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「さてと、久しぶりね。」
「はい、お久しぶりです。」
「ん。」
「……。」
呑気に挨拶を交わす面々に和希は半眼で夏子を睨んでいた。
「あら、どうしたのかしら?」
「……夏子さん、何でお母さんにアレを渡したんですか?」
「アレ?」
和希の言いたい意味が分からないのか、夏子は首を傾げる。
「この前のアレですよっ!」
「……。」
夏子は額に指を当て考えるが、全く理解していないのか首を捻るばかりだった。
そして、このやり取りを見ていた桂子が状況を把握し、それにたどり着く。
「ああ、この前のウェディングのカタログの見本の事ね。」
「……。」
和希としてはあの忌々しいモノの名前を上げたくなかったので、口をまっすぐに堅く閉じている。
「あら、送ってからだいぶと経つのに今更?」
「……。」
「…………ああ、なるほど。」
夏子は不思議そうにしていたが、和希がつい最近実家に帰りその存在を知ったのだと悟った。
「夏希、喜んでいたのにどうしたのよ?」
「……お母さん、母には見られたくなかったんです。」
「そうなの?」
「そうですよ、いい年した娘が仮装している姿を実の母たちにさらすなんて何の罰ゲームですか。」
「あらあら。」
和希はあの時の羞恥心を思い出したのか、その場にうつ伏した。
「……………懐かしいわね。」
「何がですか。」
どこかさみし気な音を潜ます声音だったが、拗ねている和希はその事に気づかずに突っかかってしまう。
「その反応弟にそっくりだわ。」
夏子の言葉に和希は一瞬息を詰まらせる。
だけど、夏子の事情を知らない二人は和希のその反応の理由が分からず、夏子に弟がいるなんて知らなかったので、話を続けてしまう。
「夏子さんに弟さんなんていたんですか?」
「ええ、生きていれば、瑛瑠ちゃんのお姉さんたちと年が近かったでしょうね。」
「……。」
「えっ、生きていたらって、もしかして。」
「ええ、貴女たちくらいの時に亡くなったわ。」
「……。」
「……。」
桂子は自分が話題の振り方を間違えてしまった事にショックを覚える。
「あら、やってしまったわね。」
気まずそうそうな空気に気づいた夏子は苦笑いを浮かべる。
「ごめんなさいね。」
「い、いえ。」
「ん…。」
「すみません、私が突っかからなければ、空気を悪くせずに済んだのに。」
和希は切っ掛けを作ってしまったのが完全に自分だと気づき、深く後悔する。
「いいの、いいの、もう、しんみりしちゃだめね、目的地まで時間がある事だし、ゲームでもしましょうか。」
そう言うと夏子は自分の鞄からトランプを取り出した。
「最初はババ抜きでもしましょうか。」
「いいですよ。」
「ん。」
「あっ、私がカードをきります。」
和希は夏子がカードをシャッフルするのがとんでもなく下手な事を知っているので、自分から申し出る。
「よろしくお願いするわね。」
「はい。」
和希は慣れた手つきでカードをシャッフルし、そして、配っていく。
「カードの多い人から時計回りでいいですか?」
「いいわよ。」
「ん。」
「了解。」
和希は自分の手札を見て揃ったカードを脇に避ける。
そして、残ったカードを見て残七枚でジョーカーはその中に入っていた。
和希はそれを見て微苦笑を浮かべるが、運のいい事に誰にもその事には気づかれなかった。
そして、静かにゲームが始まった。




