表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世の俺は攻略キャラだったらしい  作者: 弥生 桜香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

229/260

幕間・揺蕩う

 まるで池の中に浮かぶ笹で作った小舟のようにその身はただただ浮かびさ迷っているようだった。

 頼りなくて、心もとなくて、怖くて、でも、どうしよもうなくて…。

 どうしもなく泣きたくなるような。

 身を縮めて閉じこもっていたいような。

 闇に身を任せたくて、ただ、暗い深い深い場所に落ちて行きたくて、でも、それが出来なくて。

 手を伸ばせば何かに触れる。

 それは少年と青年との狭間の彼だった。

 ようやくここが夢だと悟った。

 固く閉ざされた彼の瞼が持ち上げられる。

 真っすぐに見つめてくる瞳には見覚えがあった。

 鏡で見ている時に見る自分のそれだった。


「初めまして、というべきか…。」

「……。」


 覚えている声と違って違和感がある。

 でも、これが自分の声だともなんとなく思う。


「どうして。」


 ようやく言葉が出たと思ったら、そんな言葉が口から洩れる。


「夢だからとしか言えないな。」


 私の質問に苦笑する彼。


「……なんか悪いな。」

「えっ?」

「本当なら俺の記憶なんて無用の長物なのに。」

「そんな事ない、これがあって、私は私だもの。」

「……本当にいい子に育ったな。」

「……。」


 私は彼でもあるはずなのに、彼はまるで自分と切り離している。

 その事に違和感を覚える。


「貴方は私でしょ、何でそんな他人行儀なの?」

「お前は俺の記憶を持っているけど、俺じゃない。」


 私のアイデンティティを否定された気分だった。


「思い出したのが赤ん坊だったからそう感じたんだろう、確かに始めは俺と同じだと思った。」

「なら。」

「だけど、お前は俺じゃない。」


 はっきりと否定する彼。

 分からない。

 何故彼は否定するのだ。

 分からない。


「……分からないだろう。」

「えっ?」


 少し寂しそうな顔をする彼。


「自分だったら分かる。

 なんてそんな事ない。

 俺は俺。

 お前はお前なんだ。

 俺だったらこうするだろうとは思う、だけど、はっきりと違うところがある。」

「それは。」

「冬牙だよ。」

「えっ?」

「それまでは俺もお前の行動に違和感なんかなかった。

 だけど、あいつとかかわるうちに違和感を覚えた。

 当然だよな、あいつは俺としてじゃなくお前と言う一人の人間として見ている。

 だから、それに合わせてお前もそう行動する。

 もしかしたら、もっと前から違和感は合ったのかもしれない。

 だけど、それでも、女だった俺だったら。

 この年頃の奴だったら。

 そう思ったら疑問なんてなかった。」

「……。」

「だけど、あいつだけは駄目だった。

 俺の知っている冬牙だったら。

 俺だったら。

 そう考えると違和感しかなかった。

 だけど、凍り付く俺と違ってお前は自然にふるまっていた。

 ああ、お前と俺は違うんだと思ったんだ。」

「……。」


 唇を噛む。

 確かに私はあの人と付き合う時は何か違うと思った。

 私の心も。

 色々な所も。

 でも、否定なんてしてほしくなかった。

 私のこの感情は庇護欲のはずだ。

 この人と同じ。


「……。」


 私の考えている事が分かったのか、彼は眉を下げた。


「本当に頑固者だな。」

「……貴方ゆずりだからね。」

「ああ、そこはそうだろうな。」

「……。」


 自覚はあるのか。


「まあ、たとえ道が違えても、俺はお前の中にいる。

 だから、同一である事を絶対に考えてくれるな。」

「……。」

「お前が俺を大事だと思ってくれているのは嬉しい。

 だけど……。

 冬牙にも言える事だが、俺を重要視して今の自分を見失って欲しくないんだ。

 お前は確かに「かんざき かずき」だ。

 だけど、俺(一輝)である必要はない。」


 分かる部分はある。

 でも、それを飲めるほど心は決まっていない。


「お前は「和希」だ。

 だから、「和希」として好きに生きてくれればいい。

 それが俺では無理だった道だとしても、それは誰も責めやしない。

 お前が選んだ道で、他の人が否定しても。

 俺は…。

 俺だけがお前を肯定してやる。

 だから、今を精いっぱい生きろ。」


 彼の声が遠くなる。

 目覚めの瞬間だ。


「どうか、お前の幸せを考えてくれ。

 幸せになる事は決していけない事じゃない。

 それはお前にもあいつにも言える。

 だから、幸せになる事を怖がるな。

 そして、俺を理由に逃げないでくれ。

 ………幸せになってほしいんだ。

 お前にも。

 あいつにも…。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ