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前世の俺は攻略キャラだったらしい  作者: 弥生 桜香


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幕間 瑛瑠と空也2

「……。」

「……。」

「……兄ちゃん、もう一回やっ!」

「瑛瑠。」


 嗜めるような声を出す空也に瑛瑠は首を振る。


「いやや、諦めたくないっ!」

「……。」


 先ほどから瑛瑠は可愛らしい熊のキーホルダーを狙っていた。

 なのに当たらない。

 いや、景品は取れているのだが、何故か熊のキーホルダーからずれて他のに当たる。

 射的の店員であるおじさんも苦笑しか出てこないようで、じっと待っている空也を見ている。


「はぁ、瑛瑠代われ。」

「えー。」

「お前だといつまで経っても終わらねぇだろう。」

「そうないな事…。」

「あるだろうが。」

「うー…。」

「じゃあ、弾一つだけよこせ、それまでは思う存分やれ。」

「分かった、一つだけやよ。」

「ああ。」


 そして、瑛瑠はまた熊のキーホルダーに向かって銃口を向けた。


「……。」

「……。」


 瑛瑠の放った弾は全て熊をよけるように飛んでいく。


「何でや…。」


 浴衣のまま地面に膝をつきそうになる瑛瑠を空也は寸前の所で止める。


「お前、何やろうとした。」

「ありゃ。」

「頼むからもう少し自分の格好を考えてくれ。」

「くぅ、ごめんな。」

「はぁ、まあ、お前だしな。」

「何やて。」


 余計な事を言って瑛瑠を苛立たせる空也。

 空也はそれをいつもの事だと割り切り彼女の手から銃を奪い取る。


「ほら、おれの番。」


 空也はくるりと銃を回す。


「あの熊だな。」


 弾を込め、そして、狙いを定める。


「……。」


 本当ならどのくらいの加減で落ちるか確認したかったが、幸いにも瑛瑠の無駄弾のお陰でおおよその判断がついた。

 そして、弾は放たれる。


「あっ!」


 瑛瑠の喜びの声が空也の耳に届く。

 そして、キーホルダーは見事に空也の弾によって落とされる。


「おめでとう、やったな、坊主。」

「ありがとうございます。」


 空也はキーホルダーを受けとる。


「すごい、すごい。」

「まあな。」


 空也は微苦笑を浮かべる。

 瑛瑠や射的のおじさんは知らないのだが空也の射的の腕前はほぼ百発百中なのだ。

 中学時代につるんでいた奴らと一緒に出店で遊んでいた時に見つけた空也の特技だった。

 そして、近所の祭りで空也は射的の出禁を申し付けられた。

 それから空也はやってなかったが、思ったよりも腕前は鈍っていなかった事は幸いだった。

 見事に一発で決めた空也は瑛瑠の手にそれを置く。


「よかったな。」

「ほんま、ありがとうな、くぅ。」


 瑛瑠の陽だまりのような笑みに空也も口角を上げる。


「大切にしろよ。」

「勿論っ!」


 キーホルダーをいろんな角度から眺める瑛瑠に空也は首を捻る。


「何かのコラボ系か?」


 空也はそう言って違うだろうな、と自己完結させていた。

 瑛瑠の好きなものは基本押さえているし、自分だって気になるからチェックを入れている。

 だから、それが何かしらのコラボ商品とは違うと思うし、それに、瑛瑠が好きな物のキャラの押し色でもない。

 だから、空也は分からず首を捻っている。


「ちゃうよ。」

「だよな。」


 瑛瑠の返答に空也は頷く。


「だったら、何でそれが欲しかったんだ?」

「……それは…。」


 急に言葉を濁らす瑛瑠に空也は怪訝な顔をする。


「そんな変な理由なのか?」


 空也はじっと熊を見る。

 熊はどこか抜けた顔をしている。

 でも、そのその抜けた表情でも愛嬌がある。

 どこかで見覚えもなくはない、だけど、それは何なのか空也には分からない。

 もし、ここに桂子か和希が居たら間違いなく苦笑を浮かべていただろう。

 その熊はどことなく空也に似ていたのだ。

 だから、瑛瑠はそれを意地になって取ろうとしたのだ。

 誰にも取られたくなかったから。

 でも、結局は自分の手で取れずに本人に取られてしまったけど。

 それでも、空也はそれを直接瑛瑠に手渡してくれた。

 その事は、自分で取るのと同じくらい瑛瑠は嬉しかった。


「それは秘密やで。」

「……。」


 空也はジッと瑛瑠を見つめる。

 絶対に言いたくないという目をしている彼女に空也はこれ以上問う事は出来なかった。


「そろそろ花火の時間だな、行くか。」

「えっ、もうそんな時間なん?」

「ああ、お前が熱中していたから結構時間が経ってるぞ。」


 そう言って空也は自分の腕時計を瑛瑠に見せる。


「ほんまや。」

「他の連中に確認を取ったら好き勝手に花火を見るそうだ。」

「いつの間に。」

「だから、お前が熱中している間にだ。」

「……うー。」

「ほら、こっちに行こう。」


 そう言って空也は人気の少ない場所に行く。


「くぅ、どこに行くん?」

「この先に穴場があるらしい。」

「そうなん?」

「ああ。」

「そんな情報いつの間に。」

「さっきの射的屋のおっちゃんとな。」

「……流石やね。」

「まあ、いつもの事だろう。」


 一つの事に熱中してしまう瑛瑠を手助けするのは幼い頃からの空也の仕事だった。

 だから、今回も同じだった。


「花火綺麗に見れるとええね。」

「そうだな。」

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