何でこうなった…
和希が意識をはっきりさせたら、いつの間にか彼女は夏子が運転する車の中にいた。
「あら、正気に戻った?」
「あの……すみません。」
「いいのよ、現実逃避したくなるのは分かるから。」
分かるのなら何でこんな酷い仕打ちをするのだと、和希は思うのだが前世の一輝の時もこの姉はこういう姉だったと思い直し、溜息だけで留める。
「おばさん、こいつは何なんだよ。」
「おば……まあ、わたしはいいけど、この子にはちゃんとして。」
「そう言ってもこいつの名前聞いてない。」
「あの、名乗りましたけど。」
「そうだったか?」
「はい。」
冬牙は首をひねるが思い出せないようだ。
和希は昔から変わらないと溜息を零す。
そう彼は記憶力が良いくせに自分に関係ないと思い込んだ事に関しては全くというほど記憶しないのだ。
「神崎と名乗って、夏子さんの縁者かと問うたと思います。」
「ああ、苗字しか聞いていないな。」
「……どうせ、忘れてしまうのなら苗字だけで十分です。」
和希は自分の名を名乗ってしまったら彼が壊れてしまうような気がして仕方がなかった。
そして、それは決して彼女の思い過ごしではないだろう。
「……神崎。」
「何ですか?」
「……何でお前はあそこにいた?」
冬牙の言葉に和希は目を瞑り、言い訳を述べる。
「夏子さんに頼まれましたので。」
「何を?」
「心配な人がいるからその人を一目でいいから見てくれと。」
「……余計な事を。」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる冬牙に和希は顔を顰める。
「もう、何なのよ後ろで暗いオーラを出さないでよね。」
「あっ、すみません。」
「怒っている訳じゃないのよ、でも、同棲する二人がそんな空気を纏っているとね。」
「……。」
「やっぱり、早まったかしら。」
早まったどころの話じゃない、と和希は叫びたかったが、そんな気力を失うほど彼女は疲弊していた。
「ま、どうにかなるわね。」
「……。」
元姉はどこまでもマイペースというか、自分勝手なのだと和希は懐かしく思いながらも、せめてそこは変わって欲しかったと切実に思った。
「本当に昔から変わってないな。」
「あら、人は変わる生き物よ。」
「あんたは変わってないからな。」
和希だけではなく冬牙までも夏子に思うものがあるのかそう言うのだが、暖簾に腕押しという感じで彼女には効果がない。
「さーて、もうすぐ着くわよ。」
「本当に話を聞かないな。」
少し切れかかっている冬牙に和希は彼の髪を撫でようと手を伸ばしかけるが、寸前の所で手が止まった。
「どうした?」
「あ、髪にゴミが…。」
誤魔化す和希だったが、どこか訝しむ冬牙の視線に顔を引きつらせる事しか出来なかった。




