意気投合
和希と夏希は外で待っている冬牙と合流した。
外で気持ちを落ち着かせたのか、冬牙はいつもの無表情に戻っていたが、和希には感情を押し殺しているようにしか見えなかった。
チクリと胸を痛めつつも、和希はそれを表に出す事はしなかった。
「お待たせ。」
「……。」
何もなかったかのように夏希は冬牙に微笑みかける。
「……。」
「さて、和希ちゃんを着飾りましょうか?」
「へ?」
和希は夏希の言葉に目を見張る。
「ちょっと待って、私そろそろ料理器具を新調したいからって…。」
「ええ、それもあるわよ。」
「それもって…。」
「だって、素直に言ったら貴女近くのホームセンターとかで済まそうとか言いそうじゃない。」
「……。」
和希は夏希の言葉に図星を指されたのかスッと視線を母から逸らす。
「それにそろそろ服を新調しないといけないわよね?」
「この前買ったから。」
「……。」
和希の言葉に夏希は目を細めた。
「まーた、Tシャツとジーパンだけじゃないかしら?」
「ち、違うよっ!」
慌てて首を振る和希だったが、その行為が誤魔化しているように見えたのか夏希はさらに鋭い視線になった。
「証拠は?」
「えっ?」
「証拠は?」
「それは…ないけど…。」
「だったら、今日はお母さんと買い物しましょうね?」
「…と、冬牙さん何か言ってくださいっ!」
「何で俺が口を出す必要がある。」
「何でって、この前服を買ってくれたのは貴方じゃないですかっ!」
「と、うちの子が言っているけど?」
「さあ?」
冬牙は何が楽しいのか口元に笑みを浮かべそんな事を言う。
「ちょっと待ってください、本当にあれ以上服いりませんからね、着まわせませんからねっ!」
「あって、損はないだろう。」
「そうよね。」
「二、三着あれば十分に一週間着まわせますっ!」
「駄目だな。」
「ええ、駄目よ。」
「何でっ!」
「せっかく若いんだから何でもチャレンジしないと。」
「すぐに襤褸くなるだろうが。」
「うぐ…。」
物を大切にする和希にとって冬牙の言葉は少しぐさりと刺さった。
「でも、でも、どうせ来年になったらなったで同じやり取りをするんだし…。
それに洗い方だって工夫すれば問題なんてないし。」
「だーめ。」
「駄目だ。」
「……。」
妙に意気投合している二人に和希は顔を引きつらせる。
「だ、だけど。」
「はーい、和希ちゃんの意見は却下。」
「なっ!」
「ああ、時間も惜しいし、そろそろ行きますか。」
「ええ。」
和希の腕に二人は自分の腕を巻き付ける。
「え、え、え?」
「何階から回ります?」
「そうね、上から順でいいんじゃないかしら?」
「だったら、エレベーターがいいですから…あっちですね。」
「さあさあ、かずちゃん行きましょう。」
両腕をがっしりと押さえつけられている和希はなすすべもなくずるずると目的のエレベーターホールまで引きずられるように歩かされる。
「何で二人とも楽しそうなのっ!
お願いだから私なんて放っといてっ!」
まるでシャンプーが嫌いな子猫のように和希は怯えるが二人はそれを丸っと無視して和希の為に彼女に似合う服を選ぶ。
夏希の服はまだ良心的な値段なのだが、問題は……。
「本当に止めて下さーいっ!」
常に周りに迷惑をかけないように生きている和希が恥もなくお店の中で絶叫するまで後一時間…。




