不運な青年
取り敢えず、和希たちは商品を受け取る。
その間、紅葉の所為で店の方は大変な目に遭った。
詩音は窓口から外され、奥へと引っ込んだ。
「大丈夫でしょうか。」
「何がだ…。」
「叶谷さんですよ。」
「大丈夫だろう。」
「……。」
完全に他人のことなど考えていない冬牙に和希は呆れる。
「冬牙さん、ちゃんと考えてください。」
「……。」
そっぽを向く冬牙に和希はため息を零す。
「紅葉ちゃんも、紅葉ちゃんですよ、何であんな事を言ったの?」
「……だって。」
不満げに唇を尖らせる紅葉に和希は頭を抱える。
「絶対にお店の方にも迷惑をかけたよね…。」
「……。」
「……。」
「幸いにも警察沙汰にはならなかったけど、それでも、今の時代SNSとか怖いらしいわね。」
和希はSNSをやっていないからあまり詳しくないけれども、それでも、ネットとかにさらされたらどうなるかなんて分かる。
「私たちは簡単に人の人生を狂わせる事が出来るんだよ。」
「……。」
「私は自分の友達が知り合いの人生を狂わせるところなんて見たくないな。」
「気を付ける。」
「………。」
和希は何か言いたげな顔をするが、それでも、自分の中でその言葉が見つからなかったのか、口を一文字にする。
「おい、飯持って行かなくてもいいのか?」
「……。」
ここでそれを言ってくる冬牙に和希は胡乱な目つきで彼を見る。
「冬牙さん状況分かっています?」
「ああ、分かっているが、こんな状況になっていると思っていない、あいつらが来る方が問題があると思うのだが?」
「……。」
冬牙に言われて確かにこの二人でこんな騒ぎが起こってしまったのだ、もし、全員もしくは和希の中で問題児に当たる人が来ればどうなるのか想像もしたくもなかった。
「取り敢えず、お前があいつらの元に行ったらどうだ?」
「で、でも…。」
和希は冬牙と紅葉を交互に見る。
この二人を残るのは問題があるように思う。
かといってどちらか二人を戻すのも不安だった。
和希が悶々と考えていると、冬牙はため息を一つ零す。
「こっちは任せとけ。」
「……。」
「お前な…、俺をいったい幾つだと思っているんだ?」
冬牙は呆れながら和希を見る。
和希は冬牙の問いかけに二、三度瞬きをして、彼が成人している事を思い出す。
「成人していますね。」
「その顔、すっかり忘れていたという顔だな。」
「えっと、そうですね…。」
冬牙の睨みに和希は苦笑いを浮かべる。
「…ある程度のトラブルくらい解決できる。」
「……。」
和希は冬牙を上から下までじっと見る。
確かにこの冬牙が平穏で過ごせるとは思えない。
だったら、彼が言うようにトラブル解決は慣れているのかもしれない。
「……絶対に穏便にすませてくださいね。」
「分かっている。」
「……。」
和希はじっと彼を見て、そして、この後どうするか決める。
「私は皆さんの所に行きますけど、絶対にもめ事を大きくしないで下さいね。」
「分かっている。」
「……。」
本当に分かっているのかと和希は疑いを持つが、それでも、彼に任せると決めたのは自分だと無理やり納得して荷物を持つ。
詩音が気を利かせて一人でも持てるようにビニール袋に入れたお陰で少し重たいがそれでも、和希一人でも持つことが出来た。
「それじゃ、行きますけど、くれぐれも、よろしくお願いします。」
「分かっている。」
和希はまだ何か言いたかったが、それを振り払うように彼女は急ぎ足で夏子たちの元に急いだ。
「…………………………………何を考えている。」
和希が立ち去った後冷ややかな声が冬牙に切り込む。
「普通に喋れるじゃねぇか。」
「ああ、喋れるに決まっているだろう。」
普段は単語、単語でしか喋らない紅葉の口からすらすらとぶっきらぼうな口調で紡がれる。
「それよりも、答えないのか。」
「別に何も考えていないさ。」
「……。」
ジトリと紅葉が冬牙を睨む。
「ありえない。」
「どうあり得ないんだ。」
「和希ちゃんをどうするつもりなんだ。」
「それよりも、お前こそ、あいつ、叶谷をどうするつもりだったんだ?」
「……。」
紅葉は冬牙の問いに唇を噛む。
「本気であいつをストーカーとは思っていなかっただろう。」
「…………苦手なんだ。」
「はあ?」
「真っすぐに見てくる目、あの目に見つめられると、なんか、凄く何かがこみ上げてきて、その……心に思っていない言葉とか言いそうになるんだ。」
「……言いそうじゃなく、言っているだろうが。」
「それに逃げ出したくなるし、本当に何なんだ、これは…。」
顔を真っ赤にしている紅葉に冬牙は何とも言えない気持ちになった。
「お前、それ本気で分かっていないのか?」
「何がだ。」
表情とか態度で思いっきり出ているのにそれを理解していない紅葉に冬牙は頭抱えたくなる。
「拗らせやがって。」
「何か言ったか?」
「はぁ、さっさと自覚しやがれ。」
「だから、何がだ。」
冬牙は紅葉の口調の所為なのかまるで同性と話すように気安く話していた。
「あいつは無事についただろうか。」
「おい、お前一人で納得せずに教えろ。」
「ヤダね、つーか、鏡見ろ、そして、分かれ。」
「何だそれは。」
冬牙は盛大なため息を零して天を仰いだ。
無自覚なそれに巻き込まれた冬牙はそれを向けれる相手を心底不憫に思うのだった。




