後ろ髪を引かれる
和希と冬牙は特に問題を起こす事もなく、又、起こる事もなく一泊し、自分たちの家に帰る為に、玄関に立っている。
「もう一泊くらいしてもいいのよ。」
「準備とかあるから、帰るね。」
「……。」
和希の言葉に夏希は少し寂しそうな顔をする。
「お母さん?」
母の表情に気づいた和希は小首を傾げる。
「何でもないわ。」
「本当に?」
どこか無理をしているのではないのかとジッと母を見る。
「本当に何でもないのよ。」
「……無理はしないでね?」
「大丈夫よ、かずちゃんじゃあるまいし。」
「私だって無理なんてしてないよ。」
「あら、そうかしら?」
少し咎めるように見てくる母に和希は居心地悪そうに体を揺する。
「……もう、今は私じゃなくて、お母さんでしょ?」
「あら、逃げたわね。」
「逃げてない、本当に、お母さん大丈夫なの?」
「ええ、勿論よ。」
「……。」
完全に否定する母に和希はこれ以上言っても無駄だと悟り、肩を竦める。
「信じるけど、もし、何かあったら言ってね。」
「ええ、勿論よ。でも、わたしよりも、かずちゃんの方が心配ね。」
「……俺が見ますんで。」
ずっと黙り込んでいた冬牙が口を開くがその言葉を聞き、二人の親子は複雑そうな顔をする。
「冬牙さんが言うと説得力が。」
「生活面では申し訳ないけれども……ねぇ。」
「……。」
二人の言葉を聞き、冬牙は何とも言えない顔をする。
「まあ、この子が倒れたら呼んで頂戴、これがわたしの携帯番号だから。」
そう言うと夏希は自分の携帯番号を書いた紙を冬牙に手渡す。
「ありがとうございます。」
「二人とも、たまには家に来なさいよね。」
「はい。」
「うん。」
二人は仲良く自分たちの家に帰っていく。
その背中を見送りながら、夏希はその姿が小さくなるまで手を振って見送る。
「………………あの子の帰る家はいつの間にかあっちになったのね。」
我が子の無意識の言葉に夏希は何処か寂しそうな顔をする。
「いつかあの子にも違う帰る場所が出来るのは分かっていたけれども、まさかこんなに早くに見つけてしまうなんてね…。」
我が子の巣立ちに夏希は寂しさを半分、嬉しさをその半分、残りは複雑さを混ぜた顔をして幼かったあの頃を思い出す。




