだが、それでも、結果として、不機嫌な紅葉が出来上がってしまったので、和希としては何とも言えない気持ちになってしまう。


「紅葉ちゃん。」


 和希が呼びかけるが、紅葉は聞こえていないのか、聞こえているのに無視しているのか、明らかに後者だろうと和希は分かっていた。

 どうすれば機嫌が戻るかと和希は考えるが妙案は浮かぶ事無く、瑛瑠たちの教室までたどり着いてしまった。


「あ、神崎さん、東雲さん。」

「こんにちは、瑛瑠ちゃんと桂子ちゃんはいますか?」

「ええ、いるよ、呼んでこようか?」


 受付の猫又に扮している女生徒の言葉に和希は首を横に振る。


「ううん、邪魔したくないし、中にいるんだよね。」

「ええ、二人は――。」


 中にいる二人が何をやっているかネタバレしようとしている猫又に和希はそっと自分の口元に指を押し当て、微笑む。


「――っ!」


 和希は自覚のない魅了を振りまき、猫又の少女は顔を真っ赤にして黙り込む。


「見てのお楽しみだから、ネタバレはなしね?」


 いたずらっぽく笑いかける和希に猫又の少女はコクコクと頷く。


「えっと、ルールとかある?」

「ふ、二人一組で中に入っていただきます、一組目が入って五分後に次の一組が入るようにお願いしています。」

「ありがとう。」


 猫又の少女の説明に和希は後ろにいる面々を見て困ったような顔をする。


「誰と誰が入ろうか?」

「……。」


 紅葉は無言で和希の腕を掴みギュッと抱きしめる。


「……おい、何が面白くて男と入らんといけないんだ。」

「……。」


 紅葉の無言の圧に冬牙は眉根を寄せて彼女を睨む。


「嫌なら、入るな。」

「……。」


 和希はやはりこうなったかと、天を仰ぐ。


「……どうしましょう。」

「……。」


 和希は一人傍観していた詩音に聞いてみる。

 彼は何かを考えていたのか、顎に手を当て、そして、ニッコリと微笑む。


「よし、神崎さん、一緒に行こうか。」

「えっ?」

「……。」

「はあ?」


 予想していなかった詩音の言葉に和希は単純に驚き、紅葉はしかめっ面になり、冬牙は珍しく大きな声を出し、そして、詩音を睨む。


「だって、二人が神崎さんと一緒がいいと争っているんだから、それなら、第三者と一緒にして、君たちが一緒に入ればいいだろう?」

「本気で言っているのか?」

「というか、それしかないと思うんだよね。」

「どういう事だよ。」

「君は男同士は嫌なんだよね?」

「ああ。」

「東雲さんは自分と一緒は嫌だろう。」


 尋ねているようで、尋ねていない物言いに和希は心配そうに詩音を見る。

 そして、紅葉はその言葉にそっと目を逸らす事で、回答する。


「うん、だろうね。」

「……。」

「だったら、全員が入るとしたら、自分と神崎さんが一緒の方がいいだろう。」

「だが。」

「時間をかけるのは得策じゃないし、さっさと行こうか。」


 そう言うと、詩音は和希の手を掴んでお化け屋敷の中に入っていく。


「おい。」

「まっ!」


 後ろの方で驚く声が聞こえるが、詩音は振り返る事無くただまっすぐに進む。


「……珍しいですね。」


 数歩進んでから、和希は呟き、それを聞いた詩音は苦笑しながら立ち止まる。


「ごめんね、こうでもしないと君と話が出来ないと思ったから。」

「何でですか?」

「ずっと前から思っていたんだ、でも、その機会もないし、君の近くには必ず誰かが居たからね。」

「そう……ですね。」


 和希は一瞬否定をしようと思ったが、詩音と会った時は誰かしら側に居たと思いだし、思わず肯定の言葉が出てしまった。


「そうだろう?」

「ええ。」


 詩音は小さく口元に笑みを浮かべ、脚を動かす。


「君は不思議な人だね。」

「そうですか?」

「うん、君は子どものようで、でも、子どもじゃない、勿論君のような年ごとの子どもはそうかもしれないけど、君はまた違う。」

「そうでしょうか。」

「うん、君を初めて見かけた時から、君は変わっていない。」

「初めてですか?」

「うん。」


 最近のはずなのに、その目はずっと前を指しているようで、和希は記憶を手繰るが、やはり、彼女の中にはなかった。


「君は覚えていなくて当然だよ、一方的に知っているだけだからね。」

「……。」

「君が五、六歳の事だったな、先生の所の家で君を見かけたよ、大人びた君をね。でも、今こうしてみると君はあの頃から変わっていないように思う。」

「変わったと思いますよ?」


 和希はそう言って自分の体を見る。


「側は成長しただろうけど、中身はあの事のままだよ。」

「……。」

「君は一体何をしたいんだ?」

「何を。」

「いや、違うな、何だろう、凄く苦しそうに見える時があるんだ。

東雲さんたちも気づいているけど、彼女たちは近すぎるから、君に踏み込めないでいる。

だから、君とそこまで親しくもない自分が踏み込んだ方がいいと思って、こうして、お節介を焼きに来たんだよ。

親しくない人の方が話せるときがあるだろう?」


 詩音が何故ここまでするのか和希には分からなかった。


「君は気づいていないかもしれないけど、限界まで来ているように見えるよ。」


 和希は無意識に自分の顔に触れる。


「自覚はあるようでなさそうだけどね。」

「……。」


 和希はどうするか悩む。

 彼はきっと話さなくても、何も言わないだろう。

 それを決めるのは和希自身だから。

 いつもの和希だったらきっと話さなかっただろう。

 だけど、彼女の中で何かが変わり始めた和希は重い口を開いた。

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