ストーカーじゃないからっ!
「みなさーんお昼どうします?」
「海の家があるからそこで食べれば?」
「人数多いから持ち帰りの物の方がいいじゃねぇ?」
「うち、焼きそば。」
「フランクフルト。」
「何人くらいで行けばいいかな?
「三人くらいで買い出しでいいんじゃない?」
「さんせー。」
口々に自分の考えを述べていく。
そして、和希は手を上げる。
「私買い出しに行きますね。」
「いやいやいや、和希ちゃんはいつも働きすぎや。」
「えっ、でも…。」
「そうよ、三人だったらそこの人たちがちょうどいいじゃないかしら?」
桂子はそう言うと流し目で男性陣を見る。
「おい。」
「逆らうな、少年よ。」
「……。」
文句を言いたげな空也。
首を振って悟りを開いているような目をする千時。
そんな二人とは違い、冬牙はいつも通り自分は関係ないというような態度でいた。
「でも、この三人だったらまた逆ナンに合うんじゃないかしら?」
麗良の指摘に全員が黙り込む。
黙っていればイケメンな三人。
そんな三人に肉食な女子は黙っているだろうか?
いないだろう。
「それはいややな。」
「そうね、先生はどうでもいいですけどね。」
「どうでもいい。」
「もう、面倒ね、じゃんけんで決めましょう。」
「それがいいわね。」
「そうしましょうか。」
夏子の言葉に全員が賛成をする。
多分、このまま話していても進まないのが分かっていたからだ。
「じゃんけん、ぽん。」
「……。」
「……相子ですね。」
「人数多いからな。」
「えっと、それじゃ、男性一人、女性二人でいいじゃないですか?」
「いや、女性陣と男性陣で負けたやつでいいじゃねぇ、もし、人数が多かったら、そこからまた、じゃんけんをすればいいし。」
「そうするか。」
こうして、男性、女性に分かれてじゃんけんをする。
「じゃんけん…ぽん。」
「あっ…。」
「……。」
男性陣は一発で決まる。
一方、女性陣は、数度の相子が続き、ようやく、決まる。
「よろしくお願いしますね。」
「……。」
「……。」
結果、女性陣は和希、紅葉。
男性陣は冬牙だった。
「和希ちゃん、大丈夫なん?」
「うん、大丈夫だよ。」
瑛瑠の言葉に和希は苦笑しながら頷く。
「それじゃ、行ってきます。」
「もしなんかあったら、連絡してな。」
「うん、そうだね。」
できれば何もなければいいんだが、冬牙を一方的に敵視している紅葉の所為で、流石の和希も大丈夫とは言い切れなかった。
どこか不安を感じるが、それでも、和希は二人を引き連れて歩き出す。
先頭に和希、二、三歩離れて並んで睨みあいながら歩き出す紅葉と冬牙、不穏な空気のお陰で、彼女たちに近づく勇者はいなかった。
そして、何事もなく海の家にたどり着く。
繁盛しているようで、短い列が出来ている、その光景に和希はポツリと呟く。
「中で食べない選択でよかった。」
「ん。」
「それに、大勢じゃなくてよかったな。」
「そうですね。」
和希の言葉に二人は頷き、冬牙はさらに自分の意見を口にする。
そして、三人は周りからの視線を感じながらも、何事もなく進んでいく。
「大変お待たせしました、ご注文は――。」
聞き覚えのある優しい声に和希は始め何も感じていなかったが、相手はそうじゃなかった。
「日向、それに、東雲さんとそのお友だちさん。」
「えっと……。」
名前を教えてもらったはずなのに、和希は思い出すのに時間を要する。
因みに残りの二人は思い出す努力をする事しない。
冬牙は無関心で、注文を言う。
「焼きそば、三つ、フランクフルト三本、かき氷――。」
「ちょっとお待ちください。」
冬牙の注文に一瞬固まっていた詩音はハッとなり、メモを取り始める。
そして、和希はようやく、詩音の名前を思い出す。
「叶谷さん、でしたよね?」
「はい、お久しぶりですね。」
詩音は冬牙の注文をメモを取りながら、和希に微苦笑を向ける。
「それにして、日向たちと旅行――。」
「ストーカー…。」
詩音が和希に世間話をしようとしたとたん、紅葉の言葉から不穏な言葉が漏れる。
「えっ?」
「……。」
「えっ。」
「まさか、あの店員さん。」
紅葉の不穏な言葉は瞬く間に広がり詩音に視線が集まる。
「ち、違いますっ!というか、東雲さんストーカー行為に遭っているんですか、師範とかに相談しないとっ!」
「怪しい。」
「僕がですか、僕はバイトです、本当に、バイトなんです、というか、東雲さんがここに居るのなんて本当に知りませんから。」
「……和希ちゃん、ストーカー…違う?」
「違います、というか、そちらの人は日向の彼女さんですよねっ!」
「えっ!」
「……。」
「……。」
詩音の爆弾発言に和希は顔を真っ赤にして固まる。
そして、残る二人は黙り込むがその表情は違った。
冬牙は何を考えているのか分からない無。
紅葉は苛立ったような顔。
テンパっている詩音はその事に気づくことなく、真っ赤な顔で叫ぶ。
「それに、僕のタイプは君みたいなクールな女性ですからっ!」
「……そっ。」
「絶対に、ストーカーなんてしません、あんな恐ろしい行為誰が他の人にも出来るんですかっ!」
その叫びは切実で、和希はもしかしたら、彼自身もストーカー行為に遭っていたのではないかと考えてしまう。
そして、それは周りも同じだったのか、詩音に同情の目を向けている。
「なら、いい。」
あっさりと紅葉は引き下がり、長い髪をなびかせ、商品の受け取り口に向かう。
「…………何なんだ…。」
目を白黒させる詩音に和希は不憫に思いながらも、何も言う事が出来なかった。




