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前世の俺は攻略キャラだったらしい  作者: 弥生 桜香


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幕間・親の心子知らず

「さて、適当に座ってくれ。」

「……。」


 冬牙はそう言われ、夕方まで自分が座っていた場所に座る。


「まずは自己紹介から始めようか。」

「……。」


 先ほどのピリピリした空気をなくした和希の父に冬牙は軽く目を見張る。


「怒るのはかなり体力を使うからね、あんまり向いていないんだよ。」


 冬牙の視線の問いに和希の父は苦笑して答える。


「神崎和哉かずや、和希の父親だ。」

「日向……冬牙。」

「冬牙くんと呼んでいいかな?」

「…………はい。」


 かなり視線が泳ぎまくってからの是の言葉に和哉は苦笑を漏らす。


「本当に嫌だったら、嫌と言ってくれていいんだよ。」

「……別に問題はないです。」

「……。」


 和哉は苦笑を深め、だけど、これ以上彼の機嫌を損ねたくはなかったので別の話題に切り替える。


「君の事は神咲さんから聞いているよ。」

「……。」

「君もなかなか辛い思いをしてきたのは同情する。」

「……。」


 和哉の言葉に冬牙の目がきつくなる。


「君は自分が不幸だと思っているのかな?」

「幸せなあんたに何が分かる。」

「おれは君じゃないから君の傷の痛みなんて分からない。

 だけど、君だっておれじゃないからおれの痛みなんて分からないだろう。」

「……。」

「おじさんの独り言に付き合ってもらおうかな。」


 和哉はそう言うと虚空を見つめる。


「五歳ころだったかな、あれは…。


 今日みたいな暑い日の夜だった…。


 姉も両親も寝ていた、だけど、おれは夜中に急に目を覚まし、のどが渇いたので水を飲みに台所に向かった。


 そんな時、玄関のガラス戸を激しく叩く音がしたんだ。


 おれは何だか怖くなって二階に戻ろうとしたんだ、だけど、丁度降りてきた父親に部屋の物置部屋に閉じ込められた。


 はじめは何が何だか分からなかったさ。


 しばらくしたら、玄関からの物音は聞こえなくなった。


 シンと静まり返ったと思ったら、くぐもった父の声と、母の悲鳴が聞こえたんだ。


 もうそこからは何が何だか分からなかった。


 母親の悲鳴。


 姉の叫び声。


 そして、男の笑い声だけがおれの耳にこびりついた。


 気づいたらおれは警察に保護されていた。


 家族は全員何者かによって殺され、父親の手で物置部屋に放り込まれていた自分だけは助かった。


 そこからは親戚連中にたらいまわしの日々だった。


 早く大人になりたい、早く一人立ちしたい。


 そんな事を思っていた、中学生の時、夏希を見て眩しく思ったよ。


 同時に腹が立った、何で自分だけがこんな辛い目に遭っているのに、周りは能天気に笑っているんだろうって。


 だんだん憎々しく思った。


 だけど、夏希はそんなおれを見て何思ったのか付け回すようになったんだ。


 飯は食ったのか、ちゃんと寝ているのか、どこの高校に行くのか、将来何になりたいのか。


 うんざりするくらいついてきて、何度もあいつを傷つけるような言葉を吐いたのに、あいつはこう言ったんだ。


『いい加減、自分で自分を傷つけるのは止めたら?』ってさ。


 ブツリと切れたおれはあいつに今までの事を全部吐き出した。

 そしたらあいつ。


『何のために貴方のお父さんは貴方を助けたんだと思っているの?

  生きていて欲しいから助けたんだよね?

  今の貴方の姿を見て、貴方のお父さん喜ぶと思う?

  絶対に喜ばないと思うよ。わたしだったら全力で前を見ろって引っ叩いてしまうもん。

  だから、ごめんね。』


 そう謝ってあいつ本当に叩いたんだ、平手じゃなくグーで、お陰で口の中を切って、翌日にあいつの母親が真っ青な顔をして謝りに来ていたな。」


 まさかの和哉の過去を聞かされ、冬牙は何も言えなくなる。


「でも、あいつのお陰で自分は生きているんだって、この痛みは生きているから感じるんだって。

 中々前を見る事は出来なかったけれども、それでも、おれを助けてくれた親父が胸を張れるようにはちゃんと生きないといけないと思ったんだ。

 あいつとは高校は違ったけれども、大学はたまたま同じで、おれはびっくりしてたんだけど、あいつの方はすっかりと忘れてしまっていてな。

 猛烈に腹が立ったから色々とちょっかいを出していたら、自然と…ね。」


 急に気恥ずかしくなったのか和哉は顔を赤くした。


「因みに和希はおれの過去なんて知らない。」

「えっ?」

「和希には交通事故でと伝えている、もし殺人だと知って下手に動いたら困るからね。」

「もしかし、犯人って。」

「捕まっていないよ。」

「――っ!」

「正義感の強いあの子、それに周りの事を考えたら首を突っ込んでしまうかもしれないからね。」

「……。」

「君もこの事は内緒にしてくれないかな?」

「いいんですか、そんな大事な事を俺に話しても。」

「ああ、おれは話したいから、君に話した。

 ただ、それだけさ。」

「……。」

「和希は夏希によく似ているからね、ぶん殴られないように気を付けてくれよ。」

「……。」


 茶化すように和哉はそう言うが、その目は正反対の色を宿していた。


「……………あんたは前を見ろとか言わないのか?」

「おれ自身迷いに迷って色んな人に迷惑をかけてきたんだ。

 人に言えるほどの人間ではない。

 ただ、君の未来が少しでも明るいものになってほしいとは願っているけどね。」

「あんたもお人好しだな。」

「よく言われるよ。」


 和哉はそう言って冬牙の頭を撫でた。


「そうそう、大事な一人娘を傷つけたら幾ら、おれと似たような立場の君でも容赦はしないからね。」


 和哉は冬牙の耳元にぞっとするような冷たい声が突き刺さる。

 そのうえ、顔は笑っているのに、和哉のその目は決して笑っていなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何かの拍子に和希がお父さんの家族が殺されているのを知ったらと思うと…個人的には犯人捕まって欲しいけど世の中には知らないほうが幸せと言う事も有りますし、とにかく冬牙が覚醒するきっかけには…
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