変わった自分、変わらない彼
とうとう来てしまった、この時間が。
和希はそう思いながらもたもたと今日出された宿題に必要なノートや教科書だけを鞄に詰め込む。
「和希ちゃん、帰ろ。」
「ごめん、今日ね、寄る所があるから……。」
せっかく声を掛けてくれた紅葉に和希は苦笑しながらそう言った。
「寄る、所?」
「うん、ちょっと頼まれて。」
「ついていく。」
紅葉の言葉に和希はゆっくりと首を横に振る。
「ごめんね、この件は私一人で行かないといけないの。」
「そうなの?」
「うん、心配してくれてありがとう。」
「……分かった。」
「また、明日ね。」
「うん、明日。」
笑顔で別れる二人だったが、片方の心中は嵐が吹き荒れているなんて誰も分かっていなかっただろう。
和希はまるで戦場にでも向かうような面持ちで一歩、一歩、かつて歩いた道を歩む。
そして、とうとう、彼の人を庇った場所までたどり着く。
「ここ…。」
和希は枯れた花束を見つけ、それをただ見下ろす。
もっと、感情が吹き荒れると思っていた。
痛みを思い出すと思った。
だけど、現実はそんなものはなかった。
ただ、ああ、ここで一輝は死んだんだな、と他人事のように思う事しかなかった。
「……。」
和希はただ呆然と立っていたが、ふっと彼女の耳に砂利を踏む音が聞こえ、振り返ると見知らぬ、否、幼い時の面影を僅かに残した彼がいた。
クオーターでその銀色の髪と氷のような蒼の瞳を嫌っていた彼は大人のような顔つきをして現れた。
「……。」
二人の視線は交わる事はない、和希は彼を見つめるが、彼はまるで世界を切り離したかのように枯れた花しか見ていない。
そして、和希は納得する、確かにこれでは夏子が心配しても当然だと。
それ程までに彼の中身は成長していない。
一途な彼は未だに「一輝」を求めている。
生きているはずなのに、彼は死んでいるようにしか見えない。
もっと早くに会いに来ればよかったのだろうか?
否、そんな事をしても「和希」は「一輝」ではないので意味がない。
過去の幻影を見せたところで彼は「一輝」という幻にさらに囚われてしまうのだから。
彼は和希を無視して枯れた花と新たに持ってきた花を入れ替え、両手を合わせる。
長いようで短い時間、和希はそれを見つめ、そして、彼が立ち上がろうとした瞬間、彼の大きな体が傾ぐ。
「冬牙っ!」
慌てて両手を広げ、抱きしめようとするが、和希は今か弱い女性でしかないので、彼をしっかりと抱き留める事は出来なかった。
「嘘…軽い。」
和希は抱き留めた彼の重さに驚きを隠せないでいた、確かに彼女が抱き留めるにしては重かったが、標準の重さで言えば前世の自分よりもかなり軽かった。
和希は青白い顔をしている彼を見下ろし、唇を噛む。
「この馬鹿。」




