表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世の俺は攻略キャラだったらしい  作者: 弥生 桜香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

171/260

久しぶりの我が家

「ただいま。」


 和希は自分の家の玄関に立ち、懐かしさが彼女の中で広がる。

 ほんの少し自分の家から離れていただけなのにもう何年も帰ってきていない気がしてしまった。


「お帰りなさい。」


 いつもは家の中から聞こえる優しい声が後ろから聞こえる。

 一緒に出掛けたので当たり前のはずだけれども、それでも、和希は少しの違和感に苦笑する。


「かずちゃん、手を洗ったら二階の窓を開けてきてくれる?」

「はーい。」


 和希はさっさとサンダルを脱ぎ、洗面所に向かおうとして立ち止まる。


「冬牙さん、洗面所に案内しますね。」


 和希はくるりと体を返し、冬牙を見れば、彼はほんの少し戸惑ったような顔をして玄関に突っ立っていた。


「冬牙さん?」

「……お邪魔します。」


 まるで借りてきた猫のように大人しい彼に和希は首を傾げる。


「どうしたんですか?」

「……お前の匂いがすると思ってな。」

「えっ?」


 和希は思わず腕を上げ、自分の臭いをかぐ。


 汗の臭いがして和希は顔を顰める。


「すみません、汗臭かったですよね。」

「……。」


 和希の言葉に冬牙は分からないのか眉根を寄せた。


「えっ、私の臭いが汗臭いからじゃ?」

「違う、この家からお前の匂いがするなと思ってな。」

「えっ?」


 和希はくんと自分の家の臭いを嗅ぐが、冬牙の言っている意味が分からなかったのか、首を傾げるが、ふっとある記憶が思い当たる。


「ああ、確かに他の家に行けばその家の匂いがしますね。」


 和希の脳裏にはそれぞれの友人たちの顔が思い浮かぶ。

 紅葉の家は畳の匂いや線香の匂い。

 瑛瑠の臭いはフローラルの匂いが。

 桂子の家は柑橘系の匂い。

 それぞれどの家も彼女たちらしい匂いだったと和希はひとり納得する。


「臭いですか?」

「いや、いい匂いだ、俺は好きだな。」

「……。」


 真顔でまっすぐに見つめられ、和希は何となく気恥ずかしくなり、顔を背ける。

 絶対に顔が赤くなっている自信がある和希は少しでも顔の熱を払おうと顔に向かって手で風を送る。


「ふふふ、本当に二人は仲良しなのね。」


 夏希の声に和希はハッとなり、ここにまだ自分の母が居た事を思い出す。


「あっ、なっ、うっ。」

「かずちゃん、顔真っ赤ね。」

「暑かったから。」

「ふふふ、そうゆう事にしてあげるわ。」


 何でもお見通しというような顔をしている夏希に和希は居たたまれなくなり、冬牙を放置して洗面所に駆け出した。


「あらあら。」

「……。」


 後ろから突き刺さる視線に和希は気づいていたが、それ以上にこの場に居たくない和希はそれらの視線を振り払うしかなかった。

 そして、洗面所にたどり着いた彼女はバシャバシャと音を立てて顔を洗う。

 水を滴らしながら顔を上げると、鏡にはいまだに顔を真っ赤にさせた自分の顔がそこにあった。


「……あり得ない。」


 まさかここまで自分が動揺するなんて思っていなかった和希はずるずるとその場にしゃがみ込む。

 そんな和希の視界にふわりとした白いものが映る。


「あっ、タオル、ありが――。」


 てっきり母親だと思った和希はタオルを受け取り、顔を上げると、そこには冬牙がいた。


「えっ?」

「……。」

「……………。」

「………………。」

「…………………………にゃああああああああああああああああっ!」


 まだ心の準備が整っていなかったのにもかかわらず至近距離で冬牙の顔を見てしまった和希は勢いよく下がり壁に頭を打ち付けてしまう。

 かなり痛そうな音がその場に響く。


「大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫ですからっ!」


 そう言うと和希はタオルを冬牙に押し付けるようにして返す。


「わ、私二階の窓を開けてこないとっ!」


 そう言って和希は二階に駆け込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ