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前世の俺は攻略キャラだったらしい  作者: 弥生 桜香


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冷えたお茶

「ずるーいっ!」

「あっ…。」


 買い出しのメンバーに冷たいお茶をふるまっていると夏子の非難の声が上がった。


「ずるーい。」

「……。」


 夏子はジトリと全員を睨む。

 他の人たちは気まずそうに夏子から目を逸らす。


「夏子さん、桂子ちゃん、上はどうだった?」


 和希は何でもないようにそう言うが、内心ではちょっと不味かったと内心冷や汗をかいていた。


「終わったわ。」

「ええ、ちゃんとやったわよ、十年分くらいの家事をしたわ。」

「十年……。」

「今後もする気はねぇのか。」


 夏子の言葉に和希と冬牙は呆れてしまっている。


「いいのよ、あの人だってそれを分かって結婚したわけだし。」

「……不憫な…。」

「よくもまあこんな奴を嫁にもらおうと思ったんだろうな…蓼食う虫も好き好き、とは言ったものだが。」

「ちょっと、そこの二人聞こえているわよ。」

「聞こえるように言っておりますので。」

「だな。」


 堂々と言い張る二人に夏子は眉を吊り上げる。


「本当に二人ともいい性格をしているわね。」

「そうでしょうか?」

「てめぇには負ける。」

「その辺にしときましょうよ、和希ちゃんお茶は冷蔵庫かしら?」


 このままでは収拾がつかないと思ったのか桂子が三人の間に割り込んだ。

 因みに他のメンバーはこの三人の間に割り込む勇気がなかった。


「ええ、冷蔵庫よ、ちょっと待ってね、用意をするね。」


 和希は立ち上がりそのまま台所に向かう。

 グラスを二つ用意し、麗良たちが買ってきてくれた市販の氷を入れ、同じく買ってきてくれたペットボトルのお茶を注ぐ。

 麦茶も沸かしているが、少し前にやり始めたばかりなので和希としてはもう少し置いてから他の人に飲ませたかった。


「お待たせ。」


 和希は二人にお茶を渡し、先ほど座っていた場所に座る。


「ぷはー、生き返るわ。」

「おっさん臭いな。」

「ああ?」


 冬牙の余計な一言に夏子はどすの効いた低い声を出す。


「こんなお姉さんを捕まえておいておっさん?」

「自分でもおばさんの自覚があるのによくもまあ、そんな事を言えるな。」

「自分で言うのと他人に言われるのは全く違うのよ。クソガキ。」

「誰がクソガキだ、おばさん。」

「……。」

「……。」


 睨みあう二人に和希は静かにため息を零す。


「男性陣が泊るところは掃除しなくていいんですか?」

「あー、どうなんだ?」

「……。」


 和希の言葉に千時は頭を掻き、空也は無言で持ち主を見ている。


「平気だ、しっかりと業者に頼んだからな。」

「そっちがそれでいいのならいいんだけど。」

「別に構わないだろう。」

「まあ、そうだね。」


 自分たちは好きでやっているのだし、向こうは向こうでやるのだから気にしたら負けだろと和希は思う事にした。


「朝食はどうする?」

「あー…。」


 冬牙は和希の問いかけで初めて朝食もこっちで食べれるものだと思っていたが、それが当たり前でなかった事に気づかされた。


「その反応はこっちで食べる気だったのね。」

「……悪い。」

「別にいいんだけど、何となくそんな気がしてたし。」


 和希は苦笑しながら明日の食事を考える。


「うーん、面倒だから市販の食パンに卵料理、サラダにスープでいいかな?」

「いやいや十分すぎるだろう。」

「ん、パン、だけ、十分。」

「でもちゃんと食べないと。」

「本当に神崎は母親の鑑だよな。」

「私未婚なんですけど。」

「なら嫁の鑑?」

「ですから結婚してませんって。」


 千時の言葉にあきれ果てるが、外野の空気は少し違った。


「ちぃ兄。」

「殺。」

「先生~。」

「げっ…。」


 顔色がまだよくない瑛瑠。

 殺気を放つ紅葉。

 間延びした声を出しながら笑顔で千時の肩に触れる桂子。


「和希ちゃんがええ嫁さんになるのは当然やけど。」

「妄想、ダメ。」

「一体誰を想像したのかしらね?」

「ちょっと待てからかっただけだぞ、具体的な相手なんて考えていない。」

「ほんまに?」

「嘘、ダメ。」

「一瞬でもよぎったんじゃないですか?」

「全く、全然、一寸もないっ!」

「うちらの前で和希ちゃんのそのネタはあかんよ?」

「殺す。」

「そうですよ、どうなっても知りませんからね?」

「ああ、今ので十分理解したよ。」


 千時はぐったりとしながら妹とその友人たちを力なく見る。


「本当にお前らは……。」

「なーんやの?」

「ん?」

「何ですか?」

「何でもない。」


 これ以上何か言ったら確実に消されると思った千時はようやくここで口を閉ざした。


「そろそろ夕食の準備を始めるんだけど。」

「あー、外でバーベキューコンロとか出すとするか。」

「どこにあるんだ?」

「外の物置に仕舞っています。」

「どっち側だ?」

「紅葉ちゃん、教えてあげてくれる?」

「ん。」


 男性陣と紅葉は外の準備に出かけ、和希は残ったメンバーを見る。


「えっと、桂子ちゃんは私と一緒に野菜とかを切ってほしいかな。

 麗良さんと瑛瑠ちゃんは飲み物を準備して。

 で…夏子さんはお疲れだと思うのでゆっくりとくつろいでください。」


 和希は夏子がこれ以上手伝いたくない事を理解していたので役目を与えず、自由にしていていいと言った。


「分かったわ。」

「りょーかい。」

「オッケー。」

「悪いわね。」


 夏子は遠慮なくソファの上でくつろぎ始め、和希はこぼれそうになるため息を押し殺して自分のすべき事を始める。

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