父登場
「…あら、お帰りなさい。」
「…………お帰りなさい、お父さん。」
何となく生ぬるい返事に父親は微妙な顔をしている。
「暑かったでしょ、今日は冷やし中華よ。」
「ああ。」
「…えっと、ただいま?」
「ああ、お帰り和希、今日の買い物は………………って、誰だ?」
ようやく自分の家に冬牙がいる事に気づいた父親に和希はまさか連絡してないの、と夏希を思わず見た。
「あら、言ってなかったっけ?」
「夏希。」
「お母さん…。」
二つの視線が夏希を見るが、彼女は特に気にしていないのか、ニコニコと笑っているだけだった。
「こちら、和希が今お世話になっている日向さんよ。」
「日向です。」
夏希の言葉に続けて言うが、その動作は何処か気だるそうで、父親の額に青筋が浮かんでいる。
「……。」
和希は額に手を当てどうしたものかと悩む。
「……日向くんと言ったな。」
「はい。」
「少し話があるから来てくれ。」
「……。」
冬牙は一瞬戸惑いを見せるが、すぐに頷く。
「分かりました。」
「夏希、すまないが食事まで少しかかる。」
「ええ、構わないわ、ゆっくりね。」
「そこまで遅くなるつもりはない。」
「えっと…お父さん…。」
「大丈夫だ、こんな時間に追い出すつもりはないからな。」
嫌にいい笑みを浮かべる父親に和希は顔を引きつらせる。
和希としては少しでも父の怒りが収まればいいな、と思って声をかけたのだが、どうやら、和希が何を言っても無駄なようだった。
「…書斎ででも話そうか。」
「分かりました。」
父親の先導で彼らは二階の書斎に向かう。
ポツリと残された和希は心配そうに母を見る。
「お母さん、大丈夫だと思う?」
「大丈夫よ。」
嫌に自信満々で言う母親に和希は怪訝な顔をする。
「どうしてそう言い切れるの?」
「あの人も日向くんの話を聞いているから、少し同情はしているの。」
「……。」
「まあ、でも、一人娘を独り暮らしの飢えた狼の所に置くのは心底心配していたからまあ、殴るはしないと思うけど、胸倉を掴むくらいはするかもしれないわね。」
「なっ!」
夏希の言葉に和希は顔を青くして上を見る。
「かずちゃんは行っちゃだめよ、男と男の大事なお話なんだからね。」
「で、でも…。」
「かずちゃんはお風呂に入ってきなさい。」
「……。」
夏希の言葉に和希は戸惑いを隠せないでいたが――。
「かずちゃーん?」
夏なのに一気に冬の寒さを呼び込む笑みを浮かべる夏希に和希はビシリと固まりコクコクと頷く。
「いい子だからお風呂に入りましょうね。」
「わ、分かったっ!」
和希は慌てて自室に向かう。
「色々心配なのは分かるけど、過保護なのもよくないのよ、かずちゃん。
あの人はちゃんと大人なのだから子どもの貴女がそこまで心配する必要はないの。
まあ、そう言っても手を差し出してしまうのはかずちゃんの性格上無理なのは分かっているから、ひとまずはかずちゃんに無意識に甘えているあの人をどうにかできたらいいのだけど…。
わたしたちの言葉がとこまであの人の心に届く事やら。」
夏希はどこか心配そうに上を見上げるのだった。




