ババ抜き
和希の横には紅葉、後ろの座席には桂子、夏子がいた。
手札は紅葉は七枚。
桂子は五枚。
夏子は四枚だった。
「最初は和希ちゃんか、紅葉ちゃんだけど和希ちゃんから始めた方がよさそうね。」
「うんそうだね、それじゃ、引かせてもらうわ。」
和希はそう言うと紅葉の手札から一枚カードを引く。
引いたカードはハートのクイーンで、手札にはダイヤのクイーンがあったので、それをそろえて捨てる。
「ん。」
紅葉は桂子の札から一枚カードを抜き、若干顔を顰め、手札に加える。
桂子は苦笑しながら夏子の手札から一枚抜くとハートとダイヤの十を捨てた。
「あら、順調に捨てているわね。」
夏子はそう言いながら和希の手札から一枚抜くが、揃わなかったのかそのまま自分の手札に入れる。
そして、和希はまた自分の順番が回ってきたので一枚抜く。
「あっ、また揃った。」
和希は引いたスペードの四と自分のハートの四を捨てる。
「紅葉ちゃんが一番多くなったわね。」
「……。」
桂子の指摘にますます紅葉の顔が無表情に近づく。
残念なことにまた揃わなかったのか紅葉は手札を加える。
そして、桂子、夏子も引くが揃うことなく和希の順番が回ってくる。
因みにこの時点で和希の手元からジョーカーは動いていない。
和希は他の人の顔色をうかがう必要がないので気楽にカードを引く。
そして、クロバーの九とハートの九を捨てる。
「和希ちゃん早いわね。」
「ええ、和希ちゃんと紅葉ちゃんが多かったのにね。」
「……。」
紅葉は面白くなさそうに口を一の字にして桂子からカードを引くとようやくそろったのかハートとクロバーの六が捨てられる。
桂子と夏子は揃う事なく自分の順番を終える。
和希は残ったジョーカーを見ながら夏子の運の良さに何とも言えなく思う。
「和希ちゃん次引けば上がるんじゃない?」
「うーん、難しいと思うよ?」
桂子の言葉に残っているのはジョーカーだしね、と思いながら一枚カードを引く。
「ほらね。」
そう言いながら和希は肩を竦める。
そして、次の紅葉はハートとスペードの五を捨てる。
「なかなかね。」
桂子は夏子からカードを引き、微苦笑を浮かべる。
そして、夏子はスッと和希の手札からジョーカーを引き抜いた。
流石夏子表情に出る事はなかった。
そして、枚数が少なくなっているので揃うのが難しいのか和希、紅葉、桂子はそろえる事無く順を終えようやく夏子かスペードとクロバーの十を捨てる。
和希は紅葉から手札を引くが揃わず、紅葉はハートとダイヤの八を捨てる。
ここで紅葉の一番抜けが確定した。
和希たちはそのままカードを引くが揃うことなく、紅葉の最後の一枚を和希が引いたことで紅葉が上がった。
「まさか、紅葉ちゃんが一番なんて。」
「てっきり和希ちゃんが一番だと思ったのに。」
「こんなものよ。」
和希が肩を竦めた事でゲームは再開する。
「えっと和希ちゃんが引いたから夏子さんのを引けばいいのね。」
その言葉でゲームは再開される。
一周するが誰もカードを捨てる事無く二巡目でようやく桂子がダイヤとスペードのジャックを捨てる。
そして、夏子は和希の手札から一枚抜き、ダイヤとクロバーを捨てて二番抜けする。
「あがり。」
「……。」
「……。」
妖艶に微笑む夏子に和希と桂子は何とも言えない顔をする。
残っている手札を見れば誰がジョーカーを持っているのか一目瞭然だった。
和希はジッとカードを見て桂子を見るが桂子は表情を一切変えない。
諦めて和希は自分から見て右のカードを引く。
それはジョーカーではなくハートのキングで手札のダイヤのキングと一緒に捨てる。
「……。」
「……。」
「……。」
桂子は顔を引きつらせて自分をあざ笑うジョーカーを睨んでいた。
「えっと、桂子ちゃん大丈夫?」
「ええ、勿論よ。」
和希は笑っていない目とわなわなと震えている唇を見て天を仰ぐ。
「サービスエリアが近いから休憩するぞ。」
「あっ、はい。」
運転する冬牙の言葉に和希は空気が少し変わり、ホッとする。




