疑惑
満腹でうとうとし始めていたら、ガクッとして和希は覚醒する。
「…………うぅ…寝てた?」
小さなうめき声を上げて和希は目元を押さえる。
「和希ちゃん、まだ寝てて大丈夫よ。」
静かな声に和希は苦笑しながら首を横に振った。
「大丈夫。」
「他の二人も寝ているわよ。」
和希は周りを見渡すと確かに夏子も紅葉もその目を閉ざしていた。
「桂子ちゃんは寝てなくて大丈夫なの?」
「今のうちにイベントを進めておかないと。」
そう言うと彼女はゲーム機と携帯などを複数出して同時に操っていた。
「本当に好きだね。」
「ええ、これも好きだけど皆といる時間が大切だからそっちが優先よ。」
「ねぇ、桂子ちゃん。」
「何かしら?」
「…………最近何か隠してない?」
「何の事かしら?」
本当に分からないのか、白を切っているのか分からない表情を浮かべる桂子に和希は探りを入れるような鋭い視線を向ける。
「……誤魔化さないで。」
「……。」
「前々から気づいていたけれども、皆誤魔化しているし気づかないふりをした方がいいな、と思っていたけど最近は夏子さんも巻き込んでいるよね?」
「……。」
「本当に気づいていないと思った?」
「気づいてなくはないとは思っていたわ。」
「うん。」
「でも、何故今なの?」
桂子は携帯機から顔を上げ、その凪いだ瞳で和希を見つめる。
「もっと時期を見るべきかな、とは思っていたの、でも最近色々とイレギュラーな事が起こるし、それに、今日のあの害虫と口にした時の殺気、本気だったよね?」
「……。」
「桂子ちゃん。」
「和希ちゃんが心配するような事は全くないわ。」
「嘘。」
「……。」
「私の携帯を見た時コレ入れたよね?」
「……。」
和希は自分の携帯を出しあるアプリを指す。
「盗聴とかのアプリだよね?」
「少し違うけれどもおおむねそんなアプリね。」
「普通だったら警察に連絡されても可笑しくないよ。」
「ええ、そうね。」
「……これ消させてもらうからね。」
和希は桂子の目の前でそのアプリを消す。
「どうして見つかったのかしら?」
「お昼を食べ終わった後冬牙さんがSMSの方に自分の登録してないからって言われて、私じゃ分からないからやってもらってた時に見つけたの。」
「ふーん。」
桂子は冷めた目で運転している冬牙を睨んだ。
「冬牙さん自身も色んな面倒ごとに巻き込まれてそう言ったものには敏感になっているみたいで、警察に言うかまで言っていたから早めに解決しないとまずいと思っているの。」
「…それが本題だったのね。」
「原因が何か何となく分かっていたからそれをどうにか出来たらよかったのだけど…、桂子ちゃんも頑固なんだもの。」
「……。」
「冬牙さん、桂子ちゃんも悪気がなかったんだから警察に連絡をするのは止めてくださいね。」
「今回はな。」
大人しく話を聞いていた冬牙は運転中だったので流石に前を見ていたが、ガラス越しで桂子を睨んでいた。
「お前はもっと人を疑え。」
「同意しますが、それは和希ちゃんの長所でもあるので貴方がとやかく言えるものではないと思うますけど?」
「お前もな。」
バチバチと火花を散らせる二人に和希は顔を引きつらせる。
「ちょっと二人ともやめて。」
「……。」
「……。」
何故か桂子と冬牙は互いに視線を交わしため息を吐く。
「こんなんだから変なのに好かれるんだろうな。」
「……和希ちゃんの長所……でも短所なのよね。」
二人はそれぞれの言葉を口にし、互いの言葉を耳にして深く息を吐く。
「二人とも私を貶しているの?」
「貶してはない。」
「ええ、だけど、褒めてもいないわね。」
「……。」
和希はこの二人は仲が悪いのか、それとも良いのか分からなくなってしまう。
ただ、分かるのは絶対にこの二人は自分を遠回しで貶している事だけは分かった。
「もういっその事二人とも訴えた方がいいかな。」
和希は半眼になりながらそんな物騒な事を考える。
「ああ、後五分くらいで着きそうだ。」
「夏子さんを起こしますね。」
「……紅葉ちゃんを起こすね。」
色々と和希は文句を言いたかったがそれを彼女は飲み込む。
「この旅行が終わったら覚悟してよね、二人とも。」
和希は二人に聞こえないほど小さな低い声でポツリと呟く。
言われた二人は同時に悪寒を感じたがその原因が和希であった事には気づくことはなかった。




