幕間・愛娘
大切な、大切な子どもだった。
ううん、今もとても大切な子ども。
自分のお腹を痛めて、命がけで産んだ宝物。
自分が育てられるか不安に駆られた時だってあった、でも、あの子の笑みを見て吹っ飛んだ。
無邪気なくせに、どこか遠くを見ることの多い不思議な子どもだった。
他の子とはどこか違うのは分かっていた、だけど、それもこの子の個性だと思っていたからそれほど心配なんてしなかった。
どちらかと言えば、一人で抱え込んでしまって、一人で解決してしまうところが心配だった。
だけど、この子には友達には恵まれていたから、この子が無茶をすればあの子たちが必死で動こうとしていた。
そのお陰で、陰から見守る事が出来た。
あの子が他の人を助ける時、たまに思うのだ、この子が助けたいのは違う人なのかもしれない。
それが出来ないから贖罪として他の人を助けているのではないか。
しかも、無意識でそうなっているように思う。
誰かを助ける事で自分を保とうとする彼女をいつからか見ているのが苦しくなった。
そこまでしなくてもいいんだよ。
もっと自由に生きていいんだよ。
何度もそんな事を言いたくなった。
でも、言ったところでこの子は分からないだろう。
見ている事しか出来なかった。
とても苦しくて、悲しくて笑顔の仮面がはがれそうになった事なんて両手じゃ足らないだろう。
本当は夏子のお願いだって断ろうと思った。
でも、あの時のこの子の表情が僅かにだけど違ったのだ。
それは良い事なのか。
悪い事なのか分からなった。
だけど、逃げ出そうとするのはきっとこの子の為にはならないと思っていたし、それに夏子がずっと気にかけていた子だって正直心配してない訳じゃなかった。
これが吉と出るか凶と出るか分からなかった。
それでも、一歩前に踏み出すこの子は本当に強い子なのだろう。
逃げる事も、避ける事も出来るのに真正面から挑み、そして、こうして手なずけるだなんて。
本当に誰に似たのかしら?
さて、夏子を心配させ、愛娘を困らせるこちらのお坊ちゃんは一体どんな子かしらね?
ふふふ、おばさん可愛がってあげますからね。




